太田述正コラム#2058(2007.9.12)
<安倍首相辞任へ>

1 はじめに

 本日午後2時、安倍首相は、次のように述べました。

 「・・7月の29日、参議院の選挙が、結果が出たわけですが、大変厳しい結果でございました。しかし厳しい結果を受けて、この改革を止めてはならない、また戦後レジームからの脱却、その方向性を変えてはならないとの決意で続投を決意をしたわけであります。今日まで全力で取り組んできたところであります。
 ・・<3日前に、>国際社会への<海上自衛隊による給油活動の形での>貢献<を>中断しないために全力を尽くしていく、職を賭していく、というお話をいたしました。そして、私は、職に決してしがみつくものでもない、と<も>申し上げたわけであります。・・
 <しかし、>小沢党首に党首会談を申し入れ<たところ、>残念ながら、・・断られてしまったわけであります。
 ・・<また、>内閣改造<も>行った<けれども>、今の状況でなかなか、国民の支持、信頼の上において力強く政策を前に進めていくことは困難な状況である・・判断するに至ったわけでございます。
 ・・<かつ、>私自身の決断が先に伸びることによって・・今国会において、困難が大きくなると・・の判断から、決断はなるべく早く行わなければならないと、そう判断したところでございます。
 ・・<そこで、私は>総理の職を辞するべく決意をいたしました。」
 (以上、
http://news.livedoor.com/article/detail/3304022/
(9月12日アクセス。以下同じ)による。)

2 様々な声

 「防衛・・省では、ある自衛隊幹部は「安倍さんほど自衛隊の現場を訪ね、士気を気遣ってくれた総理はいなかった。本当だとしたら誠に残念だ」とやるせない表情。別の同省幹部は「小池(前防衛相)さんが内閣に留まらないと言い出した時も驚いたが、まさか安倍さんまでとは。もう政治家は信じられなくなりそうだ」と情報収集に追われていた。」http://news.livedoor.com/article/detail/3303859/
 「海上自衛隊幹部の1人も「全く分からなかった。テロ特措法の議論をこれから始めるという時に指揮官がこれではどうにもならない」と憤りさえ見せ、「(首相は)精神的に参ってしまったとしか考えられない」と話していた。」
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20070912i4w6.htm?from=main4


 「厚労省の幹部は「『職を賭して』と発言しても『総理のために』という求心力は高まらず、これでは臨時国会も乗り切れないと気持ちが途絶えてしまったのではないか」。別の幹部は「今のタイミングでやめるのは自爆テロのようなものだ。体調が優れないことが原因かもしれないが(注1)……」と語った。」(
http://www.asahi.com/politics/update/0912/TKY200709120196.html

 (注1)「安倍首相は11日、風邪のため公務を予定より1時間早く切り上げて首相公邸で静養した。」(
http://news.livedoor.com/article/detail/3302938/

 「鳩山法相は「いまテレビの報道で見たばかりだ。意味がわからない。最初に聞いたときは(辞任は)今国会が終わった後との意味だと思った。しかし、テレビの報道を見る限りでは今日の代表質問に答えられないということのようだ。私も全く確認ができていない。あり得ないと思うんだが、わかんないよ……」と、首をひねりながら部屋に入っていった。 」(
http://www.asahi.com/politics/update/0912/TKY200709120180.html

 「法務省の幹部は「ただただ驚いている。所信表明をした直後の辞任はあまり例がないのではないか。何のために、なぜ今の時期に、と意図をはかりかねている」と語った。」(
http://www.asahi.com/politics/update/0912/TKY200709120196.html
前掲)

 「民主党<の>枝野幸男衆院議員は・・、「一昨日の所信表明は一体何だったのか。こちらの代表質問を前に、あまりにも無責任だ。辞めるなら所信表明をする前だろう。ここまで来たら衆議院を解散して民意に問うしかない」と批判した。」 (
http://www.asahi.com/politics/update/0912/TKY200709120194.html
 「自民・・党の平将明衆院議員は「所信表明と質問はワンセットだから辞め方としては最悪のタイミングだ」と批判した。」(
http://www.asahi.com/politics/update/0912/TKY200709120180.html
前掲)

3 私の推理

 安倍首相の辞任表明が全く唐突に、しかも最悪のタイミングでなされたことは衆目一致するところでしょう。
 小沢氏に党首会談を断られたことなど、理由であるわけがありません。
 「体調が優れない」ことも理由ではありますまい。
 本当に優れないのなら、むしろそのことを理由として口にできるはずだからです。
 私は、法相や法務省幹部の言にもかかわらず、いや、そのとぼけ方にうさんくささを感じるが故に、防衛省不祥事の捜査が大詰めに来ており、大物の自民党政治家がターゲットであるとの情報が首相の耳に入り、急遽辞任を決意したのではないか、と推理しています。
 これには、そうであって欲しいという私の希望的観測が入っています。

4 私の分析

 (1)軽い首相の地位

 日本は米国の保護国であり、外交と安全保障の基本は宗主国の米国任せですから、日本の首相は、市町村長レベル、と言って悪ければ、知事レベルの仕事しかしていません。
 これほど軽い首相の地位だからこそ、安倍首相は簡単に政権を抛り出すことができたのです。

 (2)「改革」も「戦後レジームからの脱却」も口先だけだった

 安倍首相が唱えてきた「改革」も「戦後レジームからの脱却」もその試金石は防衛省・自衛隊改革です(コラム#2034、2036、2038(近日公開))。
 ところが、防衛次官人事では、安倍首相は防衛省・自衛隊改革に消極的な勢力の肩を持ち、すっかりその馬脚を現しました。
 このため、日本が米国から独立することによってそのガバナンスを回復し、首相の地位が重いものとなる時期はまたもや遠のいてしまいました。
 そんな安倍首相が自衛隊による国際貢献の継続に職を賭すと叫ぶなど、笑止千万であったと言うべきでしょう。

 (3)自民党の最期?

 自民党の政党としての耐用命数が完全に過ぎていたからこそ、1993年に非自民の細川政権が成立したというのに、その後、癒着関係にあるところの政官業がなりふり構わず手を携えて、自民党政権を復活させ、更には創価学会の力まで借りて自民党政権の維持に努めてきた結果、自民党は腐敗の極に達してしまいました。
 この政官業の癒着関係が改めて露呈したのが、一番最近起こった大臣と政務官の辞任です。 
 すなわち、遠藤武彦前農相が、組合長を務めていた農業共済組合が補助金を不正に受給していた問題で、そして厚生労働省出身の坂本由紀子前外務政務官が、関連政治団体の経費を多重計上していた問題でそれぞれ辞任した(
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20070912i4w6.htm?from=main4
)わけですが、官が業に対して天下り等の見返りに補助金を流す等の便宜供与を図り、その利権に巣くう形で自民党の政治家が選挙に当選するという政官業の癒着関係が、前者の場合は誰の目にも明らかであり、後者の場合も少し考えれば透けて見えてきます(注2)。

 (注2)労働省のキャリア官僚であった坂本氏は、出身地(三島市)の静岡県に副知事として出向して名前を売り、同省(ただし厚生労働省)の職業能力開発局長となり、参議院議員選挙(静岡地方区)に出馬するために同省を辞め、同省や同省関係団体の支援を得て当選し、現在に至っている(
http://sakamoto-y.com/home/01/08.htm
等)。

 今回の安倍首相の辞任が、政官業癒着政党である自民党の最期を画することになった辞任となることを心から願っています。