太田述正コラム#1892(2007.8.3)
<中共の欠陥食品問題(続)>(2007.9.7公開)

1 始めに

 少し前に(コラム#1864で)「中共の欠陥食品問題」をとりあげたところですが、その後の米国での議論の一端をご紹介しましょう。

2 三つの原因論

 (1)産業化原因論

 最初に、これは私自身の見解であると言ってもいいのですが、産業化原因論です。
 要するに、欠陥食品問題(food adulteration)、より一般的にはインチキ商品問題(product counterfeiting)は、急速な産業化の過程でいつの時代、いかなる地域でも起こりがちである、という議論です。

 なぜ急速な産業化の過程で起こりがちであるかと言うと、インチキ商品の「開発」には科学が活用されるものだから、というのです。
 そこに政府規制の不十分さ、安価な商品を求める消費者、が加わるとインチキ商品が続出する、というわけです。

 米国にも19世紀後半から20世紀初頭にかけてインチキ商品全盛の時代がありました。
 南北戦争の時、北軍兵士の制服がすぐボロボロになり、軍靴がすぐオシャカになったため、裸足で行進したり新兵でさえメリケン粉袋を背中に貼り付けて破れを隠したりしなければなりませんでした。
 当時、下着は赤、というのが定番でした。というのは、安物であった木綿に赤の染料はなじみにくく、赤ければ、その下着が純毛品であることが誰にでも分かったからです。  当時の米国の消費者は、米国製品を全く信用していませんでした。飴も肉も薬も銀食器も木製家具もインチキ商品だらけだったのです。
 (以上、
http://www.csmonitor.com/2007/0803/p09s01-coop.html  
(8月3日アクセス)による。)

 産業化原因論は、米国がインチキ商品問題を克服したように、早晩中共もインチキ商品問題を克服することを当然視している、と考えてよいでしょう。

 (2)半植民地化原因論

 次に、19世紀から20世紀にかけて支那が帝国主義諸国によって半植民地にされ、軍閥が横行し、飢饉や疫病や社会的暴力が蔓延し、強者が弱者をトコトン搾取する時代が続いたために、支那の伝統的価値観が破壊され、個人・社会・政府から社会的凝集力(social compact)を支えていたところの行動規範が失われたとする議論です。

 あの孫文は、死の直前の1924年に「支那の人々には家族と一族に係る連帯意識しか持っておらず、国民精神を持っていない。このため、支那には4億の民がいるけれど、それは巨大なバラバラの砂の山にすぎない。今日われわれは世界で最も貧しくて弱い国であり、国際場裏において最も低い地位にある。・・もしわれわれがこのような破滅的状況から脱却したいのなら、ナショナリズムを信奉し、国民精神を国家救済のために用いなければならない。」と述べています。
 ところが、国民精神は中国共産党が政権を掌握したことで上から強制的に支那の人々に注入されたけれど、真の社会的凝集力が回復しないまま、トウ小平体制の下、支那は急速な経済発展を遂げ、中共は大国としての地位を確立することに成功します。
 孫文の願いは意外な形で成就したことになります。

 半植民地化原因論の論者は、社会的凝集力が依然回復しないことが、中共の欠陥商品問題の根底にある、と主張しているわけです。
 こういうわけで、彼らは、現在胡錦涛政権が掲げている調和的社会(Harmonious Society)の実現、すなわち支那の伝統的社会への回帰、がインチキ商品問題の解決をもたらすかどうか注目しているのです。
 (以上、
http://www.csmonitor.com/2007/0803/p09s02-coop.htm  
(8月3日アクセス)による。

 (3)トウ小平体制原因論

 いやいや、インチキ商品問題は、3世紀にまたがるような構造的な問題ではなく、この20年間のトウ小平体制が生み出したものにほかならない、とするのがトウ小平体制原因論です。

 中国共産党の一党独裁体制を維持しつつ、かつその中共を超大国化する目標も堅持しつつ、トウ小平は、毛沢東の性急なやり方が飢饉と騒擾を招いたとの反省の上に立ち、中共のような領土が広く人口も多い国では、緩慢なやり方が適していると考え、法のしゃくし定規的な適用は止め、地方党組織に法適用面で裁量権を与えた、というのです。
 このトウ小平体制は、中共の地方ごとにその地方の特性に即した経済発展をもたらした一方で、腐敗も増やしたところ、地方党組織、ひいては党中央は、経済が過熱したり腐敗が深刻化して党が脅かされるに至った場合には、その地方における法の適用を厳格化することによって特定の民間企業人だけに全責任を負わせ、自らの責任は逃れることを可能にした、というのです。

 そしてトウ小平体制原因論の論者は、このトウ小平体制が生み出したものこそ、インチキ商品の山であり、その米国等への輸出だった、と主張しているわけです。

 トウ小平体制原因論は、これまで安さに惹かれて中共の商品を大量に購入してきた米国の消費者が、中共のインチキ商品の山に怒り出したことによって、中共はこの体制の変革、すなわち中共の法治国家化という重い課題をつきつけられた、と見ています。

 (以上、
http://www.latimes.com/news/opinion/la-oe-august20jul20,0,3493261,print.story?coll=la-opinion-rightrail  
(7月21日アクセス)による。)

3 終わりに

 以上ご紹介したところの米国における三つの原因論は、いずれも、基本的に支那は、中国共産党一党独裁体制のままでインチキ商品問題を克服できる、と考えていることになります。
 私もまたそう考えているわけですが、中国共産党一党独裁体制を支那が擲って自由・民主主義化しない限りこの問題を克服することはできないとお考えの方も、更には、仮に支那が自由・民主主義化したとしても、この問題を克服することはできないとお考えの方もいらっしゃることと思います。
 皆さんのお考えもぜひお寄せ下さい。