太田述正コラム#1818(2007.6.17)
<国家と諜報活動等>(2007.8.5公開)

1 始めに

 「軍事と国家」(コラム#1815)では、パキスタンとイスラエルにとって軍事がいかに国にとって大事かというお話をしましたが、それはとりもなおさず、いかにこの両国が厳しい安全保障環境に置かれているか、ということでもあります。
 それなのに、この両国に比べれば、さほど厳しい安全保障環境にあるとは言えない米国や英国にとって、なにゆえ現在でも軍事は国の大事なのでしょうか。
 それは、米国は超大国として、そして英国は大国として、世界のいかなる国や地域の安全保障も自分自身の安全保障と密接な関係があるとみなし、友好国であるパキスタンやイスラエルを手助けし、その一方で敵性国家を牽制することが、それぞれ自分達米国と英国の国益に合致すると考えているからです。
 ただし、その手助けや牽制は、軍事力による威嚇や軍事力の行使だけで行われるケースだけではありません。
 経済援助(経済制裁)の形で行われることも、諜報活動の形で行われるケースもあります。
 また、ある国が敵性国家であると同時に友好国家でもある場合もあり得ます。
 今回は、米国の対スーダン政策から、そのあたりのことを探ってみました。

2 米国の対スーダン政策

 (1)敵性国家スーダンへの経済制裁

 これまで300万から400万人が旧ベルギー領のコンゴの内戦で命を落とした(コラム#113)と推計されています。
 それに対し、スーダンのダルフール(Darfur)では民間人20万人が命を落としたに過ぎません。
 コンゴでは2002年12月に平和協定が結ばれたのですが、守られておらず、キヴ(Kivu)州では中央政府系の民兵によって先月だけでも数千の民間人が殺されています。
 ところが、当然人道上の見地から「自由主義的介入」を行うべきであるということになって不思議はないというのに、欧米の市民団体もメディアも政治家も、話題にするのは専らスーダンであり、コンゴのことは忘れ去られています。
 この二つの国で何が違うかというと、コンゴでは、自分達の縁の遠い黒人同士が殺戮し合っているアフリカ内の問題であると認識されているのに対し、スーダンでは、黒人がアラブ人によって大量殺戮されている・・余りに単純化された捉え方だが・・と認識されていることです。
 特に米国では、パレスティナ紛争を通じてアラブ人は悪党で残酷だというイメージが以前から確立しており、このイメージの色眼鏡で物事を見てしまいがちです。しかもこのイメージは、イラクでアラブ人によって米軍が苦しめられている、という認識によってこのところ増幅されています。
 しかもスーダンには、コンゴと違って石油があります。
 その上、スーダンは、米国の戦略的な競争相手である中共と密接な関係がある、ときており、つい最近も、中共が密かにスーダン中央政府に大量の武器を供給したことが明らかになりました。
 だからこそ、米国はスーダンに経済制裁を行っており、スーダンが国連平和維持軍を受け容れなければ、追加的な制裁を加えることをほのめかしているのです。
 結局のところ、口では人権・自由・民主主義を確立するために自由主義的介入をするのだと言っていても、米国が実際にそうするのは、それが国益に合致すると思いこんだ場合だけだ、ということです。
 (以上、
http://www.guardian.co.uk/comment/story/0,,2080265,00.html  
(5月16日アクセス)による。)

 (2)友好国家スーダンとの諜報協力

 このように米国はスーダンを敵性国家と見て、経済制裁を加えているというのに、その一方で米CIAはスーダン政府の諜報機関であるムハバラート(Mukhabarat)と密かにイラク等の不穏分子に対する諜報活動で協力しています。
 米国は同じことをウズベキスタンとも行っているのですが、スーダンもウズベキスタンも人権抑圧国の最たるものです。
 米諜報関係者によると、他のスンニ派のアラブ諸国同様、スーダンからもイラクやパキスタンに不穏分子予備軍が流入しており、このルートでスーダンはスパイをイラク等に送り込み、アルカーイダ等の情報を入手しているので、スーダンとの協力は必要なのだそうです。米国人のスパイは髪の毛や肌の色一つとっても、スーダン人のスパイのようにイラク等に潜入することは困難だからです。
 また、スーダンは、隣国ソマリアの情報を米国に提供しているほか、スーダンに入国したテロ容疑者を米国の要請を受けて拘束する、といった協力もしています。
 見返りにスーダンが得ているのは、米国とのチャネルの確保であり、米国の対スーダン政策の緩和です。
 1996年までオサマ・ビンラディン等のアルカーイダ幹部を匿っていたことがあるスーダンですが、次第にアルカーイダを危険視するようになり、アルカーイダ系不穏分子の情報を集め、彼らを追跡・拘束することは、スーダンにとっても利益があります。
 だから、9.11同時多発テロ以降、CIAからの働きかけに応じて米国とスーダン間の諜報協力関係が始まり、現在に至っているのです。
 (以上、
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-ussudan11jun11,0,3455459,print.story?coll=la-home-center  
(6月11日アクセス)による。)

3 感想

 一体日本が米国から自立し、世界のいかなる国や地域の安全保障も自分自身の安全保障と密接な関係があるとみなすようになるのはいつのことなのでしょうか。
 そのための軍事力や諜報能力を日本が備えるようになるのはいつのことなのでしょうか。