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太田述正コラム#0412(2004.7.16)
<トラディショナリズム(その3)>

 (3)トラディショナリスト達の主張
 ルネ・ゲノン(1886-1951)は、近代を全面否定しました。
 ということは、私の理解ではゲノンは、近代そのものであるところのアングロサクソン文明・・個人主義及びこれに伴う自由・人権の思想を中核とする・・を全面否定したことになります。
 ゲノンは、20世紀の欧米は、退廃が神格化され、物質主義が精神より優先され、共同体より個人が優先される終末の時代を迎えた、と主張します。ルネッサンスは、再生ではなく死であり、ルネッサンスに端を発する科学・理性・ヒューマニズムは妄想の産物である、とも主張します。
 では、彼はどうすれば良いというのでしょうか。
 ゲノンが推奨するのは、人々が、近代化が歪める以前のあらゆる宗教の根底に横たわる、古代的真実を見い出し、体得することです(注3)。

 (注3)ゲノン自身は、このような自分の「思想」に名前をつけてはいない。トラディショナリズムというのは、ゲノンらが「トラディション(伝統)」という言葉を多用しているところからセッジウィックが命名したもの。

 ユリウス・エヴォラ(1898-1974)は、ゲノンの「思想」を踏まえ、イタリアのファシズムやナチズムに対し、より過激により破壊的に、と「指導」を試みますが失敗します。
 しかしエヴォラは、第二次世界大戦後、イタリアの右翼、次いで左翼のテロリスト達に大きな影響を及ぼことになります。
 ミルチャ・エリアーデ(1907-1986)は、フィッチーノからジョルダノ・ブルーノ(Giordano Bruno)に至るルネッサンス期の哲学者の研究から出発し、後にインドでヴェーダ哲学の研究を行い、彼が身につけた「地方」哲学たる欧州の哲学を「普遍」化します。
そして彼は、宗教の対象は聖なるものであり、その聖なるものがシンボル・神話・儀典等を通じて物理的に顕現しまたは啓示されたところのhierophaniesを人間は認知できるとし、人が知覚するあらゆるものが潜在的なhierophaniesであって、これを通じて人は非歴史的時間に邂逅できる、と主張するようになります(http://www.westminster.edu/staff/brennie/eliade/mebio.htm。7月16日アクセス)。
 これをセッジウィックは、やわらかい(soft)トラディショナリズムと呼んでいます。
 エリアーデはルーマニアのファシズム(Iron Guard)と関わりを持ち、この汚点が終生彼について回りますが、彼は第二次世界大戦後、共産主義化したルーマニアから離れ、フランスの大学で教鞭をとります。そして晩年、米国のシカゴ大学に招聘され、エリアーデの考え方は米国の比較宗教学(Religious Studies)に大きな影響を与えました。

(4)懲りないロシア
 存命のトラディショナリスト中、一番気になるのはアレクサンダー・ドゥーギン(1962年??)です。
 ドゥーギンは、ユーラシアニズム(Eurasianism)を唱えています。
 ユーラシアニズムはマッキンダーの地政学(コラム#239)と愛スラブ主義(Slavophilism。http://www.blackmask.com/books72c/interpslave.htm(7月16日アクセス))を合成したものであり、ドゥーギンは、共産主義ならぬ正教を掲げ、精神主義的・共同主義的なハートランドたるロシアを中心としたモスクワ??ベルリン??パリ枢軸(「陸」のブロック)を形成して欧州を取り込み、物質主義的・自由主義的な大西洋ブロック(Atlantic Block=「海」のブロック。米国の世界覇権)と対決すべきだと主張しています。
 彼は2002年にユーラシア党という政党兼シンクタンクを創設しますが、この政党は、国家的(National)な心と社会主義的(Socialistic)な顔を持ったユーラシア的経済の構築を謳っており、ナチスを彷彿とさせます。
 ドゥーギンの「学説」は、ソ連時代は禁止されていましたが、今ではロシア共産党の中に多くの信奉者がいます。
 それどころではありません。
 ユーラシア党は、プーチン政権から組織的・金銭的な支援を受けていると言われています。これに加え同党は、ロシア正教はもとより、ロシアのイスラム教、仏教、ユダヤ教の指導者達からこぞって支持されているのです。
 そしてドゥーギンは、上述した欧州の取り込みのほか、トラディショナリストたるロシアのイスラム教徒ガイダル・ジャマル(1947年??)を通じてチェチェン問題を解決した上で、ロシアを中心としたモスクワ??テヘラン枢軸を形成し、中東をも取り込むことを目論んでいます。
 (以上、http://www.fact-index.com/a/al/alexander_dugin.html(7月16日アクセス)による。)

(続く)

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