太田述正コラム#0350(2004.5.15)
<新悪の枢軸:中国篇(その4)>

 (本コラムの購読者数が10日に769名に達して以来、一時772名までのびたものの、現在再び769名に戻っています。5日間も数が増えなかったのは、最近にはないことです。購読者数が踊り場にさしかかっただけなのか、ついにサチュレーション・ポイントに達したのかが問題です。後者だとすれば、残念ながらそろそろ店じまいを考えなければなりません。)

4 遠のく民主主義

 中国の現状を見てくると、もはや共産党一党独裁体制が行き詰まりつつあることは明らかです。
 一体中国はいつ民主主義体制に移行するのでしょうか。そもそも、それは可能なのでしょうか。

 (1)共産党の民主主義「理論」の変遷
 ア 野党時代の理論
日支事変中の1939年2月24日付の新華日報(Xinhua Daily。中国共産党の当時の機関紙)は、「<共産党に反対する国民党等の連中は>中国で民主主義を実施するのは今日のことではなく、数年後のことだと考えている。彼らは欧米の民主国家の市民の場合と同様、中国人民が知識を身につけ教育を受けてから民主主義を実践することを願っている。・・しかし、人民がより良い教育や訓練を確保できるのは民主体制の下でこそなのだ。」としています。
また、先の大戦中の1944年2月2日付の同紙には、「民主国家の人民の最低の政治的権利の一つが選挙権だ。人民は主人であり、役人は彼らの召使いだ。もし人民が選挙権を与えられていなければ、その国は民主国家とは言えない。・・第一次世界大戦以来、世界は不可避的に普通選挙の実現に向かって歩んでいる。」とあります。
そして日本敗戦直後の1945年9月27日付には、「一党支配(=国民党による一党独裁(太田))を終わらせることなくして、すなわち普通選挙なくして民主主義は不可能だ。人民の権利を人民に返還せよ!」とあります。
最後にもう一つ。
1946年1月24日付けには、「人民の識字率が低いことが選挙を行わないことを正当化するだろうか。このことは長らく議論されてきた。自分たちの支配を継続する目的でもってこのことを民主主義の実施を遅らせる口実に使う<国民党等の>連中がいることは事実だ。しかし、これがさもしい動機に基づくものであることは明白だと思わないか?」とあります。
思わず拍手喝采したくなるような論調ですね(注4)。

(注4)これらのバックナンバーの公表は中国政府によって禁止されている。一時、http://smxj.myrice.com/his/xs/linkにアップロードされていたようだが、私が読もうとしたところ、既にアクセスできなくなっていた。共産党中央宣伝部の精励ぶりに敬意を表しておこう。

1930??40年代に中国共産党が普通選挙を主張していたのは、普通選挙を実施すれば、確実に国民党に勝利できるという判断があったからです。
この主張に信憑性を与えていたのは、当時の共産党解放区で村長選挙が実施されていたという現実です。もとより、識字率が低いことから名前を書く方法による選挙は不可能であり、立候補者の後ろに置いてある入れ物に白い豆(賛成票)か黒い豆(反対票)を投じる方法でした。

 イ 毛沢東・クt]平時代の理論br />しかし、共産党が国民党との内戦に勝利して1949年に中華人民共和国ができると、上記理論はただちに廃棄されます。
新たに登場したのはブルジョワ民主主義と社会主義的民主主義を区別する理論です。
つまり、欧米の民主主義では民衆は操作され搾取されており、普通選挙、報道の自由、発言の自由などまやかしに過ぎないのに対し、中国のような社会主義的民主主義では人民は文字通り国の主人であり、完全な民主主義が実践されている、というのです。

 ウ 江沢民時代の理論
中国共産党が再び軌道修正を開始したのは、江沢民が1989年に中共党総書記に就任する直前の1988年です。
上記社会主義的民主主義理論は廃棄され、民主主義は復権します。
まず、村レベルで選挙が導入され始めます。しかし、いつまでたっても中央政府レベルはもとより、省・県・市・鎮レベルでの選挙の実施は日程にのぼってきません。
どうしてでしょうか。
2000年に当時の江沢民国家主席は、米CBSのインタビューに応じ、それは中国人民の「質が低すぎるからだ」と答えました。そんな人民に選挙をやらせれば「混乱が起こるだろう」というのです。
2000年の国勢調査によれば、中国の文盲率はわずか6.72%まで下がっているというのに、それでもまだしゃあしゃあと人民の「質が低い」と言ってのけるのですからあきれるほかありません。

 エ 胡錦涛時代の理論
そこへつい最近、新しい理論が登場しました。
人民が十分「愛国的(patriotic)」でなければ普通選挙は実施できない、という理論です。
これは、つい先だって、香港の行政長官(chief executive)及び立法会(legislative council)のそれぞれ2007年と2008年時点における直接選挙を否定(http://www.atimes.com/atimes/China/FD29Ad04.html。4月29日アクセス)するにあたって用いられた理論ですが、一人あたりGDPが24,000米ドルを超える、教育の行き届いた教養ある香港人民に対し、「質が低い」とはさすがに言えなかったからでしょう。

(以上、特に断っていない限り、http://www.atimes.com/atimes/China/FE11Ad04.html(5月11日アクセス)による。)

(続く)