太田述正コラム#1699(2007.3.22)
<日本人のアングロサクソン論(続)(その4)>(2007.10.5公開)

 (3)ヒュームは英国最大の哲学者?

 「イギリス史を論じる時に、特定の人物の役割を過大視することは禁物であること」は、渡部がヒューム(David Hume。1711〜76年)について、「イギリス最大の哲学者といってもいいかと思う」(135頁)(注8)と記している点にもあてはまります。
 
 (注8)渡部は「イギリス」を、私の用法で言う「英国」の意味で使っている。ヒュームはスコットランド出身だ。

 しかし、グーグルで検索して出てくる、上位の英米のサイト4つを調べた(
http://plato.stanford.edu/entries/hume/(米):A、
http://atheism.about.com/library/glossary/general/bldef_hume.htm(米):B、
http://www.iep.utm.edu/h/humelife.htm(米):C、
http://en.wikipedia.org/wiki/David_Hume(英):D
(いずれも3月17日アクセス))範囲では、そのうちの一つ(A)が、「英語で書いた最も重要な哲学者であると一般に認識されている」と記しているだけで、残り三つは、そんなことは言っていません。
 それどころが、Cの一環であるサイト(
http://www.iep.utm.edu/b/berkeley.htm
。3月17日アクセス)は、ヒュームをロック(John Locke。1632〜1704年)、バークレイ(George Berkeley。1685〜1753年)(注9)とともに、18世紀における最も有名な英国の経験論者(Empiricist)として位置づけているにとどまります。

 (注9)アイルランド出身。ただし、父親はイギリス人。

 そこで今度は、偉大な哲学者リストの中にヒュームがどのように登場するかを調べてみました。
 まず、英国の偉大な哲学者28人のうちにヒュームが登場する(
http://atheism.about.com/library/FAQs/phil/blphil_bios_brit.htm(a)
。3月17日アクセス(以下同じ))のは当たり前でしょう。
 そして、欧米(West)の偉大な哲学者39人中の1人とされる(
http://www.philosophypages.com/ph/index.htm(b)
)(コラム#1697)のもまた不思議ではありません。
 ところが、ホッブス(Thomas Hobbes。1588〜1709年)やロックやバークレーとともに世界の偉大な哲学者9人中の1人とされる(
http://library.wustl.edu/subjects/philosophy/famous.html(c)
)一方で、ホッブス、ロック、ミル(John Stuart Mill。1806〜73年)、フェミニストのウォルストーンクラフト(以上イギリス)、法哲学のロールズ(John Rawls。1921年〜)(米国)を始めとする世界の偉大な哲学者11人中にヒュームは選ばれていません(
http://www.dwc.edu/library/famous_philosophers.shtml(d)
)。
 ちなみに、英国のペンギン社が選んだところの、偉大な哲学者ではなく、偉大な思想家20人(ただし、短編の名著をものしている人物に限る)(e)の中にもヒュームは挙げられていません(コラム#471)。

 以上から分かることは、ヒュームは、イギリス、ひいては英国の経験論の伝統(コラム#46)の中に位置づけられる哲学者群像のうちの重要な一人に過ぎない、ということなのです(注10)。

(注10)それにしても、この5つのリスト中、ウォールストンクラフトが、(b)、(d)、(e)の三つに登場することは、現在の米英においてフェミニズムが重視されているあらわれとして、われわれは心すべきだろう。

(続く)