太田述正コラム#2053(2007.9.9)
<反米に転じた台湾>(2007.10.10公開)

1 始めに

 台湾で反米感情が急速に高まっています。
 韓国といい、台湾といい、日本の裏庭とも言うべき所で地滑り的変化が起きているわけです。

2 ブッシュ政権の台湾政策の変更

 ことの起こりは、台湾の陳水扁(Chen Shui-bian)総統が、(中華民国ではなく)台湾という名前で国連加盟を申請することの可否を問う住民投票を行う意向であることに対し、8月27日、ネグロポンテ(John Negroponte)米国務副長官も台湾という名称で国連加盟を申請する可否を問う住民投票に向けての動きを、独立宣言への布石であって反対であると批判していたところ、8月30日に、米国の国家安全保障会議の上級東アジア担当官のウィルダー(Dennis Wilder)が「国連に加盟するためには国家である必要があるが、台湾または中華民国は、現時点においては国際社会における国家ではない」と述べたことです。
 これは、米国のこれまでの台湾政策の変更を意味すると同時に、米国の国内法である台湾関係法(Taiwan Relations Act)で台湾を実質的に国家とみなしていることとも齟齬を来す話なのです(注)。

 (注)台湾の国際法的地位については、コラム#182、188、200、247、260、267〜269参照。なお、
http://www.taipeitimes.com/News/editorials/archives/2007/08/09/2003373386
http://www.taipeitimes.com/News/editorials/archives/2007/08/17/2003374626
もよくまとまっている。

 ブッシュ政権は、当初台湾寄りの姿勢を打ち出していたのですが、9.11同時多発テロ以降対イラク戦争を目前にして、中共の協力を得る必要があることから、中共寄りに軌道修正し、その後、北朝鮮の核問題やスーダンのダルフール問題等、中共の協力を得る必要がある案件が続出していることもあり、中共寄りの姿勢のまま現在に至っています。
 思い起こせば、2004年10月に当時のパウエル(Colin Powell)米国務長官が、香港のTVのインタビューで「中国は一つしかない。台湾は独立しておらず、国家としての主権を保有していない(does not enjoy sovereignty as a nation)」と答えたことがあり、当時は、アドリブで答えてとちったのだろうと考えられていたのですが、今にして思えば、ウィルダーの述べたことは、当時から一貫してブッシュ政権の公式見解となっていたわけです。

 (以上、
http://www.taipeitimes.com/News/taiwan/archives/2007/09/08/2003377770
http://www.taipeitimes.com/News/editorials/archives/2007/09/08/2003377813
(どちらも9月9日アクセス。以下同じ)

3 台湾朝野の反発

 このウィルダー発言に対しては、台湾政府、最大与党の民進党、最大野党の国民党がいずれも非難声明を出しました。
 国民党がどこが違うかと言えば、陳水扁総統が中華民国名ではなく、台湾名で国連加盟申請をする可否を問う住民投票を口にしてきたことが、ウィルダー発言をもたらした、ということを言っている点だけです。
 (以上、
http://www.taipeitimes.com/News/front/archives/2007/09/01/2003376690
http://www.taipeitimes.com/News/taiwan/archives/2007/09/02/2003376880
による。)

 陳水扁総統は、国民党の言う、中華民国名での国連加盟など、台湾名での加盟よりもっと米国の賛同を得られないと国民党を批判しつつ、米国政府に対しては、米国が、蒋介石の独裁政権を支え、しかも住民の多数によって選ばれ、民主主義・自由・人権・平和・正義の実現を目指している台湾政府の方針を支持しないのはもってのほかである、と批判しました(
http://www.taipeitimes.com/News/taiwan/archives/2007/09/02/2003376879
)。
 台湾の有識者達も、次々と米国を批判しており、これまでほとんど反米感情が存在しなかった台湾の世論が急速に変化しつつあり、このまま行けば、台湾は反共・反米国家になるかもしれない、という声が出てきています(
http://www.taipeitimes.com/News/taiwan/archives/2007/09/02/2003376881
)。
 8月30日から9月2日にかけて台湾で実施された世論調査によると、米国が一番好きと答えた人は17%と、昨年の32%から15%も激減しました。また、日本と答えた人は38%(昨年は35%)、韓国と答えた人は10%(昨年は11%)、中共と答えた人は7%(昨年は9%)でした。分からないと答えた人と答えなかった人は29%でした。
 ちなみに、中共が嫌いな人が一番多かったのは20歳から29歳までの年齢層であり、これに次ぐのが50歳から59歳までの年齢層です。
 要するに、もともと日本好きより少なかった米国好き人間が若年層を中心に激減し、日本好き人間は微増し、中共好き人間は消滅に向かいつつある、ということです。
 (以上、
http://www.taipeitimes.com/News/taiwan/archives/2007/09/07/2003377582
による。)

4 終わりに

 東アジアで反自由民主主義勢力勢力に肩入れする米国を見ていると、米国が戦前犯した過ちを思い出すのは私だけではありますまい。
 米国は、戦前、ファシズムの中国国民党とスターリン主義の中国共産党に肩入れして自由民主主義の日本の足を引っ張ったのですが、戦後は引き続きファシズムの中国国民党に台湾で肩入れを続け、今では中共、すなわち中国共産党に再び肩入れする一方で自由民主主義の台湾の足を引っ張っているわけです。
 米国のアジアにおける自由民主主義の推進は、戦前も戦後も現在も口先だけであることがよく分かりますね。
 自由民主主義の台湾は、戦前台湾において文明開化を推進した日本の努力の結晶です。
 だからこそ、現在台湾の熱い目が日本に注がれているのです。
 しっかりせよ、日本。