太田述正コラム#1826(2007.6.21)
<ヨルダン川西岸とガザの分離>(2007.8.6)

1 始めに

 6月14日、ハマス(Hamas)が、双方や住民に約100人の犠牲者を出しつつガザのファタ(Fatah)の武力組織を壊滅させガザ(Gaza Strip)を制圧しました。
 パレスティナ当局(Palestinian Authority)のアッバス(Mahmoud Abbas)議長兼ファタ最高指導者は、これはハマスによるクーデタであるとし、ただちにヨルダン川西岸(西岸=West Bank)の当局本部(於ラマラ=Ramallah)から、非常事態宣言を発し、三ヶ月前に発足したファタ/ハマス連合「挙国」一致内閣を解散しました。
 (以上、
http://www.guardian.co.uk/israel/Story/0,,2103836,00.html
(6月15日アクセス)による。)
 この結果、ファタが支配する西岸(人口250万人)とハマスが支配するガザ(人口150万人)は分離状態になりました。
 本篇では、両地域の分立の歴史的必然性を説明した上で、今後の展望に触れることにしました。

2 分離の歴史的必然性

 西岸とガザは、一番近いところで、20マイルしか離れていませんが、昨年、ハマスがパレスティナ議会選挙で多数を占めてハマス主導の政権が発足してからというもの、イスラエルが両地域間の往来を、従来より一層厳しく制限したため、両地域は事実上分離状態にありました。
 例えば、ガザのハマス系の議員は議会に赴くことが禁じられたため、やむなくビデオ会議形式で議会審議に参加してきました。

 しかし、よく考えてみると、両地域は分離すべくして分離した、という観があります。
 19世紀初期以来、ガザはオスマントルコの一部であったものの、エジプトの文化的影響下にあり、住民の多くもエジプトの政治的混乱から逃げてきたエジプト人かその子孫でした。これに対し、西岸は、1921年にヨルダン王国ができて以来、開明的なヨルダンと文化的・経済的に結ばれてきました。しかも、西岸にはガザと違って経済力の強いキリスト教徒の少数派住民がいたため、西岸はガザに比べて近代的だったのです。
 1948年のイスラエル建国以降の両地域の歩みも全く違ったものでした。
 1950年にヨルダンは西岸を併合し、その住民にヨルダン国籍を与え、西岸に住民中心の行政/司法のインフラを構築し、西岸はアラブ世界全体に開かれた存在になります。
 ところが、エジプトは、占領したガザで行政と軍事の全てを握って住民を一方的に支配し、拙劣且つ苛烈な統治を行ったのです。
 しかし、何と言っても両地域を決定的に分かつのは、1948年以降に発生した難民の状況の違いです。
 西岸では難民ないし難民の子孫の割合は住民全体の10%未満にとどまり、しかも、難民キャンプに住んでいるのはそのうちの26%に過ぎません。他方、ガザの住民中の難民ないし難民の子孫の割合は84%にも達し、その半分は今だに難民キャンプに住んでいます。
 このため、西岸の住民は西岸に根をおろしていてイスラエルとの間で政治的妥協をする用意があるのに対し、ガザの住民中多数を占める難民は、昔住んでいた場所に戻りたいと思っていて、イスラエルと政治的妥協をする気になどならないのです。
 そもそも、2006年時点で西岸の失業率は18%であるのに対しガザの失業率は35%に達しており、西岸と違ってガザで政治的ないし宗教的急進派の力が強いのも当然です。
 すなわち、西岸では、ヘブロン(Hebron)やナブルス(Nablus)といった一部の大都市を除いて世俗主義的なファタの勢力が強いのに対し、ガザではイスラム教原理主義のハマスが強いのです。
 こうした背景の下で、西岸とガザが分離するに至った、ということなのです。
 (以上、
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-palsplit15jun15,1,5149057,print.story?coll=la-headlines-world
(6月日アクセス)、及び
http://www.latimes.com/news/opinion/la-oe-savage20jun20,0,7771473,print.story?coll=la-opinion-center
(6月21日アクセス)による。)

3 今後の展望

 お気の毒ですが、西岸の住民にとっても、ガザの住民にとっても展望は暗いと言わざるを得ません。
 そもそも、昨年のパレスティナ議会選挙でファタが敗れたのは、ファタが腐敗していて、両地域の住民の信頼を失ったからです。
 他方、ハマスはファタに比べればクリーンですが、欧米からテロリスト団体という烙印を押されています。ですから、ガザには最低限の人道的援助しか入らず、今後ガザの住民は一層困窮の度を深めていくことになるでしょう。
 また西岸で、ファタがハマスを抑え込めるとは限りませんし、仮に抑え込めて治安が確保でき、かつ全面的に再開されるであろう欧米からの援助があっても、腐敗したファタの悪政の下で西岸の住民は苦しむことになる懼れが大です。
 イスラエルと、独立が認められた援助依存腐敗国家西岸と、封鎖され放置された難民キャンプ・ガザ、という三「国」鼎立の未来が見えてきますね。
 (以上、
http://www.csmonitor.com/2007/0619/p01s03-wome.htm
(6月19日アクセス)、及び
http://www.nytimes.com/2007/06/19/opinion/19ajami.html?_r=1&oref=slogin&pagewanted=print
(6月20日アクセス)を参考にした。)