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太田述正コラム#0416(2004.7.20)
<疲弊する米軍(その2)>

 米議会の中からは、米陸軍のフルタイム兵力の上限枠を上方改訂すべきだとの声があがっていますが、国防省は、きついのは今がピークであり、民間委託を更に推進し、戦闘要員の比率を高めることで長期にわたって現行兵力水準で十分であるとしてこれに反対しています。もっとも、国防省が反対している本当の理由は、増員を図っても募集が追いつかない上、陸軍予算が人件費に喰われてしまって新規装備費に回すカネがなくなってしまうからです。
 そのかわり今年、ラムズフェルト国防長官は、陸軍参謀長の要請に応えて、緊急権限を発動し、議会によって認められている陸軍兵力上限の48万2,000人に3万人臨時にかさ上げする措置をとりました。
 これを受け、陸軍は、募集努力を強化する(注2)とともに退役間近の兵士達を種々のボーナスで釣ったり上述したStop Loss Orderを発したりして1万3,000人実質増員することに成功しました。
(以上、http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-troops16jun16,1,6559798,print.story?coll=la-headlines-world(6月17日アクセス)による。)

 (注2)マイアミの陸軍募集事務所では、街の中を若い男女を捜して募集担当官が歩き回り、見つけると声をかけるという、かつての日本の大都会での自衛官募集の姿を彷彿とさせるような募集活動を行っており、その殺し文句は「大学に通う奨学金が欲しくないか。陸軍に入れば、奨学金が手に入った上に1万ドルのボーナスも出て、しかもフロリダにいるより安全だよ。フロリダ州では昨年338人も殺人事件で死亡しているが、イラクでのフロリダ出身の兵士の死者は9人だけなんだから」というもの(?!)。(http://www.guardian.co.uk/usa/story/0,12271,1258593,00.html。7月11日アクセス)

(2)慣れないミッション
 以上、数の不足についてご説明してきましたが、米地上部隊が疲弊しているのは、慣れないミッションに従事していることの方が大きいと言うべきでしょう。
 ベトナム戦争が終わってからというもの、米地上部隊は正規軍と決戦を行う、という「本来」の姿に戻り、イラク戦争を迎えました。
 ところが、イラク正規軍相手の戦闘はあっという間に終わり、それからは予期せぬゲリラやテロリスト相手の非正規戦に移り、現在に至っています。しかも、イラクという環境には砂と埃と酷暑という大敵がおり、何もなくても兵士のみならず装備も急速に疲弊し劣化します。
 その結果、5月中旬の時点で、米陸軍の戦闘能力の三分の一以上を占める三つの陸軍師団が「戦闘能力なし(unfit to fight)」と判定されるという空前の事態になっています。
本来、軍隊というものは、戦えば戦うほど精強になるものなのに、正反対の事態が生じているわけです。
 一例をあげれば、歩兵は射撃の腕前が重要ですが、いつ襲ってくるか分からない敵を延々と待ち受けたり監視したりしている内に腕はなまり、小銃の引き金は砂や埃が入り込んで動かなくなってしまうのです。
 歩兵の場合はまだいいのかもしれません。戦車の操縦士が兵員輸送戦闘車を操縦させられたり、砲兵が憲兵をやらされたり、空挺要員が敵の狙撃手や道ばたの爆弾を見つける役を割り当てられたり、検問をやらされたりするのですからたまったものではありません。
 これでは兵士達の「本来」の戦闘技量がどんどん低下し、彼らの集合体たる師団の戦闘能力が低下することは避けられないわけです。
 (以上、(http://www.latimes.com/news/nationworld/iraq/la-na-ready15may15,1,3883097,print.story?coll=la-home-headlines(5月15日アクセス)による。)

2 米空軍

疲弊しているのは地上部隊だけではありません。米空軍もそうです。
米空軍の空輸コマンドは、50年も前のベルリン封鎖時以来の大量兵員・物資輸送ミッションに従事しています。とても空軍だけでは対処しきれないので、民間委託を推進しており、既に全輸送量の1割は民間に外注していて、その割合は今後更に増加していく見込みです。
空軍もまた陸軍同様、議会から認められた35万9,000人のフルタイム兵力上限に臨時に1万6,000人かさ上げする措置をとっているものの、上限枠そのものの上方改訂は避けようとしています。
空軍は、これも陸軍同様、州兵や予備役を活用しています。例えば空輸コマンドの15万人の兵力中、州兵と予備役は6割を占めるに至っています。(予備役の操縦士は、フライトの12時間前に声がかかり、仕事や家族との予定をキャンセルして任務につきます。)
空軍固有のやりくりとしては、空輸コマンドの操縦士等の地上待機時間の減少・・ドイツから途中空中給油を受けてアフガニスタンまでの往復で26時間殆ど飛びっぱなしなどということもざら・・と、10個空軍遠征部隊(Air Expeditionary Force)要員の海外派遣期間の90日間から120日間への延伸があげられます。
(以上、http://www.csmonitor.com/2004/0616/p07s01-wosc.html(6月16日アクセス)による。)

(続く)

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