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太田述正コラム#0354(2004.5.19)
<インドの政変(その1)>

1 インド総選挙の結果

先般のインドの総選挙では、事前のあらゆる世論調査や評論家の予想を覆してBJPを中心とする与党連合が敗北し、国民会議派(Indian National Congress)を中心とする野党連合が勝利を収めました。
これにより、独立以来の57年間のうち45年間インドを統治してきたジャワハルラル・ネール(Jawaharlal Nehru)とインディラ・ガンジー(Indira Gandhi)の党、国民会議派が1996年以来、8年ぶりに政権の座につくことになりました(http://www.nytimes.com/2004/05/14/international/asia/14INDI.html及びhttp://news.ft.com/servlet/ContentServer?pagename=FT.com/StoryFT/FullStory&c=StoryFT&cid=1083180488394&p=1012571727102。5月14日アクセス)(注1)。

 (注1)国民会議派が他の党と連合を組んで選挙を戦ったのは初めて。

 当選者数を見ると、前回の1999年の総選挙ではBJPは180議席だったのに、今回は42議席減らして138議席、与党連合で見ても275議席が90議席減って185議席になってしまったのに対し、国民会議派は114議席が31議席増えて145議席となり、野党連合で見ると151議席から66議席増えて217議席になったのですから、BJPの地滑り的敗北、国民会議派の地滑り的勝利です(http://www.indian-elections.com/resultsupdate/。5月18日アクセス)(注2)。

 (注2)全議席数は543だが、うち4議席は投票時に不正行為が行われた疑惑があることから、まだ結果が確定していない。

2 分析

 そこで、大あわてで英米のマスコミはBJPの敗因分析をもっともらしく行っています。
 第一に指摘されているのは、BJPが(India Shining というコピーを用いて)宣伝これ努めた、このところの情報産業の隆盛に象徴されているインドの高度成長の恵沢が、貧困地帯である農村地帯や都市スラムにまでは十分及んでおらず、有権者の大部分を占める貧民の総スカンを食らった(注3)というのです。

 (注3)インドの10億5,000万人のうち、自転車も買えない「牛車生活」の人々(多くは文盲)が8割、スクーターやテレビのある「二輪車生活」をしている人々が15%であり、先進国並の、飛行機に乗り、レストランで食事をできる「ビジネスクラス」の人々は2%(それでも2,500万人もいる)に過ぎないhttp://news.ft.com/servlet/ContentServer?pagename=FT.com/StoryFT/FullStory&c=StoryFT&cid=1083180492974&p=1012571727102。5月14日アクセス)。
失業率も8%に達している。ただし、高度成長の結果、人々の期待水準が上昇していることも忘れてはなるまい。(http://www.washingtonpost.com/ac2/wp-dyn/A28116-2004May14?language=printer。5月15日アクセス)

 しかも、米国などとは逆に、インドでは所得の低い人の方が投票率が高いため、この傾向が一層増幅された結果が出たというわけです。
 第二は、第一とも関連していますが、腐敗している政治家全般(コラム#286)に対する不信感から、インドの総選挙(及び同時期に実施される州議会選挙)ではいつも現役議員が大量に落選させられるところ、今回は落選率が一層高まった結果、議席数の多かったBJP連合(次のコラム参照)が割を食ったというのです。
 第三は、ヒンズー主義とアナクロニズムを象徴するBJPに代わって、世俗主義と近代性を象徴する国民会議派が選択されたというのです。
 ヒンズー、イスラム両教徒の衝突が頻繁に起こり、グジャラート州では1000名ものイスラム教徒が虐殺された(コラム#285)ことに人々は嫌気がさしていた、というわけです。
 特に有権者の14%を占め、その圧倒的多数が貧者であるイスラム教徒は、BJPの最近の「変身」(コラム#285)を信じず、BJPの有力対立候補にまとめて票を入れたと言われています。
 第四は、まさにこのBJPの最近の「変身」ぶりに、従来のBJP支持層のうちの過激派がそっぽを向いたというのです。
 第五は、このところのインドの高度成長は社会主義的経済からの転換の賜であるところ、この政策転換が行われたのは1992年、国民会議派政権によってであることを人々は良く知っている(注4)というのです。

 (注4)もっとも、現在のインドの貧困は、過去半世紀の大部分の期間インドを統治してきた国民会議派の責任であることも人々は良く知っている(http://www.nytimes.com/2004/05/15/international/asia/15indi.html。5月15日アクセス)。

 第六は、選挙戦術の話ですが、BJPの連合戦略に比べて、初めて連合戦略をとった国民会議派の連合の組み方が一枚上手だったというのです(http://www.atimes.com/atimes/South_Asia/FE14Df05.html。5月14日アクセス)。
 (以上、特に断っていない限り、ファイナンシャルタイムス上掲のほか、(http://www.nytimes.com/2004/05/14/international/asia/14INDI.html(5月14日アクセス)による。)

 しかし私に言わせれば、以上の分析はことごとく誤りです。

(続く)

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