太田述正コラム#2145(2007.10.25)
<防衛省不祥事報道に思う(続x5)>

1 始めに

 コラム#2141で「私はゴルフ代は守屋(夫妻)が全額払っていたとみなすべきだと考えている」と書いたのに、どなたも、何のコメントもお寄せにならないので拍子抜けしています。
 そこで、このことをもう少し説明しておきます。

2 英国でのこと

 1988年に英国の国防省の大学校(Royal College of Defence Studies)に「留学」した時、「留学生」に特権が与えられたことに目を丸くしました。
 5つくらいのクラブ・・イギリスのクラブ、social club のことですよ・・の一年間の名誉会員にしてもらえたのです。
 その中には、ゴルフクラブが一つと、ロンドンの都心の一等地のペルマルにあるクラブハウス(2階以上は宿泊施設、地下にはプール)に加え郊外にもクラブハウスのあるクラブが一つ含まれていました。
 前者はロンドンの西方のヒースロー国際空港に近い市中にあるRoyal Surrey Golf Club(RSGC)であり、後者は、Royal Automobile Club (RAC。日本のJAFに相当する組織のクラブ)でした。後者の郊外のクラブハウスは、ゴルフコース付きのクラブハウスでした。このゴルフコースはロンドンの南方の郊外のエプソムの競馬場の近くでした。
 宿舎(英陸軍の官舎)からは、前者は車で15分、後者は車で30分の距離でした。
 何せ20年近く前のことなので、若干の記憶違いはあるかもしれません。
 RSGCでは、平日名誉会員であり、夏場はロンドンの日没は遅く、かつ大学校の「授業」が終わるのは午後一時なので、それからでも十分1ラウンドのプレーができます。水曜は、「学生」のコンペの日でした。
 RACでは、週末もプレー可能な名誉会員であり、しかも、「学生」の配偶者も名誉会員扱いでした。
 (名誉会員証は確か与えられたと思うし、ゴルフコースでは名誉会員証を提示したことがあったのではないかと思いますが、ペルマルのRACのクラブハウスを初めて訪れた時、ドアを開けてくれたスタッフが、私の顔を見た瞬間、「太田様、いらっしゃいませ、お待ちしておりました」と会釈したのにはたまげました。顔写真が事前に配布されていたのでしょうが、留学生だけで40人くらいの顔と名前を全部覚えたということですから・・。日本の例えば学士会の学士会館には、非会員も、来館目的を記して署名すれば入館できますが、イギリスのクラブには、会員同伴でなければ入館できなかったと思います。ちなみに、食堂に女性は入れません。ただし、RACの場合、ゴルフコースのクラブハウスの食堂には女性も入れました。)
 
3 私が言いたいこと

 「学生」達は、英国の「学生」も外国からの「学生」も、大佐か准将クラスで、少数いたシビリアンも大佐か准将相当でしたが、この程度(?)でも、大学校の格式が高いということもあるのでしょうが、以上のような待遇を受けるわけです。
 忘れてはならないことは、日本以外の世界の国々では、そもそも軍人は特別扱いされる対象だということです。
 ですから、海外に行けば自衛官だって特別扱いされるし、そのお相伴で当時の私のようなシビリアンだって特別扱いされる場合がある、ということなのです。
 どうしてかって?
 命をかけて公のために働いている人々である軍人が尊敬の対象になるのは当たり前ではありませんか。
 また、たまたま取り上げた二つのクラブの名称にどちらもRoyalがついていることにお気づきになりましたか?
 英国の海軍と空軍の正式名称もRoyalから始まります。(陸軍にはRoyalがつかないのは面白いですね。その代わり、王族達が連隊の名誉連隊長等を勤めます。)
 つまり、王室と近しい関係にある組織・機関は、特に軍人を大切にする、ということです。
 これも万国共通であり、国家元首にとって最も重要な役割は、軍隊の総指揮官としての役割であり、軍人は国家元首にとって最も近しい存在なのです。
 これにひきかえ、戦後の日本は何と異常な国なのでしょうか。
 日本の軍人たる自衛官は国ために死ぬことを禁じられています。
 もちろん日本の皇室から自衛隊は完全に切り離されています。
 死ぬことを禁じられている軍人なんて、単なる不労所得者、と言って悪ければ単なる年金生活者ではありませんか。
 そんな自衛官に対し、国民の多くが敬意を抱くどころか内心蔑み哀れんでいたとしても不思議ではありません。だからこそ前回のコラムで引用した加藤氏のような不用意な発言も飛び出すのです。
 われわれは全員米国の保護国に住む原住民です。
 宗主国米国は、自立心を忘れ、倒錯の世界に生きているわれわれを、「蔑み哀れんで」見下しています。
 保護国の原住民としての生き様に徹するのなら、自衛隊を廃止して、防衛費は思いやり経費だけにして全部宗主国の米国に貢いでしまえばいいのです。そうすれば、今のままではドブに棄てているに等しい防衛費も米国によってより活かされるでしょう。われわれは、米国からの更なる「蔑み哀れ」みの視線に耐えればいいだけのことです。
 いずれにせよ、そんな日本が、米国と合邦したい、連邦議会に代表を送りたい、大統領選挙にも加わりたいと言っても、相手にされないこと請け合いです。

4 終わりに

 防衛省キャリアは、国内からと米国からの二重の蔑視に晒され続ける生涯を送ります。 やがて、彼らは蔑視に鈍感になっていきます。蔑視に晒されていることすら忘れようとします。自己防衛機能というやつです。
 しかし、いかに蔑視に対する耐性ができたとしても、防衛省キャリアの大部分の精神が蝕まれ、ゆがんで行くのはごく自然なことなのです。
 (正確には、日本国民一般に比べて、より精神が蝕まれ、ゆがんで行くと言うべきでしょうね。)
 彼らには、大集団を統率し、防衛装備を使い、訓練をするという、自衛官の幹部のような逃げ道すら与えられていないのですよ。
 その彼らの手に5兆円近くの防衛費が、気前のよいこと夥しい国民から、本来の用途以外に使えと言われて委ねられているわけです。
 好き放題に使ってなぜ悪いのですか。
 当然その彼らに政治家と業者、更には基地周辺住民が群がり、防衛費をむさぼりあう。
 それが、今回の守屋事件の背景です。
 
 守屋氏は悪い。
 しかし、ゴルフを、会員なら8,000円のところを、夫婦共々、1人1万円も出してプレーしていた点だけをとらえれば、守屋氏は何も悪いことをしていません。
 そのゴルフ場が、うさんくさい山田洋行の関係会社のゴルフ場であったことは確かですが、日本の一流ゴルフ場の中に、自衛官の将官クラスやこれに相当する防衛省のシビリアンに、名誉会員証を提供する所が一箇所もない日本がおかしいのです。
 守屋氏をこれ以上叩くのは止めましょう。
 守屋氏は、あなた方がつくったのです。あなた方の被害者なのです。
 加藤氏のような政治家はいくら叩いても良い。
 心優しい皆さんには、その政治生命を復活させる用意があるからです。
 しかし、防衛官僚は、一度水に落ちてしまえば、後は死ぬだけだからです。あなた方には防衛官僚を復活させる手段も意思もないからです。
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太田述正コラム#2146(2007.10.25)
<防衛省不祥事報道に思う(続x6)>

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