太田述正コラム#2046(2007.9.6)
<防衛次官人事問題(続x9)>

1 始めに

 今まで私は、山田洋行がらみの防衛省不祥事疑惑の話をほとんどしてこなかったのですが、今回あえて触れてみたいと思います。

2 山田洋行がらみの防衛省不祥事疑惑

 山田洋行とは、航空・宇宙・防衛・エレクトロニクスなどの専門商社であり、防衛省のための商社という趣の会社です。
 山田洋行の防衛省との取引実績は伸び続けており、2000年前後には商社としては、三菱商事や伊藤忠商事すら抜いてトップに躍り出ています。
 この山田洋行は、米GE社の日本の代理店であり、防衛省が2011年から逐次、航空自衛隊の輸送機を買い換える予定であるところ、後継機はC-Xなる国産機に内定し、総額で1,000億円近くにもなるそのエンジンをGEから山田洋行を通して納入する運びとなることが確実視されていました。
 ところが、昨年9月、山田洋行で防衛省を担当していた宮崎元伸氏等の社員が29名も退社し、「日本ミライズ」という新会社を設立し、同社の代表に宮崎氏が就任するという事件が起きます。 
 しかもGEは、GEのエンジンの代理店としてミライズを指名し、その旨防衛省に通知しました。
 これに対して山田洋行は昨年10月、宮崎氏等が共謀してミライズ社を設立し主要な従業員を引き抜いて取引先の奪取行為を行ったとして東京地裁に損害賠償を求める訴えを提起しました。
 しかし、ミライズは新興企業であるため、防衛省の入札条件である業者格付けの上では入札への参加資格がありません。
 防衛省は入札資格条件を、通常の「GEエンジン輸入可能企業」ではなく「GE代理店限定」として2度競争入札を実施したのですが、当然のことながら、GE代理店はミライズしか存在しないので入札に応じた企業はありません。 
 その結果、「応札者がいない場合は資格制限を緩和し、契約可能な企業が1社の場合は  随意契約を行うことができる」という防衛省内部ルールにのっとり、事実上ミライズが受注業者に決まります。
 さて、かねてより守屋前防衛次官と宮崎氏、ひいてはミライズとの癒着が囁かれていたところ、最近では、ミライズを正式に受注業者にするための指名随意契約審査会が防衛省で今年9月10日に開かれ、これを受けて9月27日に防衛相が承認し、10月12日にミライズとの契約が締結される予定、という噂まで流れていました。
 そして結果的には、この一連の手続きに入る直前に守屋氏は次官を更迭されたことになるわけです。

 (以上、
http://accessjournal.jp/modules/weblog/index.php?date=20070318
http://mrta1975.cocolog-nifty.com/thethe/2007/07/post_0c90.html
http://gooyan.blog92.fc2.com/blog-entry-160.html
http://72.14.235.104/search?q=cache:kalslCxxsoYJ:news22.2ch.net/test/read.cgi/newsplus/1188225085/292-392+%E5%B1%B1%E7%94%B0%E6%B4%8B%E8%A1%8C&hl=ja&ct=clnk&cd=42&gl=jp
http://72.14.235.104/search?q=cache:kalslCxxsoYJ:news22.2ch.net/test/read.cgi/newsplus/1188225085/292-392+%E5%B1%B1%E7%94%B0%E6%B4%8B%E8%A1%8C&hl=ja&ct=clnk&cd=42&gl=jp
(いずれも9月6日アクセス。以下同じ)による。)

3 問題の核心は何か

 以上のような話が、もっと赤裸々に、ネットの世界で流布するとともに、ファクタ(6月号と9月号)や週刊ポスト9月7日号に出てきます。

 しかし、その中で、問題の核心を衝いたものは一つもありません。
 山田洋行がらみの防衛省不祥事疑惑の核心は、防衛官僚や政治家が業者から金品を与えられたり饗応を受けたしたのかどうか、そしてそれが収賄罪や背任罪に該当するのか、といった点にはないのです。
 問題の核心は、この疑惑が、防衛装備をめぐる防衛官僚の天下りシステムを暴く契機になるかどうか、なのです。
 山田洋行には元幹部自衛官のほか、米軍幹部も天下っています(注1)。

 (注1)少なくとも約25年前まではそうだった。その後変わったとは思えない。

 ミライズが、どれだけ自衛官等の天下りを受け容れるのか、山田洋行の方はどうなるのか、興味があるところですが、これらの情報を誰も追っかけていないようです。
 天下りこそ、官と業、そして(天下りを黙認しつつ自らも裨益しているという意味で)政の癒着の最たるものであり、天下りをした官僚は税金を横領した罪に、そして天下りをさせた官僚は背任の罪に、更に政治家は収賄の罪に問われてしかるべきなのです。
 1998年に露見した調達実施本部不祥事では、東洋通信機の水増し代金の返還額を不正に圧縮し、国に16億8千万円もの損害を与えた容疑で諸冨増夫元調達実施本部長が逮捕、起訴され(
http://www.dpj.or.jp/seisaku/gaiko/BOX432.html
)、有罪判決を受けましたが、この背任は、天下りを強要するためになされたものであることを思い出してください。
 諸冨氏の場合、余りにも強引なことをやったために立件されてしまったわけですが、随意契約やそれに近い契約によって調達される防衛装備をめぐって行われる通常の天下りが事件になることはまずありえません。
 今回の事件が立件されるとしたら、今度こそ、天下り問題をめぐって、国民の間で大議論が起きて欲しい、と切に願っています。

 メディアにやって欲しいのは、まず手始めに、山田洋行やミライズへの防衛省OBの天下り状況の究明であり、それに関連し、どうして山田洋行のような日本の商社を通して米国製の装備を輸入する必要があるのかの追及です。
 特段外国からの製品の輸入に高度な知識経験が求められるわけではありません。
 しかも、米国製の装備の大手の製造会社は、どの社でも自ら商社機能を持っています(注2)。

 (注2)GEに至っては、日本に8,000名もの社員を擁しており、GE製品の販売・メンテやファイナンス業務も含め、商社も顔負けの多彩な業務を展開している(
http://www.gejapan.com/
)。そのGEが、不自然にも、防衛装備(汎用品を含む)に関してだけは、商社機能を外注しているわけだ。
 
 官庁にとって、商社のような介在物を置くのは、一つにはそこを天下りの受け皿にしたいからであり、二つには公金を支出するわけにはいかない種々の便宜供与をそこから受けたいからです(注3)。

 (注3)少なくとも、約20年前までは、防衛庁キャリアが海外出張すると、商社の現地駐在員がつきっきりで、観光・飲食・ゴルフ等の接待をするのが通常だった。幸か不幸か、「留学」者はその対象外だったので、私自身は一度もこのような接待を受けたことはない。

 また、米国製の装備の製造会社にとっても日本の商社を介在させるのはメリットがあります。
 官庁から天下りを受け容れたり官僚に便宜供与を与えたり、政治家に裏金を渡したり、といったダーティ・ジョッブを日本の商社にやらせることで、自分自身が米国や日本の法律で追及されるのを免れることができるからです。

 こうなると、航空自衛隊の次期主力戦闘機をめぐる商戦のことも気になってくるはずです。
 現在、F-4ファントムの後継機をめぐり、三菱商事がF-22、住友商事がユーロファイタ(タイフーン)、伊藤忠商事がF-18、双日がF-15の最新型をかついでいるようです(
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%95%86%E7%A4%BE
)・・F-35はどうなった?・・が、商社が介在するなんてとんでもないことだ、という認識を持つ必要があります。

4 終わりに

 「2005年8月からの1年間で中央省庁を退職した課長級以上の1267人のうち、61.1%の774人が省庁のあっせんで再就職していた・・あっせんで再就職した退職者の割合が高かったのは 金融庁(100%)、警察庁(95%)、厚生労働省(91%)、国土交通省(88%)など。財務省(33%)や法務省(10%)は税理士や弁護士、公証人 などに転じる人が多く、あっせん率は低かった。」(
http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20070906AT3S0501905092007.html
)という記事をご覧になった方もおられると思います。
 官僚を無条件で税理士や公証人にさせるという途方もない仕組みのことはさておくとして、税理士や公証人になる場合以外、(家業を継ぐ等の例外を除き、)官僚で自分の力で再就職できる人間は皆無に近いことがお分かりになるでしょう。
 その多くは、防衛省の場合と同じく、所属官庁の財・サービスの調達の見返りとして天下っているケースであり、防衛省に火がつけば早晩、こちらにも火がつくことは必至です。
 しかし、一般官庁には、防衛省にない天下りもあります。
 それは、防衛省とちがって一般官庁は、財・サービスの調達以外の業務、すなわち政策業務もやっていることから、政策で手心を加える代わりに天下りを受け容れさせる、というケースがあるのです。
 このケースは、官庁の業務と天下りとの関係を簡単な数式では表せないだけに、追及するのは容易ではありません。
 しかし、最終的には、ここにも手をつけるべきことは言を待ちません。