太田述正コラム#2103(2007.10.4)
<ベルギー解体へ?(続)>

1 始めに

 先月、ベルギーが解体の危機に直面していると(コラム#2071(未公開)で)申し上げたところですが、解体後どうするかの議論が出始めています(
http://home.online.no/%7Evlaenen/flemish_questions/quste27.html
10月4日アクセス)。
 英国の、より正確にはイギリスのブロッガーの間では、解体後のベルギーの北部のフランダース地方(オランダ語地域)とイギリスが合邦すべきだとする主張が出ています。
 まだジョークの域を越えていないと言うべきかもしれませんが、彼らの議論が面白いのでご紹介しましょう。

 (以下、特に断っていない限り
http://www.bbc.co.uk/blogs/thereporters/markmardell/2007/10/flemish_flamenco.html
http://thehuntsman2007.blogspot.com/2007/09/kingdoms-in-ferment.html
http://thehuntsman2007.blogspot.com/2007/09/flemish-musings.html
(いずれも10月4日アクセス)による。

2 イギリスとフランダース合邦論者の主張

 ベルギー解体後のフランダースは独立するとか、オランダと合邦するという議論がもっぱらだが、プロテスタントのオランダとカトリックのフランダースとの間で何度となく宗教戦争が戦わされた歴史に鑑みれば、少なくともオランダとの合邦はない。
 むしろ可能性が高いのはイギリスとの合邦だ。
 時あたかも、英国はスコットランドが分離しようとしており、社会主義的である上イギリスの財政的負担になっているスコットランドが分離してくれることはイギリス人としては歓迎だ。
 他方、ベルギーがフランダースとワロニアに分かれようとしているのは、言語の違いとともに、ワロニアが社会主義的である上フランダースの財政的負担になっているからであり、イギリスとフランダースは共通点がある。
 フランダースがイギリスと合邦すれば、イギリスは欧州に橋頭堡を確保することとなり、社会主義的なEUから脱退する契機たりうる。
 ちなみに、ワロニア人はフランス語が母国語であってほとんど英語ができないのにタイし、フランダース人はほとんどの人が英語ができる。この点でもイギリスとフランダースの合邦に問題はない。
 ベルギーの首都ブリュッセルはフランダースの中のフランス語地区であり、分離後フランダースと一緒になるかどうかは不明だが、ロンドンとブリュッセルは汽車で3時間と近い。(これに対し、ロンドンとスコットランドの首都であるエジンバラは汽車でも車でも6時間かかる。)
 ベルギー王室はフランス語を母国語としており、フランダース人はこの王室をワロニアに熨斗を付けて献上するだろうが、ベルギー王室はイギリス(英国)王室と本来同じサックス・コーブルグ・コーダ(Saxe-Coburg-Gotha)家であり(コラム#2071)、フランダース人がイギリス王室をいただくことに心理的抵抗があるとは思えない。(ただし、その場合、英国王や女王はカトリックと結婚できないという英国の法律は改正する必要があろう。)
 また、イギリス人もフランダース人もビールが大好きであるという共通点もある。
 更に言えば、1839年のロンドン条約に明記された義務に基づき、1914年に英国はベルギー防衛のために4年間フランダースでドイツと戦ったし、1940年には再びベルギーを守るため、そして1944年にはベルギーを解放するためにフランダースでドイツと戦い、何万人もの英国及び英連邦の戦死者がフランダースに眠っている。
 歴史を遡れば、アングロサクソンの大部分は今日の低地地方(Low Countries=ベルギー+オランダ)から渡来したのだ。(ちなみに、英語に一番近い言葉はオランダ北部のフリージア(Frisian=Frieslandの言語)語だ。)
 それに何と言っても決定的なのは、フランダース人の多くが、現にイギリスに強い親近感を抱いていることだ。
 
3 感想

 宗教だけはイギリスは国教会、フランダースはカトリックと異なりますが、国教会はプロテスタントとカトリックの折衷的な宗派であり、また、イギリスもフランダースも世俗化が進んでいるので、合邦の妨げにはならないでしょう。
 案外瓢箪から駒、ということになるかもしれませんね。
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 コラム#2104(2007.10.4)「ミャンマー動く(特別編)(続x4)」のさわりの部分をご紹介しておきます。
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 ミャンマー情勢を見ていると、改めて経済制裁のむつかしさを感じます。
 経済制裁否定論と肯定論をそれぞれご紹介した上で、対ミャンマー経済制裁をめぐる現在の状況をご説明しましょう。
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 <ミャンマーに対する経済制裁・・否定論>

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 ・・ミャンマーのような国に対しては経済制裁は効果が乏しい。
 1962年にネウィン将軍が権力を掌握すると、彼は鎖国をし、外国からの投資も観光客も禁止し、自給自足体制をとった。
 現在の軍事政権は、経済開放政策をとってはいるものの、ネウィン政権の承継者であって国際的孤立を懼れてはいない。だから、権力を失うくらいなら経済制裁は甘受する。
 それに、経済制裁と言っても、それは西側諸国による制裁であって、中共は経済政策に加わらないだろう。とどのつまりは、ミャンマーを中共に一層なびかせるだけの結果になる。
 仮に完全な経済制裁が課され、それが功を奏して軍事政権が倒れたとしても、その場合、ミャンマーは多民族国家であることから、現在のイラクのような混乱が生じる可能性が高い。

  <ミャンマーに対する経済制裁・・肯定論>

 経済制裁否定論は、ためにする議論だ。
 ミャンマーにおけるアウンサン・スーチー女史・・以下の反政府活動家達は、経済制裁を求めている。彼らの呼びかけに答えるべきだ。
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 それに、経済制裁否定論を西側で唱えているのは、ミャンマーの人権問題よりは石油や天然ガスに関心のある連中が中心であることも忘れてはならない。

 ・・<さて、>対ミャンマー経済制裁をめぐる現在の状況<は以下の通りです。>

 天然ガスの輸出は2006年の輸出総額の三分の一から二分の一を占めており、うち約20億米ドルはタイへの輸出です。これらのカネは軍部を潤しているが、一般市民は全く裨益していません。
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 このところのミャンマー情勢の緊迫化を受けて、アセアンはミャンマーの軍事政権批判に転じ、経済制裁論議も出てきていますが、一番肝腎なタイの現在の暫定軍事政権が経済制裁に賛成する可能性は低いと見られています。
 また、フランスのトタル・・が率い・・ているところのコンソーシアムが、・・ミャンマー最大のヤダナ・・天然ガス田の採掘を行っており、毎年約20億米ドルの収入を軍事政権にもたらしているこの事業からトタルが手を引けば、政権にとっては大きな打撃になります。
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 しかし、フランスのサルコジ・・政権が、トタルに働きかける気配はありません。
 タイやフランスのほか、中共・インド・日本・韓国・ロシア・豪州・マレーシア・・・シンガポール等がミャンマーの石油や天然ガス事業に関わっていますが、中共・ロシ・マレーシア・シンガポールはともかくとして、自由民主主義国であるフランス・インド・日本・韓国・豪州が手を引けば、更に大きな打撃を加えることができます。しかし、インドにその気配は全くありません。
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 EUは・・経済制裁を強化する決定を行いました。・・
 日本は、・・デモの弾圧と長井さん殺害を受け、・・援助の更なる削減を検討すると高村外相が語ったところです。
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 このように国際世論は、経済制裁の強化に傾きつつあるわけですが、国連安保理常任理事国である中共とロシア、とりわけ中共の動向が注目されます。