太田述正コラム#2072(2007.9.19)
<イスラエル空軍機のシリア攻撃(続々)>

 (本篇は、即時公開します。)
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 前回(コラム#2068で)本件を取り上げた際、下掲の3つの記事を読み忘れていました。
 ただ、目を通したところ、目新しかったのは、、作戦名が果樹園作戦(Operation Orchard)であったこと、攻撃編隊のパイロット達に目標が指示されたのは離陸してからだったこと、F-15が最新型のRaam F15I (補助燃料タンクをつければ戦闘半径2000kmでイラン全域をカバーできる)であったこと、帰投にあたってトルコ領内に落とした補助燃料タンクが2個であったこと、くらいでした。

http://observer.guardian.co.uk/world/story/0,,2170188,00.html  。9月16日アクセス
http://www.nytimes.com/2007/09/15/world/middleeast/15intel.html?ref=world&pagewanted=print  。9月16日アクセス
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/09/14/AR2007091402207_pf.html  。9月16日アクセス
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1 北朝鮮の反応

 北朝鮮外務省報道官は18日、同国がシリアの核開発に協力していると指摘した米国での報道について、「途方もない誤った報道だ(groundless and misleading)」と否定し、「われわれは責任ある核保有国として、既に2006年10月に核関連物資を移転しない旨宣言しており、爾来この宣言を順守してきている。この疑惑は、6カ国協議と米朝関係の前進を好ましく思わない、不純な勢力によって今回もでっちあげられたところの、できの悪い陰謀(unskilful conspiracy)以外のなにものでもない」と言明しました。
 (以上、
http://www.mainichi-msn.co.jp/kokusai/news/20070919k0000m030114000c.html
http://news.bbc.co.uk/2/hi/asia-pacific/7000171.stm
(どちらも9月19日アクセス。以下同じ)による。)

 しかし、中共が、恐らくは北朝鮮の要請に応えて、米国のヒル国務次官補が北京に出発する直前に、及び、19日から北京で行われる予定だった6カ国協議・・北朝鮮が核計画の詳細を明らかにすることになっていた・・の延期を関係国に申し入れたこと(
http://www.atimes.com/atimes/Korea/II19Dg01.html
)、シリアが6日のイスラエル空軍機による領空侵犯の事実を12時間ふせていたこと(
http://news.bbc.co.uk/2/hi/middle_east/6982331.stm
)や、シリアが空爆はなかったとし、イスラエル空軍機はシリア軍の反撃を受けて逃走する際に、身軽になるために爆弾を落としていっただけだと主張し続けている(
http://www.haaretz.com/hasen/spages/904953.html
)ことから、北朝鮮・シリア両国が何か重大な秘密を隠そうとして困惑している様子が明らかに見てとれます。

2 米国の反応

 イスラエルによるシリア核施設爆撃説について聞かれたヒル国務次官補は、直接答えず、6カ国協議の目的は「北朝鮮をして核稼業から足を洗わせることだ」とした上で、「われわれは核拡散問題を常に憂慮してきた。・・非核化は核拡散問題への取り組みを伴う。今回の話はこの目標を変更させるものではない。・・<いずれにせよ、>われわれとしては北朝鮮の核拡散計画の全貌を知る必要がある。北朝鮮が核拡散を行ったかどうかを知る必要があるのだ」と語りました。
 この発言は、北朝鮮への批判にわたる表現を慎重に回避してはいますが、ヒルが核拡散問題をこれほど強調したことはないだけに注目されるところです。
 ゲーツ米国防長官は、今回の話にもう少し踏み込んだ発言を行いました。
 ゲーツは、「仮に北朝鮮がシリアの核計画を支援していたとするならば、深刻な憂慮を抱かざるをえない(it would be a matter of great concern)。大統領が北朝鮮による更なる核拡散への動きは許さない(put down a very strong marker with)姿勢をとってきていることからすれば、シリアによる大量破壊兵器追求の動きがいかなるものであれ、それが憂慮の対象となることは当然だ」と語ったのです。

 (以上、アジアタイムス前掲及び
http://www.nytimes.com/2007/09/18/world/asia/18korea.html?ref=world&pagewanted=print
による。)

3 断定するのはまだ早すぎる

 今回の空爆については、イスラエル政府はブッシュ政権に直前に通報していたようなのですが、果たしてブッシュ政権がどのような返事をしたのかは不明です。
 そもそも、本件に関しイスラエル政府の情勢認識とブッシュ政権の情勢認識が一致していたかどうかも不明です。
 (以上、NYタイムス上掲)

 本件については、依然として様々な疑問の声があることも事実です。
 すなわち、北朝鮮がこの時期にこんなリスクを冒すだろうかという声、シリアに核開発できるようなカネや科学的能力はないのではとする声(NYタイムス上掲)、シリアが核施設をトルコとの国境付近に設置するだろうかとの声、核開発施設ではなく、かねてシリアが北朝鮮から提供されてきたミサイルやミサイル技術に係る施設ではないのかとする声(
http://news.bbc.co.uk/2/hi/middle_east/7000717.stm
)が出ています。

4 終りに

 (1)PSI合同訓練

 日本が主催し、米・豪・ニュージーランド・シンガポール・英・仏の計7カ国が参加(英・ニュージーランド・シンガポールは初参加)する大量破壊兵器拡散防止構想(PSI)に基づいた合同訓練が、来月13日から15日にかけて横須賀・横浜港で行われます。

 日本が主催するPSI訓練は、2004年10月に米・豪等が参加し東京湾で行われて以来2回目です。海上自衛隊は参加国の軍とともに核関連物資等を輸送している疑いのある船舶を停止させ、ヘリコプターで特殊部隊を船内に送り込み、核関連物質等を捜索・押収するとともに、疑わしい船舶が逃亡しようとした場合を想定した追跡訓練も並行して行われます。

 日本からは今回の訓練に護衛艦、P3C、AWACS、化学防護部隊、それに巡視船やSAT等が参加します。2004年の訓練では、憲法解釈に配慮して、自衛隊はP3Cが疑わしい船舶を発見して知らせる役割にとどまり、船舶の捜索訓練には参加しなかったところ、今回の訓練には自衛隊が本格的に参加するようです。
 (以上、
http://www.chosunonline.com/article/20070919000006
による。)

 (2)感想

 この訓練は当然北朝鮮を主として念頭に置いているわけであり、大変結構なことです。
 しかし、いくら自衛隊が能力を磨いても、またいくら日本が憲法解釈を柔軟化したとしても、日本は、独自の諜報能力を持たない限り、北朝鮮等の船舶が核関連物資等を輸送している疑いがあるかどうか、米国等がもたらす情報の真偽を検証することすらできません。
 今回イスラエルによるシリア爆撃があったのか、その目標が何であったのか等について、日本政府が全く沈黙しているのも当然です。
 それにしても、日本のメディアがほとんど本件に関心すら抱いていないように見受けられるのは、かえすがえすも残念です。