太田述正コラム#2111(2007.10.8)
<海自艦艇インド洋派遣問題(続)(その1)>

 (本篇は、コラム#2062、2066の続きです。)

1 始めに

 海自艦艇インド洋派遣問題は迷走を続けています。
 二つの論点を取り上げてみました。

2 給油活動は無意味

 防衛省は9月28日、海上自衛隊の補給艦の多国籍軍の補給艦に対する給油実績について、105回、計26万7,000キロリットルに上り、給油量全体(777回、計48万4,000キロリットル)の55%占めていることを初めて明らかにしました。
 補給艦への補給の相手国は米英だけで、米国が大部分を占めると考えられますが、同省は、海上自衛隊から給油された米英の補給艦が給油した艦船名や時期は相手国の同意が必要として公開しませんでした。
 
 (以上、
http://www.asahi.com/politics/update/0928/TKY200709280364.html
(9月29日アクセス)、及び
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%87%AA%E8%A1%9B%E9%9A%8A%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%89%E6%B4%8B%E6%B4%BE%E9%81%A3
(10月9日アクセス)による。)

 このような形で給油された燃料が、目的外のイラク戦争に転用されていたとの疑惑が浮上している問題(注)で、米国防総省は、日本政府の照会に対し、10月6日までに「目的外に用いたことはない」と明確に否定する回答を寄せました。

 (注)「米補給艦「ペコス」が2003年2月25日朝に補給艦「ときわ」から、約83万ガロンの給油を受けたが、ペコスはその後ペルシャ湾方面に移動、同日午後に米空母「キティホーク」に「ときわ」からの燃料を含むディーゼル燃料を給油していた。キティホークは補給後ペルシャ湾に入り、イラクに対する「サザン・ウォッチ作戦」(イラク戦争開戦前)に従事したとみられている。」(ウィキペディア上掲)

 ただし米当局者は、米艦船の運用では、対テロ戦、イラク戦を問わず、気象データを含むさまざまな情報収集や偵察、調査活動、艦船同士の警護などの任務を複数の艦船が同時にこなすのが通例で、航海中の艦船の活動をテロ対策の海上阻止行動という単独任務に限定することはできないと言明しています。

 (以上、特に断っていない限り
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2007100601000542.html
(10月7日アクセス)、及び
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2007100701000182.html
(10月8日アクセス)による。)

 要するに、これは私が以前(コラム#2066で)指摘したように、インド洋の米艦船の任務を対テロ戦とイラク戦に截然と分けることなど不可能だと言っているのであって、日本国内での議論の非常識さを嗤っているのです。

 さて、各国別の給油回数(ウィキペディア前掲)や以上のことから、燃料の約半分は米艦船に(、しかもその大部分は米補給艦への給油の形で)提供されてきた、と考えられます。

 ここでまず問題になるのは、日本が米艦船(艦載ヘリを含む)に無償で燃料を提供してきたことです。
 これは、事実上日本の米国に対する思いやりの一環であるととらえる必要があります。
 米国がそう受け止めている可能性を示唆しているのが、現在本格化している日米両政府の思いやり予算に関する新特別協定締結協議において、米側が軍事負担増を理由に電気、ガス、水道代など光熱水料・・2007年度予算は253億円・・の大幅増額を求めている(
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2007100701000464.html
。10月9日アクセス)ことです。
 これは、テロ特措法の失効でインド洋で米艦船が日本から給油を受けられなくなることを見越して、思いやり予算総額の減少を類似項目で補填しようとしている、と勘ぐられても仕方のない動きです。
 私はそもそも、思いやり予算全廃論者ですが、在日米軍基地の従業員の人件費であれ光熱水料であれ、日本が全額負担することがいかに米軍において無駄遣いを生むかを指摘してきました(拙著『防衛庁再生宣言』参照)。
 インド洋で燃料を全額日本側負担で海上自衛隊の補給艦が米艦船に提供することは、やはり米軍において無駄遣いを生むだけでなく、その間米軍の補給艦を一隻遊休化させるという無駄も生んでいます。
 このような無駄を回避するためには、日本が米国に対し、対アフガン戦の戦費の一部として、燃料代見合いのカネを提供した方が良いのです。
 
 次に問題になるのは、日本が米国以外の国の艦船(艦載ヘリを含む)に無償で燃料を提供してきたことです。
 日本が給油してきたパキスタン・フランス・カナダ・イタリア・英国・ニュージーランド・ドイツ・ギリシャ・スペインのうちパキスタンは発展途上国であり、燃料を提供する代わりに燃料代見合いの無償資金協力をした方がよいと以前(コラム#2062で)申し上げたところです。
 それ以外の諸国は先進国であり、給油するとしても、代金をもらってしかるべきです。
 これら諸国は、米国と違って、日本の安全保障に関し条約上の義務を負っているわけではないのですから、米国に対してすら行うべきでない「思いやり」のようなことを、日本がこれら諸国に対してやってやる必要は、全くありません。
 フランスはこれを快しとはしなかったのでしょう。
 日本からインド洋で給油を受けていることへのささやかな返礼として、2005年にフランスを訪れた日本の練習艦隊の3艦に寄港先のブレストで3,300万円相当の燃料を無償提供しています(ウィキペディア前掲)。
 
 このように、海上自衛隊補給艦による多国籍軍への無償給油の意義は経済的に見て全くありませんし、あえて言えば軍事的に見てもほとんどないのです。
 ですから、こんなべらぼうな給油活動など、補給艦に同行している海上自衛隊の護衛艦の隠された任務(コラム#2062)のカムフラージュのためにやっているのでなければ、決して行うべきではないのです。

(続く)
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 有料版のコラム#2112(2007.10.8)「完全なスパイ(その2)」のさわりの部分をご紹介しておきます。