太田述正コラム#2002(2007.8.16)
<過去・現在・未来(続)>

1 始めに

 読者とのやりとりをご紹介します。本篇は即時公開します。

2 読者とのやりとり

 (1)コラム#1994をめぐって

<バグってハニー>

>1942年12月に真珠湾攻撃した際に米空母(複数)が真珠湾にいてこれを日本が撃沈できていたら、あるいは、1943年4月の山本五十六連合艦隊司令長官の米軍による暗殺が失敗していたらどうなっていたか、等を考えてみよう。 (コラム#1994)

 そりゃ、やっぱり日本の負けですよ。いくつか幸運が続けば、一つ二つの海戦の結果は変わったかもしれないですが、総力戦・持久戦である限り最後に ものを言うのは総合的な国力ですから。日米の工業力・資源力にはいかんともしがたい差があったわけですから。山本自身も滞米を通してこのことを肌で感じて いたようです。ウィキペディア「山本五十六」曰く、日本では専売制の塩や砂糖が米国ではプラントで大量生産され一井で大量消費されていたことを知り驚いた そうです。アメリカ人気質もよく理解していて日記に次のように書いています。

Should hostilities once break out between Japan and the United States, it is not enough that we take Guam and the Philippines, nor even Hawaii and San Francisco. We would have to march into Washington and sign the treaty in the White House. I wonder if our politicians (who speak so lightly of a Japanese-American war) have confidence as to the outcome and are prepared to make the necessary sacrifices.

Wikipedia"Isoroku Yamamoto"から

 ひとたび対米海戦とならば、グアムやフィリピン、さらにハワイやサンフランシスコを攻略するだけでも不十分である。我々は首都ワシントンまで攻め上り、ホワイトハウスで降伏文書に調印させる必要がある。

 もちろん、これは反語表現です。日本にはそうするだけの能力はなく、政治家にもその根性はなかったわけですから。結局、せいぜい日本がしたことは、

I fear all we have done is to awaken a sleeping giant and fill him with a terrible resolve.

「眠れる巨人を起こし、奮い立たせたも同然である。」映画「トラ!トラ!トラ!」に出てくる山本の名セリフ。ただし、実際に言ったかどうかは定かではない。

<太田>

 ちょっと言葉を入れ替えてみましょう。

そりゃ、やっぱり独立派の負けですよ。いくつか幸運が続けば、一つ二つの戦いの結果は変わったかもしれないですが、総力戦・持久戦になれば最後に ものを言うのは総合的な国力ですから。独立派と英本国の国力にはいかんともしがたい差があったわけですから。ワシントン自身もこのことを肌で感じていたよ うです。
・・
ひとたび開戦とならば、カナダや英領カリブ海諸島、さらにアイルランドやリバプールを攻略するだけでも不十分である。首都ロンドンまで攻め上り、ダウンニング街10番地で降伏文書に調印させる必要がある。

 ところがどっこい、一つや二つの戦いに敗れただけで英本国は独立派と和議を結びました。
 だから、一つならず、二つ(ミッドウェー海戦?)の戦いで勝てば、米国は日本と和議を結ぶつもりになるのではないか、と当時の日本の指導層が期待したことはあながち責められません。

 結局、日本が二つ目の戦いで敗れてしまった以上、こんな論議をしてもせんないわけですが・・。

 それにしても、英国の指導層と違って、原理主義かぶれの米独立派(=米国)の指導層は合理的な判断が全くできないということを、山本も含めて、当時の日本の最良の米国通ですら、分かっていなかったようですね。
 合理的な判断ができないからこそ、英国は北米植民地を捨てることで、身軽になりトクをした(これはやがてコラムに書くつもりです)というのに、米国は日本を叩きつぶすことで、重武装国家に成り下がり、その重みに押しつぶされようとしながら現在に至っているわけです。

 (後知恵:確か、当時既に、英国首相に対し、ダウンニング街10番地が国王から下賜されていたはずですが、当時なら、ダウニング街より、やはりバッキンガム宮殿ですかね。)

2 コラム#1997、2000をめぐって

<某新聞記者>

 守屋防衛次官をどう評価しておられますか。
 また、今回の小池氏の動きは、CX問題等防衛装備品の調達をめぐる検察の動きを背景としたものだとお考えですか。
 沖縄県側と小池氏との密約説についてもお考えをお聞かせ下さい。

<太田>
 守屋氏が可哀想なのは、防衛省(庁)以外の世界を全然知らないことです。
 彼は他省庁出向経験も海外経験(留学・在外公館勤務)もありません。
 これでは、通常の省庁ならばまだしも、防衛省(庁)ではトップになるための最低要件をクリアしていません。
 というのは、防衛省(庁)という役所は、通常の省庁の一局相当の仕事・・防衛力の整備・維持・・を無理矢理、局や外局に分割しているだけであり、防衛省(庁)内だけのタコツボ的勤務だけでは、次官として求められる総合安全保障感覚や国際感覚、そして時代感覚を身につけることは不可能だからです。
 そもそも防衛省(庁)キャリアは、幹部自衛官と違って、ブルーカラー的な現場を経験することも集団の統率を経験することもないので、(幹部自衛官と違って政治家とのお付き合いこそあれ、)およそ人格を陶冶する機会にめぐまれないことも忘れてはなりません。

 これに加えて、防衛省(庁)の仕事は、一般国民との接点がほとんどない、という特異な仕事であり、(幹部自衛官なら災害派遣等で一般国民と接する機会が若干ありますが、)防衛省(庁)キャリアは調達契約ねらいの業者(注1)や反基地ないし補助金ねらいの基地地元住民、あるいは防衛利権にたかる自民党系政治家との接点しかありません。

 (注1)主要装備の調達は基本的に入札ではなく密室での相対取引であり、関係者が口を割ることなどまずありえないだけに、主要装備の調達に係る政官業の恒常的な癒着関係に捜査当局がメスを入れることは極めて困難だ。

 このため、防衛省(庁)キャリアは、一般国民を私的エゴの固まりとしか見ることができなくなりがちです。
 実は自分達だって私的エゴの固まりなのですが、それは「国益を背景とした」私的エゴであるとして等閑に付す一方で、業者や地元住民や政治家の「個別的」私的エゴは、高いところから侮蔑の念を持って見下すわけです。

 守屋氏も恐らく、業者や地元住民や政治家をそんな風に見下してきたのではないでしょうか。
 ですから彼が、沖縄の地元住民を「個別的」私的エゴの象徴的存在であるとみなしてきた可能性は大いにあります。
 そんな守屋氏について、沖縄県サイドが更迭を求めていた可能性もまたありうる、と言わざるをえないのです(注2)。

 (注2)「小池・・防衛相と守屋・・次官の確執をめぐり、小池氏と沖縄県側に密約があったとの憶測がくすぶっている。基地問題で強硬路線を唱える守屋氏を更迭する代わりに、普天間飛行場の移設問題で県側に理解を求めるという筋書きで、背景には守屋氏の後任人事と移設手続き開始が同時進行していることがある。・・在任5年目に入った守屋氏は長く沖縄の基地問題に携わってきたが、「県側の要求に譲歩してばかりでは移設が進まない」というのが持論。先の国会では、国に協力的な自治体だけに交付金を支給する米軍再編推進法の成立に尽力した。一方の県側は、日米両政府が決めた普天間飛行場代替施設のV字形滑走路案に反対。移設に向けた環境影響評価(アセスメント)手続きの第1段階となる「方法書」の受け取りを拒否し、守屋氏と激しく対峙してきた。守屋批判の強い沖縄では今、小池氏が守屋氏の退任を「取引材料」に、普天間移設問題を一歩進めるステップを踏んだとの“密約説”で持ちきりだ。現状では沖縄県が受け取りを拒否している環境影響評価の方法書を、小池氏は7日、沖縄県に送付した。守屋氏に退任通告した日だ。小池氏はそのまま訪米し、8日、ゲーツ米国防長官に方法書送付を報告したのだった。」(
http://www.yomiuri.co.jp/feature/fe7700/fe_022_070815_01.htm?from=yoltop
。8月15日アクセス)

 更に言えば、日本の宗主国たる米国のブッシュ政権が、そんな守屋氏を、かねてから自分達の指示に対し、防衛力整備面でも秘密保全面でもウソをついてまで面従腹背を続けてきたゆえに、かつまた腐敗しているがゆえに、「侮蔑」してきたところの日本の政治家や外務・防衛等の安全保障関係省庁の官僚を象徴する人物として、「高いところから見下し」ていた可能性も大いにあると私は考えているのです。

 そんな守屋氏がどうして防衛次官になり、しかも足かけ5年も次官を続けることができたのでしょうか。
 言うまでもなく、防衛省(庁)の人事権者たる歴代防衛大臣(防衛庁長官)の強い意向が働いたからです。
 そうである以上、両者の間に防衛利権がらみの癒着関係があった・・換言すれば政治家達が守屋氏に弱みを握られていた・・のではないかと勘ぐられても仕方がないでしょう。

 このことをめぐって検察が捜査を続けているとの情報が広く流布している以上、留任ぶくみで防衛大臣に任命された小池氏が、検察の動きが公然化する前に、(官房長官・幹事長・幹事長代理時代を通じて守屋氏を熟知している)安倍首相と密かに連携しつつ、(自分自身も沖縄担当大臣や安全保障担当首相補佐官時代を通じて熟知している)守屋氏を切り、このことともあいまって沖縄県との関係の改善を図ることで、宗主国米国に二重にゴマを擂った、としても誰も驚かないでしょう。