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太田述正コラム#0338(2004.5.3)
<アングロサクソンバッシング(その2)>

 (本稿はコラム#313(2004.4.8)の続きです。)

 もう一つのアングロサクソンバッシングの形態がオクシデンタリズム(Occidentalism)です。

2 オクシデデンタリズム

 (1)始めに
 「オクシデンタリズム」という言葉は、9.11同時テロ後に、アルカーイダ系テロリスト達によって、ひいてはイスラム世界において、なにゆえ米国がかくも憎まれているのかを説明するために用いられるようになりました。
言うまでもなくこれは、故エドワード・サイード(Edward Said)の「オリエンタリズム」(1978年に出版された本Orientallismの中で、サイードは、帝国主義時代の欧米がいかにアジアを歪曲して理解したかを批判した)からヒントを得て作られた言葉です。

 オクシデンタリズムという言葉が最初に登場したのは2002年1月にイアン・ブルマ(Ian Buruma)(注3)とアビシャイ・マルガリット(Avishai Margalit)が共同執筆した論考(Buruma & Margalit A。http://research.yale.edu/wwkelly/restricted/Japan_journalism/NYRB_020107.htm(5月3日アクセス))のタイトルとしてです。

 (注3)ブルマは、1951年にオランダ人の父と英国人の母との間にオランダに生まれ、日本にも6年間滞在経験がある。現在ニューヨークのバード大学教授でロンドン居住。(http://www.lettre-ulysses-award.org/authors03/buruma.html。5月3日アクセス)
マルガリットは、エルサレム生まれのイスラエル人でエルサレム大学教授(http://student.cs.ucc.ie/cs1064/jabowen/IPSC/authors/AvishaiMargalit.php。5月4日アクセス)。

その後、これに触発されたと思われますが、2002年5月にはビクター・デービス・ハンソン(Victor Davis Hanson)が、やはりOccidentalismというタイトルの論考(Hanson:http://www.nationalreview.com/hanson/hanson051002.asp(5月3日アクセス))を発表しています。
そして2004年2月に、ブルマがThe Origins of Occidentalismというタイトルの論考(Burma:http://chronicle.com/free/v50/i22/22b01001.htm(5月3日アクセス))を発表し、3月には今度はブルマとマルガリットは共著のOccidentalism: The West in the Eyes of Its Enemies, The Penguin Press (Buruma & Margalit B)が出版されました。
この本は大きな反響を呼び、沢山の書評(書評1:http://www.chron.com/cs/CDA/ssistory.mpl/ae/books/reviews/2467919(5月4日アクセス)、書評2:http://www.globeandmail.com/servlet/ArticleNews/TPStory/LAC/20040327/BKOCCI27/TPEntertainment/Books(5月3日アクセス)、書評3:http://www.nytimes.com/2004/04/04/books/review/04BOBBITT.html(4月9日アクセス)、書評4:http://www.iht.com/articles/513292.html(5月3日アクセス))が出ています。

 (2)オクシデンタリズム論について
 ブルマとマルガリットによれば、オクシデンタリズムとは、物質主義、自由主義、個人主義、人道主義、合理主義、社会主義、デカダンス、そして道徳の弛緩、そしてこれらの象徴たる都市、ブルジョワ、理性、フェミニズムに対する反発に基づく英国やフランス、更には米国に対する批判であり、この種の批判は、19世紀のドイツのロマン主義者やロシアのスラブ主義者、戦前のナチスドイツや日本軍国主義、戦後の毛沢東の中共やクメール・ルージュ、更に昨今のイスラム世界等に共通して見られるところです。
 そしてブルマとマルガリットは、「都市」への反発については、それがユダヤ教・キリスト教・イスラム教共通の悖徳の都バビロン観やイギリスのT.S.エリオット(Eliot。コラム#213)(書評1)らの反産業主義(太田。コラム#81)に由来するとした上で、「ブルジョワ」への反発についてはテオドール・ケルナー(Theodor K?rner)の「幸福は<カネではなく>自己犠牲的死のみによってもたらされる」、「理性」への反発についてはエドガー・ユング(Edgar Jung)の「第一次世界大戦は(西側の)知性と(ドイツの)魂の衝突である」、「フェミニズム」に対する反発についてはアルフレッド・ローゼンベルグ(Alfred Rosenberg)の「すべての文化の基礎である民族と人種、すなわち永遠の無意識、を救おうとする女性の世代の第一の要求は、女性の女性解放運動からの解放である」、という言をそれぞれひき、オクシデンタリズム論へのドイツ人(注4)の「貢献」の大きさを示唆しています。
 (以上、特に断っていない限り、Buruma & Margalit A による。)

 (注4)Theodor K?rner:1791??1813年。詩人・小説家
http://gutenberg.spiegel.de/autoren/koerner.htm。5月4日アクセス)。
     Edgar Jung:1894??1934年。政治家・評論家
http://www.dhm.de/lemo/html/biografien/JungEdgar/。5月4日アクセス)。
     Alfred Rosenberg:1893??1946年。政治家・評論家。ニュルンベルグ裁判の結果死刑に処される。(http://en.wikipedia.org/wiki/Alfred_Rosenberg。5月4日アクセス)

(続く)

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