太田述正コラム#1689(2007.3.12)
<日本人のアングロサクソン論(その1)>(2007.9.27公開)

1 始めに

 私が自分のアングロサクソン論の発信を積極的に始めてから、早くも6年経ちましたが、読者の皆さんの中から、同じようなことを他の人も言っているよ、というご指摘が出てこないところを見ると、私の見解はかなりユニークであるようですね。
 これは、必ずしもうれしい話ではないのであって、ひょっとすると、私の見解は箸にも棒にもかからない誤りである可能性があります。
 もちろん、私自身は自分の見解が誤っているとは思っていませんが・・。
 さて、今まで余りやったことがないのですが、これまでの日本人のアングロサクソン論の月旦を試みることにしました。
 日本人のアングロサクソン論といっても範囲が広いので、まずは経営学的な観点からのアングロサクソン論から始めましょう。

2 橋本久義教授

 橋本氏は、元通商産業省技官、埼玉大学教授を経て現在政策研究大学院大学教授をされている人物です。
 たまたま目にした同教授のコラム、「外資系の企業倫理はこんなに厳しい」
http://business.nikkeibp.co.jp/article/tech/20070226/119785/
。3月9日アクセス)の要旨は次のとおりです。
 なお、橋本氏は、○○社という外資系企業の話をされているのですが、外資系企業イコール米国系企業とみなし、橋本氏はアングロサクソン論を展開されている、と勝手に解釈させてもらいました。

 外資系○○社では、入社するとすぐに、役員だろうが普通の社員だろうが、「○○社の倫理規定に従います。反した場合には解雇されても異議を唱えません」という誓約書にサインする。日本の会社でも誓約書にサインするということはあるが、○○社は2年に1度これをやる。
 その内容だが、例えば「私は会社の秘密を外部に洩らしません」という項目がある。日本と違うのは、「よその会社の秘密を聞きません」という項目があることだ。要するに談合に対してものすごく厳しく考えているのであって、米国では同業者の会合には必ず弁護士を立ち合わせて、談合のような事実がないように監視する。
 倫理規定には、「法令違反であるようなテーマが議題になったら、それに対して、『その議論をしてはいけません』ということを議長に対して言いなさい」とも書いてある。「もし、会議メンバーがその話をやめないならば退場しなさい」とも書いてある
 更に、「我が○○社の機械を買ってくれたら、貴社の何かを買います」とか「おたくに委託します」という、いわゆる相対取引は絶対やっちゃいけないとも書いてある。この規定に違反した社員がいて当然クビになったが、その上司も責任をとらされてクビになったという。
 はたまた、顧客からの贈答品は決してもらってはいけない、どうしても拒否できなかった場合は会社に持参せよ、会社の方で送り返す、という規定もある。
 残業に対する考え方も日本の会社とは全く違う。○○社では残業しないことに価値があるのであって、評価の基本は、「あなたがやっている仕事を、何時間かけて完成させたか」だ。だから、残業を減らす。○○社に入った時に成績を上げるために部下に残業をどんどんやらせて人物は怒られたという。

 さあ、これを読まれてどう思われましたか。
 私には、面白くも何ともありませんでした。
 ○○社は米軍や自衛隊そっくりだからです。
 大変失礼ながら、戦後育ちの日本人の通弊で、橋本氏も軍隊のことを全くご存じないな、という感想を私は持ちました。
 軍隊においては、将校や兵士が敵(企業の場合で言えば、競争会社や購入/販売相手)に内部情報を漏らすことは厳禁ですし、敵と通謀するなどということはもってのほかです。
 また、市民生活においては許されないところの、殺傷等を主たる仕事にしているだけに、将校や兵士は逆に規則でがんじがらめにされています。
 そして軍隊においては効率性・効果性が重視されるのであって、むやみやたらに敵を殺傷すればよいというわけではなく、敵の戦意をくじいたり敵を制圧するため以上の殺傷は控えますし、自分達の側の損害やコストを最小に抑えるようにも努めます(注1)。

 (注1)自衛隊は、各幕僚監部こそ、日本の中央官僚機構とお付き合いしなければならないことから、残業が普通だが、部隊へ行けば、5時には一斉に勤務棟から人影が消える。在日米軍は、司令部も含めて、4時半には勤務棟の大部分の灯りが消える

 つまり、アングロサクソン式企業とは、(全世界共通であるところの、)軍隊式の管理を行っている企業なのです。

3 糸瀬茂教授

 以上のことを念頭に置いて、糸瀬茂宮城大学教授が助教授時代に上梓された『アングロサクソンになれる人が成功する――なぜ彼らのビジネス・スタイルが最強なのか』(PHP研究所1998年)を俎上に載せて見ましょう。
 なお、糸瀬教授(1953年〜)は、第一勧業銀行に入行し、同行から派遣されてスタンフォード大学でMBAを取得し、その後ソロモン・ブラザース・アジア証券、DBモルガン・グレンフェル証券(東京支店副支店長)、長銀総合研究所研究員などを経て宮城大学助教授となり、教授に昇格されてから2001年になくなられています(
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B3%B8%E7%80%AC%E8%8C%82
。3月12日アクセス)。

(続く)