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太田述正コラム#0237(2004.1.23)
<「降伏」した北朝鮮とパレスティナ(続x3)>

(コラム#235の最後の段落の舌足らずな表現を是正してあります。私のホームページ(http://www.ohtan.net)の時事コラム欄でご確認ください。)

(4)見えてきた落としどころ
イスラエルが右派一色になったと言っても、対パレスティナ政策について、かつて右派が唱えていた、ヨルダン川西域とガザ地区をイスラエルに吸収するという考え方は影を潜め、かつての左派の考え方が、現在のイスラエル国民大多数のコンセンサスになっています。イスラエル占領地の中で何らかの形でパレスティナ国家の成立を認める、という考え方です(ガーディアン前掲)。
これは、いくらできるだけ多くのパレスティナ人を領域外に「追放」しようとしても、領域内に多数のパレスティナ人を抱えることになるのは必定であり、これらパレスティナ人との平和共存など不可能だという認識と、パレスティナ人の方がはるかに人口増加率が高いため(既に現在のイスラエル領内に居住するアラブ人と合わせれば)早晩イスラエル領域内の人口はアラブ人の方がユダヤ人よりも多くなってしまい、イスラエルがユダヤ国家でなくなってしまう、という認識、が現在のイスラエル人の間で定着してきたからです。
昨年10月中旬に、鳴り物入りでイスラエル、パレスティナ双方の元高官たる民間人達が「締結」したジュネーブ「議定書」(Geneva Accord)は、
イスラエル占領地と形状がほぼ同じで同一の面積のパレスティナ国家を設立する、
パレスティナ難民の現行イスラエル領内への帰還は認めないが賠償される、
という二点を骨子としています(http://www.fmep.org/documents/Geneva_Accord.html。1月23日アクセス)が、昨年11月に実施された世論調査によれば、この「議定書」をイスラエル国民、パレスティナ人のそれぞれ過半が支持しました(http://news.ft.com/servlet/ContentServer?pagename=FT.com/StoryFT/FullStory&c=StoryFT&cid=1069493428370&p=1012571727102。11月24日アクセス)。
パレスティナ側の「良識派」と民衆が、現行占領地での「独立」を受認しただけでなく、難民の帰還権放棄も認めた、ということは、1948年以来のパレスティナ「解放」闘争が、パレスティナ側の完全な敗北に終わったことを意味します。
最初はユダヤ人を地中海に叩き落すことをめざし、その後は1948年の国連安保理決議による境界線の確保と難民の帰還をめざし、その後は1967年の境界線内におけるパレスティナ国家の設立と難民の帰還をめざしてきたパレスティナ側は、ついに難民帰還権抜きで1967年の境界線内におけるパレスティナ国家の設立という、イスラエル国民の過半が以前から認めてきたラインで手を打たざるをえないところまで追い詰められてしまったということです。

2 勝利宣言をしたイスラエル

こういう状況下、昨年12月末には、イスラエル側からは高らかにパレスティナ紛争勝利宣言が行われました。ヤーロン参謀総長らが、「テロ防止のための」障壁の構築と継続的な夜間の軍事作戦によって自爆テロ・・パレスティナ側の最後の戦闘手段・・の押さえ込みにほぼ成功したと述べた上で、パレスティナ紛争は峠を越したと勝利宣言を行ったのです(http://www.nytimes.com/2003/12/27/international/middleeast/27MIDE.html。12月27日アクセス)
その一ヶ月前の昨年11月末には、シャロン首相から、パレスティナ側が和平交渉に応じなければ、占領地内のイスラエル入植地の一部からは撤退した上で、一方的に境界線の確定をすることになる、という「恫喝」が行われたところです(http://www.nytimes.com/2003/11/28/international/middleeast/28MIDE.html。11月28日)。
(他方でこれは、入植地をどんどん拡大するとともに全入植地から撤退しないとし、かつパレスティナにはイスラエルの主権下の自治しか認めないとしてきた右派シャロン(http://slate.msn.com/id/2093907/。1月15日アクセス)の「転向」だとも取りざたされています。しかし、シャロンは満を持して、従来の彼の主張よりは大幅に左だが、現在のイスラエル国民の過半のスタンス(前述)よりはやや右の着地点を採択した、ということでしょう。)
現在建設中の障壁が、事実上そのまま、シャロンが示唆した一方的境界線になってしまうのではないか、と取りざたされていることはご承知の方も多いと思います。

3 今後の展望

 米国は、シャロンが示唆した一方的解決策には反対していますが、イスラエル側が断行してしまえば、それを覆す意思まではなさそうです。
 そうなると、イスラエル政府の前に立ちはだかるのは、障壁建設がパレスティナ人の生活に著しく支障をもたらしているとして、国際司法裁判所とイスラエルの裁判所に対し、それぞれ国連とイスラエル国民から提起された裁判の帰趨がどうなるかだけですが、シャロン首相は、障壁建設計画に微修正を加えることでこの二つの裁判を乗り切ろうとしています(http://www.guardian.co.uk/israel/Story/0,2763,1126657,00.html。1月20日アクセス)。
 その先には一方的な境界線の確定が待っているのですから、どうやら好むと好まざるとに関わらず、パレスティナ紛争はパレスティナ側が事実上「降伏」した形のまま終結を迎えそうです。

(完)
もう二国論は遅すぎ?http://www.guardian.co.uk/israel/Story/0,2763,1129104,00.html。1月24日アクセス
国際司法裁判所の管轄権?(http://news.bbc.co.uk/2/hi/middle_east/3445933.stm。1月31日アクセス)
シャロンのガザ入植地放棄提案とスワップ提案(http://news.bbc.co.uk/2/hi/middle_east/3455561.stm。2月4日アクセス)

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