太田述正コラム#2088(2007.9.27)
<イスラエル空軍機のシリア攻撃(続x4)>

1 始めに

 イスラエル空軍機のシリア攻撃を踏まえて、ブッシュ政権が、本日(9月27日)から北京で再開される6か国協議にいかなる姿勢で臨もうとしているのかが、かなり鮮明になってきました。

2 シリア攻撃のターゲット

 「<イスラエルは、>空軍コマンド・チームを爆撃の数日前に現地に潜入させ、<爆撃>当日、レーザー・ビームを「農業研究センター」にあてて、戦闘機編隊を誘導させた。」と以前(コラム#2068で)記したところですが、この精鋭のサイエレット・マツカル(Sayeret Matkal)部隊に属するコマンド・チームの本当の潜入目的は、核物資のサンプルを現地で事前に入手するためであったようです。
 米国政府が、イスラエル政府に対し、明確な証拠の提供を求めたから、というのです。
 そして、イスラエルに持ち帰られた核物資の出所が分析の結果北朝鮮であることが判明し(注1)、ブッシュ政権はイスラエルによる爆撃にゴーサインを出した、というのです(注2)。

 (注1)この核物資がプルトニウムなのか濃縮ウランなのかは明らかにされていない。
 (注2)昨年12月にクウェートの新聞(Al Seyassah)がブリュッセルの欧州諜報筋の話として、シリアが東北地区で高度な核計画に従事している、と報じたことが今更のように注目されている。

 他方このところ、北朝鮮とシリアの間の、ミサイル及びミサイル用の化学弾頭に関する協力状況についても情報が明るみに出てきています。
 2004年4月22日(注3)に北朝鮮の列車が爆発・衝突事故を起こした際に、約10人のシリア人技術者達が死んでおり、北朝鮮の兵士達が防護服をつけて、シリア人達が乗っていた区画付近の残骸を片付けており、このシリア人達の遺体はただちに平壌空港からシリアの軍事輸送機でシリアに運ばれた、というのが第一点です。

 (注3)9月9日の間違いでは(コラム#473)?(太田)

 更に今年7月に、シリアの北方の都市アレッポ(Aleppo)で、スカッド・ミサイルに化学弾頭を装着しようとしていたシリアとイランの技術者達が、ミサイルの燃料が発火し爆発するという事故が起こったために何十人も死んだというのが第二点です。
 この爆発の結果、VX・サリン・マスタードガスが噴出したといいます。
 ちなみに、このスカッドは改良型であり、北朝鮮がミサイル本体の重量の軽減・筐体の強靱さの高上等に成功し、この新技術が最近シリアとイランに提供された、ということのようです。

 (以上、
http://www.timesonline.co.uk/tol/news/world/middle_east/article2512105.ece
http://www.timesonline.co.uk/tol/news/world/middle_east/article2489930.ece
(どちらも9月27日アクセス)による。)

3 ボルトンの発言

 元ブッシュ政権高官のボルトン(John R. Bolton)は26日、爆撃対象が北朝鮮がらみの核施設だったのかミサイル施設だったのか、また、北朝鮮とシリアの合弁事業だったのか北朝鮮単独の事業だったのかは分からないが、それ以外の可能性はない、と述べました。
 その上で彼は、6か国協議には反対しないと述べ、核廃棄の見返りに重油100万トンを供与するところまではよいが、北朝鮮をテロ支援国家のリストから削除し、更なる援助を行うことを可能にすべきではない、と付け加えました。

 (以上、
http://www.jpost.com/servlet/Satellite?cid=1189411494860&pagename=JPost%2FJPArticle%2FShowFull  
(9月27日アクセス)による。)

 6か国協議に反対し続けてきたボルトン(コラム#1637、1659)が態度を豹変させたのですから、これは、ブッシュ政権とボルトンが、役割分担して対北朝鮮ハト派、タカ派をそれぞれ演じてきたところ、もはやその必要がなくなったということなのではないでしょうか。
 これに関連して、彼が、「核施設」説(コラム#2060、2078、2080)から「核施設またはミサイル施設」説へと軌道修正した点も注目されます。

4 ブッシュの演説

 このように見てくると、ブッシュ米大統領が25日に国連で演説し、「すべての文明化された国々は独裁制の下で苦しんでいる人々のために立ち上がる責任を負っている」とした上で、「ベラルス、北朝鮮、シリア及びイランでは残虐な体制がそれぞれの国民の、国連人権宣言に謳われている基本的人権を否定している」と述べたことが注目されます。
 ブッシュが2002年に北朝鮮を悪の枢軸の一つとしたことが米国と北朝鮮との関係を悪化させ、昨年の北朝鮮による核実験に至った、ということを思いを致せば、これは大変な発言であると言うべきでしょう。
 念が入ったことに、同じ日、ライス米国務長官は、「北朝鮮の体制の本質について理解していない人など全くいない。・・特に大統領と私はそうだ。われわれはこれが悪い体制であることを知っている」とTVインタビューで語っています。

 (以上、
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/09/25/AR2007092500136_pf.html
(9月26日アクセス)、及び
http://www.ft.com/cms/s/0/d58f5830-6c6d-11dc-a0cf-0000779fd2ac.html
(9月27日アクセス)による。)

5 6か国協議の展望

 私は、ブッシュ政権は、核施設説が正しいことを知っていて、あえてミサイル施設説の可能性もプレスに流している、と考えています。
 つまり、核施設説で北朝鮮を追いつめて6か国協議をただちに挫折させるのではなく、重油の支援プラスアルファ程度で北朝鮮の寧辺(ヨンビョン。Yongbyon)の核関連施設を無能力化できれば、北朝鮮はプルトニウム生産能力を奪われ、これ以上核弾頭を生産することも、プルトニウムをシリア等に横流しすることもできなくなることのメリットが大きいので、テロ支援国家リストからの削除はしないという含みで、北朝鮮に決断を迫ることにした、と考えているのです。
 北朝鮮の濃縮ウラン製造技術がまだ初歩的段階にとどまっている、という判断も恐らくその背後にあるのでしょう。

 (以上、部分的に
http://www.csmonitor.com/2007/0926/p07s02-woap.htm
(9月26日アクセス)を参考にした。)

5 終わりに

 私は、一貫してブッシュ政権の対北朝鮮政策の基本はぶれていない、と指摘してきた(コラム#1637、1657等)ところですが、改めて私のこの指摘の正しさが裏付けられた思いがしています。
 再び崖っぷちに追いつめられた金正日がいかなる決断を下すかが楽しみですね。
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<太田>
 2篇コラムを書いた日の最初のコラムは、何も断っていなくても即時公開コラムです。
 なお、未公開の「ミャンマー動く」シリーズの昨日までのコラムを(典拠は削除した上)再構成して情報屋台(
http://writer.johoyatai.com/
。有料化されている)とMixiの太田述正コミュニティーの掲示板に掲載してあります。
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 コラム#2089(2007.9.27)「朝鮮戦争をめぐって(その1)」のさわりの部分をご紹介しておきます。
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1 始めに

 今年4月に交通事故で亡くなったハルバースタム・・の遺作・・についてのいくつかの書評を読んで感じたところをご披瀝したいと思います。

2 書評と感想

 (1)ワシントンポスト

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 「マッカーサー・・は、・・<朝鮮>戦争をリモート・コントロールで行った。「朝鮮半島の戦場でわずか一夜を過ごす」こともなかったのだ。・・。」

 →・・マッカーサーは・・専用機で水原に入り、自動車で前線を視察しただけでなく、自ら戦場を歩き回っています・・。確かにマッカーサーはその日のうちに日本に戻っているので、ハルバースタムの指摘は間違いではないとはいえ、何十万の軍隊を指揮する元帥が戦場にいなければならない、ということはないでしょう。第一、マッカーサーは戦場のすぐ近くの日本にいたのです。

 「・・マッカーサーは、<もともとからあった>第8軍・・と並列の第10軍団・・を編成した・・。自分の部隊を・・ハルバースタムに言わせれば「信じがたいことに」・・二つに分けたの<だ・>・・その結果マッカーサーは敵の追撃を一ヶ月遅らせてしまった」

 →第10軍団は仁川・・上陸作戦を敢行するために編成されたものであり、その間、半島内における追撃の速度が鈍ったとことはある意味で当然のことですし、海兵隊を交えた上陸作戦の特殊性に鑑みれば、新しい部隊を編成したことも決しておかしいとは言えないのではないでしょうか。
 ・・

 (2)ニューヨークタイムス1

 「朝鮮戦争は、議会ないし国民が理解しないままに疑わしい戦略的大義に基づき大統領が命じた、ハルバースタムの生涯中に生起した3つの米国の戦争の最初のものだった。
 朝鮮戦争は、米国が初めてその帝国的無能さをさらけ出し、軍事指導者達が二度とアジアにおける地上戦を行うまいと誓うことになった戦争でもあった。しかし・・ベトナム戦争とイラク戦争がその後に生起することになる・・。
 ・・アチソン・・国務長官<は、>定例演説で南朝鮮を米国のアジアにおける「防衛圏・・」に含めることを忘れ<てしまっ>た・・。
 
 <また>マッカーサーは・・日本においても、南朝鮮においても、攻撃に対して準備することを完全に怠っていた。・・
 マッカーサーは・・<仁川上陸・・>・・で答えた。これが逆説的により大きな大失敗を引き起こすことになる。・・<マッカーサーは、>自分はもはや不敗であると思い、・・中共が彼に挑戦するようなことはありえないと信じ込み、全北朝鮮の速やかな征服を命じた。
 ・・しかしその結果、・・またもや米軍が敗走<する羽目になっ>た時、マッカーサーの・・反応は核戦争をも辞さない、中共との全面戦争の扇動だった。・・彼はトルーマンによって1951年4月に馘首されなければならなかった。そのおかげで、対峙状況が招来され、二つの朝鮮の間のもともとの境界線が回復することになったのだ。」

 →ここは、まことにもってその通りですね。

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(続く)