太田述正コラム#2074(2007.9.20)
<米国の対イラン攻撃はない(続)(その2)>

 (2)米国の対イラン攻撃はないと思う根拠

 私が現時点で一番重視しているのは、ゲーツ米国防長官の存在です。
 9月17日、ゲーツは次のような趣旨の講演を行いました。
 
 米国においては、建国以来、対外政策に関し、現実主義者(realist)と理想主義者(idealist)の間で議論が続いてきた。
 例えば、フランス革命について、アダムス(John Adams)は向こう見ずな過激主義と見たのに対し、ジェファーソン(Thomas Jefferson)は自由の勝利と見た。
 爾来米国は、他の暴君(tyrant)達に勝利するために暴君達と取引をしたり、人権の旗手を任じながら、人権蹂躙の権化のような連中と手を携えたりしてきた。
 自由を熱烈に信奉しつつ時と場合によって自由を推進するために異なったアプローチをとることは偽善でも冷笑主義でもない。
 大事なことは、歴史の悲劇的な皮肉は善をなすためには悪と妥協しなければならないことと、民主的改革には時間がかかるのであって忍耐強く待つ必要があることを理解することだ。

 これだけでもゲーツは決して単なる現実主義者ではない一方で、ブッシュよりもはるか国際問題に通じている印象を受けます。
 そしてこの講演後のニューヨークタイムスとのインタビューで、ゲーツは、(ハーバード大学のナイ教授の言う)ソフト・パワーの重要性を繰り返し説き、冷戦後に米国が犯した二つの最大の誤りは、国際開発庁(Agency for International Development)の縮小と米情報庁(U.S. Information Agency)の廃止だ、と答えています。
 また、イランに係る安全保障上の脅威を勘案しながら、そのイランにおいて自由を推進するにはどうしたよいかとの質問に対し、ゲーツは、ソフトパワーを用いることを強調し、イランの体制が自ら掲げるレトリックの達成に失敗していることをイランの大衆に気付かせる必要がある、と答えています。
 最後にゲーツが、現在米国が遂行しているイラク駐留米軍増強戦略が決まる際に、反対意見のリークがなかったことを指摘し、この戦略についていかに国防省内でコンセンサスが成立しているかに注意を喚起していることはイミシンです。

 (以上、
http://www.nytimes.com/2007/09/19/opinion/19brooks.html?ref=opinion&pagewanted=print
(9月20日アクセス)による。)

 このゲーツが米国の対イラン攻撃の鍵を握っているのであり、しかも、対イラン攻撃の際の現地最高司令官は、あのファロン海軍大将(コラム#2067)です。
 仮にブッシュ=チェイニー・ラインがイラン攻撃を命じたとしても、ゲーツは自らこのことをリークし、或いは制服幹部達がこのことをリークするのを黙認することによって、この命令を覆すことを目論むでしょうし、それで覆せなければ、今度はファロンが公然と異論を唱えて辞表を叩き付けることでしょう。

 これに加えてガーディアンが論説で、ライス米国務長官もゲーツの側になびきつつある、と指摘しています(
http://commentisfree.guardian.co.uk/simon_tisdall/2007/09/tehrans_misguided_defiance.html
。9月19日アクセス)。

 これでは、いかにブッシュ=チェイニー・ラインが頭に血が上ろうとも、対イラン攻撃など容易に行えるはずがないと思いませんか。

 イランは、宗政国家ですが、民主主義的要素もあり、民度も必ずしも低くない、一筋縄では捕らえきれない国です。
 そのイランでは、政府も国民も、イラクで泥沼に陥っている米国が対イラン戦を敢行することはありえないと思いこんでいる(
ガーディアン上掲及び、
http://news.bbc.co.uk/2/hi/middle_east/6999513.stm
(9月19日アクセス))のは、当たらずといえども遠からずといったところでしょうか。
 もっともこれまた私同様、イランは、イスラエルがイランの核施設等を攻撃する可能性はあると見ているようで、イランの空軍副司令官は19日、イスラエルの攻撃に対しては、イランの防空戦闘によって飛来戦闘機の30%は撃墜できるし、イランはミサイルと戦闘機でイスラエルに報復攻撃をする、と精一杯虚勢を張ったところです(
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-iran20sep20,1,5503100,print.story?coll=la-headlines-world
。9月20日アクセス)。

3 終わりに

 イランが一筋縄では捕らえきれない国である証拠を一つご紹介しておきましょう。

 一昨年アフマドネジャド(Mahmoud Ahmadinejad)大統領がホロコースト否定論を何度も口にし、昨年12月には同大統領のお声掛かりでテヘランでホロコースト否定論者による国際会議が開催されたイラン(コラム#1552)で、1940年代のナチス占領下のパリで当時のイラン大使館がユダヤ人の脱出を助けるために500冊のイランのパスポートをユダヤ人のために発行したという史実を踏まえた連続ドラマが現在、国営TV局で放映されています。
 その中で、「ファシスト達はユダヤ人を強制収容所に送ろうとしている」といったセリフが飛び交い、イラン大使館員とユダヤ人女性(いずれも想像上の人物)との恋、そしてこの大使館員がユダヤ人達をパレスティナに逃がそうとする、という話が展開するのです。
 実は、イランにはユダヤ人25,000人が居住しており、イランは中東におけるイスラエルに次ぐユダヤ人「大国」なのです。
 国営TV局は、イランの最高指導者のハメネイ師(Ayatollah Ali Khamenei)の直轄下にあり、このドラマの訪映がハメネイ師の了承を得て行われていることは確かなのです。

 (以上、
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/09/16/AR2007091601363_pf.html
(9月18日アクセス)による。)

(完)