太田述正コラム#1728(2007.4.11)
<宗教を信じるメリット?(その3)>(2007.10.9公開)

 (3)宗教が成立するプロセス

 こういう実験があります。
 一郎が箱Aにビー玉を入れたところ、花子が一郎に黙ってそのビー玉を箱Bに入れなおしたとします。
 乳児や自閉症の子供は、一郎はビー玉を取り出そうとする時、箱Bを開けるだろうと指摘します。しかし、年長の幼児は、心理読解/誘導ができるようになっているので、何も知らない一郎は箱Aを開けるに違いないと正しく指摘します。
 
 次にこういう実験があります。
 幼児に、お菓子の写真が貼り付けてある箱を見せて中に何が入っていると思うかと聞きます。
 すると、彼らは、お菓子だと答えます。
 ところが、この箱を開けると中には小石が入っています。
 その上で2番目、3番目の質問をします。
 お母さんなら何が入っていると言うだろうかね。また、神様だったらどうだろうか、と。
 3〜4歳の幼児は、母親は無謬であって、かつ自分達は正解を知っているのだから、母親も正解をお見通しで、入っているのは小石だと言うだろうと答えるのです。
 それに対し、5〜6歳の子供の多くは、母親も他の人間同様間違った認識を持つことがありうることを知っているので、母親は中に入っているのはお菓子だと言うだろうと答えます。
 まさに、彼らは心理読解/誘導ができるようになっているのです。
 その彼らは、神様だったらどうだろうか、と聞かれると、神様はだまされることはないので、中に入っているのは小石だと言い当てる、と答えるのです。(当然、3〜4歳の幼児も同様に答えます。)
 ここから、心理読解/誘導能力の副産物としての宗教感覚が5〜6歳の子供の多くには既に備わっていることが分ります。

 ただし、これがいかなる宗教感覚かは、文化によって違ってきます。身につける言語が違ってくるのと同様、一つの神か沢山の神か、魂は天国に行くのか輪廻するのか、といった違いが生じるわけです。

 ところで、どんなものが宗教意識を高揚させるのでしょうか。
 奇妙な代物をいくつも見せて、どれに一番宗教性を感じるかを聞いた実験があります。
 その結果、人間は、あまりに現実離れしたもの、たとえば、言葉をしゃべったり登ったりする亀とか、悲鳴を上げたり花を咲かせたおはじきより、くすくす笑う海藻とか、すすり泣く樫の木とか、話す馬の方により宗教性を感じることが分りました。
 だからこそ、人間そっくりだけどすべてをご存じである神様とか、精神だけあって身体のない神様、が神様らしいということになるわけです。

 ただし、当然ながら、この、ちょっとだけ現実離れしている、ということだけでは不十分なのであって、それに感情的要素がつけ加わらないと宗教にはなりません。
 そのための仕掛けが儀式です。
 人間は、仕事をしながら歌ったり体を揺ったりするといった、創造的かつリズミカルな営み、すなわち儀式、に自発的に従事することで協力性を高める唯一の動物です。儀式こそ宗教を宗教たらしめるのです。
 その儀式が、死に関連したものであると、効果が最も大きいとされています。
 キリスト教にとって、イエスの受難の絵や彫刻(Stations of the Cross)を前にした儀式が持つ意味の大きさがここにあります(注6)。

 (注6)ただし、カトリック教会と英国教会とルター派に限る。一般に、キリストへの死刑の宣告からキリストの磔を経て埋葬までの14場面が描かれたり彫刻にされたりする。(
http://en.wikipedia.org/wiki/Stations_of_the_Cross
。4月11日アクセス)

 (4)宗教・適応説

 ここで、補足的に宗教・適応説、つまりは宗教が少なくともかつて人間が環境に適応するのに役立ったとする説についてもご説明しておきましょう。

(続く)