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太田述正コラム#0601(2005.1.21)
<奴隷制廃止物語(その4)>

4 エピローグ

 (1)派生した市民運動
  ア 始めに
 奴隷解放運動は人類史上最初の市民運動でしたが、この運動から派生した様々な市民運動が英国で始まります(http://www.csmonitor.com/2005/0111/p15s01-bogn.html前掲)。
フェミニズム運動については、既に何度か採り上げているので、ここでは選挙権拡大運動と児童労働廃止運動をご紹介することにしましょう。

  イ 選挙権拡大運動
奴隷解放運動の過程で英国下院の動きがにぶかったことから、選挙権拡大運動が始まるのですが、1832年の選挙法改正によって選挙権が中産階級まで拡大されたものの労働者階級は除外されたことと1834年の新救貧法制定によって貧民救済制度が骨抜きにされたことから、労働者の選挙権拡大運動が一挙に盛り上がります。名高いチャーチスト(Chartist)運動です。
この運動の名前は、1838年に法案の形のCharter(憲章)を掲げたことに由来します。
内容は、男子普通選挙導入・秘密投票制導入・議員(候補)財産資格廃止・議員歳費支給・選挙区均等化・選挙毎年実施、の六つを柱とするものでした。
彼らによって敢行された1839年・1842年・1848年の三回にわたる署名100万人??300万人台の請願の下院への提出や累次にわたる大示威活動やゼネストは、英国社会を震撼させました。
1939年の大示威活動の際には、警備にあたっていた兵士が発砲し、少なくとも20人の死者と50人の負傷者を出しましたし、その後も活動家の多くが投獄されたりオーストラリアへの流刑に処せられたりしました。
結局目標を実現できないまま1860年には解散に追い込まれた、という意味ではチャーチスト運動は失敗に終わりますが、彼らが掲げた目標がほとんど19世紀末までには達成された(注6)ことからすれば、運動は大成功を収めたと言っていいでしょう。
(以上、http://www.spartacus.schoolnet.co.uk/PR1867.htm以下、http://www.bbc.co.uk/history/society_culture/protest_reform/chartist_01.shtml以下。http://www.chartists.net/Chartist-Timeline(いずれも1月19日アクセス)による。)

(注6)1867年に都市の成人男子に基本的に普通選挙権、1872年に秘密投票制、1884年に田舎の成人男子にも基本的に普通選挙権。なお、1928年に女性を含め完全普通選挙権。

  ウ 児童労働問題
産業革命の初期段階においては、紡績機が小さく子供の方が操作や整備をしやすかったため、児童が汚く換気が十分でない狭隘な労働環境の下で長時間労働に従事させられました。
産業家のオーエン(Robert Owen。1771??1858年)は、(自分の労働環境を整えた工場では10歳以上の子供に10時間労働しか課さず、しかも工場に併設された学校に通わせていたことを踏まえ、)貧乏な家の6??8歳の大勢の子供達が7年奉公の契約で毎日劣悪な環境の工場で13時間も酷使され、死亡率が高いが容易に補充されている、と1813年に怒りを込めて産業界を糾弾しています。
強制的に劣悪な環境で働かされ、減耗率と補充率が高い、となれば、これは奴隷制とさして変わりません。
1831年にはせめて児童の労働時間を減らそうという運動が、福音派(Evangelicals)(注7)が中心になって始まります。

(注7)良い行いや秘蹟(sacrament)によってではなくただ信仰によってのみ人は救済され、聖職授任(ordination)に意義を認めず、もっぱら聖書に拠るべきである、と唱えたプロテスタント諸派を指す。批判的勢力は往々にして、その主力であったメソジスト(コラム#517)と福音派を同一視した。

この運動の結果、1833年には児童の労働環境の清浄化と日曜学校くらいには児童をかよわせなければならないことが義務づけられ、1848年にまでには大工場にあっては12歳未満の児童労働が禁止されるとともに13歳以上は成人と同じ10時間労働とされます。(この規制が全工場に拡大されたのは1867年になってからでした。)
(以上、全般的には、http://www.gober.net/victorian/reports/work.htmlhttp://www.victorianweb.org/history/hist8.html(いずれも1月19日アクセス)、オーエンについてはNYタイムス前掲及びhttp://www.spartacus.schoolnet.co.uk/IRowen.htm(1月20日アクセス)による。)

(続く)

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