太田述正コラム#1861(2007.7.11)
<敵をまたも増やした法王>(2007.8.19公開)

1 始めに

 どんどん敵を増やしている法王ベネディクト16世がまたまたやってくれました。
 今度はユダヤ人とプロテスタントを怒らせたのです。

2 怒るユダヤ人

 1962〜65年の第2バチカン会議(the Second Vatican Council)でカトリック教会は、ミサにはラテン語を用いてはならず現地語を用いるべきであるとしたのですが、法王は7月6日、現地語を原則としつつも、例外的にラテン語でミサ(Tridentine liturgy)をやっても差し支えない旨決定しました。
 ところが、ラテン語のミサでは、年に一回の聖金曜日ミサ(Good Friday mass。復活祭前の金曜日に行われるミサ)の際、神に向かってユダヤ人の「目からベールをとって・・キリストの真実の光を彼らが自覚できるよう、その盲目状態を終わらせたまえ」という一節を唱えることになっていることから、米国のユダヤ人グループは、この法王の決定はカトリックとユダヤ人との関係に対する打撃であると批判し、イタリアのユダヤ教ラビ協会会長は、これでカトリックとの関係は大幅に後退したと嘆きました(ここだけはガーディアン後掲によった)。

 法王の上記決定には、伝統を復活させるとともに、ラテン語ミサの廃止等の第2バチカン会議での諸改革に反対して1988年に法王庁から破門されたフランスのカトリック分派を救うねらいがあります。
 しかし法王は、昨年ポーランドのアウシュビッツ収容所跡を訪問した時、反ユダヤ主義やナチスがユダヤ人を何百万人も殺したこと、あるいはドイツ人がこれらについて集団的責任を負っていることに全く言及しなかったことでユダヤ人の顰蹙を買ったばかりだというのに、またまたユダヤ人を怒らせてしまったようです。
 (以上、
http://observer.guardian.co.uk/world/story/0,,2121325,00.html  
(7月8日アクセス)による。)

3 怒るプロテスタント

 上記決定から4日後の7月10日、法王は今度は、プロテスタントは信徒団体(ecclesial communities)ではあっても宗教団体(communion)とは言えないという見解を打ち出しました。
 これは、法王が法王庁の教義担当であった枢機卿時代の2000年に打ち出した、(第2バチカン会議で打ち出された考え方の解釈を明確にしたところの)プロテスタントの教会は、本来の意味の教会とは言えない、とする見解を再確認したものに過ぎない、という触れ込みです。 
 この見解表明に対し、ドイツのプロテスタント諸派の連合会の代表は遺憾の意を表明しましたし、イタリアの同様の会の代表は、カトリック教会とキリスト教の他派との関係を後退させるものであると批判しましたし、フランスの同様の会の代表は、影響は避けられないと警告しました。
 ちなみに英国教会は、7年前の法王庁の教義担当の見解に対しては強く批判したものの、今回の法王の見解に対しては、慎重な対応を見せています。
 (以上、
http://www.guardian.co.uk/pope/story/0,,2123195,00.html  
(7月11日アクセス)による。)

4 感想

 私としては、カトリック教会の権威失墜に多大の貢献をしている(?)現法王に、引き続き声援を送りたいと思います。
 カトリック教会の長である法王は、同時にバチカン市国という国家の元首でもあります。
 すなわち、カトリック教会は、全世界に教会を展開する信徒数世界一のメガ宗教団体であるとともに、世界のほとんどの国に大使館を設置している国家でもあるのであって、まさに政教一致のアナクロ的存在です。
 こんな存在が21世紀の現在なお存続を許されているのはいかがなものでしょうか。
 カトリック教会は、純粋な宗教団体へと純化、脱皮すべきであり、それを促すのは日本の重要な役割の一つであると信じている私にとって、現法王はまさに逆説的な期待の星なのです。