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太田述正コラム#0637(2005.2.22)
<モンゴルの遺産(その6)>

とはいえ、内戦の被害は甚大であり、公表されたばかりのアフガニスタンの人間開発指数(注9)は調査された178カ国中173番目であり、アフガニスタンの自由・民主主義の前途は多難です(http://www.nytimes.com/aponline/international/AP-Afghan-Development.html?pagewanted=print&position=。2月22日アクセス)。日本を含め、国際社会はアフガニスタンに今後とも支援の手を差し伸べて行く必要があります。

 (注9)人間開発指数(Human Development Index=HDI)とは、人間開発の3つの基本的側面(寿命、知識、生活水準)を通して各国の平均的達成度を測定したもの。この3つの側面を表すものとして、平均寿命、教育達成度(成人識字率と初等・中等・高等教育就学率を加えたもの)、1人当たり実質国内総生産の3つの変数が使われている。国連開発計画(UNDP)は、この人間開発指数を用いて、1990年から「人間開発報告書」を発表している。(http://www.ne.jp/asahi/manazasi/ichi/syakai/ningenkaiha0102.htm。2月22日アクセス)

 (3)インド亜大陸・東南アジア
大部分がかつて英仏蘭等の植民地であったところのインド亜大陸及び東南アジアの諸国は、自由・民主主義化の優等生であっても不思議はないのですが、必ずしもそうなってはいません。
スハルト(Suharto)政権が1998年に倒れてから着実に自由・民主主義化が進展しているインドネシアを唯一の例外として、パキスタンにおけるムシャラフ(Pervez_Musharraf)大統領による実質的軍政の継続、(昨年の総選挙による国民会議派の政権復帰によって小休止状態にあるものの)ヒンズー教原理主義化しつつあるインド、毛沢東主義ゲリラに手を焼き今年ギャネンドラ(Gyanendra)国王によって議会制が停止されたネパール、三年連続して世界で最も腐敗した国という烙印を押されるとともにイスラム教原理主義化しつつあるバングラデシュ、内戦を終わらせることができないスリランカ、軍政が継続しており昨年秋には政権の穏健派幹部(Khin Nyunt)すら失脚させたビルマ、タクシン(Thaksin Shinawatra)首相による全TV局の掌握と不正選挙による与党の議会での圧倒的多数の確保によりファシズム化の恐れが出てきたタイ、1985年以来ずっと首相であるフンセン(Hun Sen)の下で破綻国家たる状況から脱却できないまま今年野党のランシー(Sam Rainsy)党首達を亡命に追いやったカンボディア、独立以来一貫して実質的に一党独裁状況が継続しているマレーシアとシンガポール(注10)、共産主義体制下にあるラオスとベトナム、自由・民主主義の片鱗も見られないブルネイ、表見的自由・民主主義が「アジアの病人」状況を生んでいるフィリピン、という有様です(注11)。
(以上、全般的にはhttp://www.csmonitor.com/2005/0210/p06s01-woap.html(2月10日アクセス)、パキスタンについてはhttp://www.washingtonpost.com/wp-dyn/articles/A10782-2004Dec18.html(2月21日アクセス)、インドについてはコラム#284??288・301??303・315・317・318・354・355、バングラデシュについてはhttp://news.bbc.co.uk/2/hi/programmes/crossing_continents/4270657.stm(2月18日アクセス)、タイについてはhttp://news.bbc.co.uk/2/hi/asia-pacific/4242203.stm(2月22日アクセス)、カンボディアについてはhttp://www.atimes.com/atimes/Southeast_Asia/FL25Ae02.html(12月25日アクセス)、マレーシアについてはコラム#316、シンガポールについてはhttp://www.csmonitor.com/2004/0526/p06s01-woap.html(2004年5月26日アクセス)、フィリピンについてはhttp://www.atimes.com/atimes/Southeast_Asia/FI30Ae04.html(2004年9月30日アクセス)を含む6回シリーズ、による。)

(注10)同じく漢人(が主導権を握る)国家であるとはいえ、人口400万人の小都市国家に過ぎないシンガポールにとって光栄なことに、人口12億人の中国は、シンガポールを自らの政治・経済システムの模範として仰ぎ見ているらしい。
(注11)これらの国について、それぞれもっと掘り下げて論じるべきだが、他日を期したい。

ここで銘記すべきことは、インド亜大陸・東南アジア諸国には拠るべき自由・民主主義的伝統がないことでり、とりわけ、モンゴルによる直接統治を(ベトナムが一時モンゴルに占拠されたことはあるが)経験していないことです(注12)。

(注12)インドのムガール(Mughal)帝国の祖バーブル(Babur。1483??1530年)は、母方はチンギス・ハーン、父方はチムール血を引く人物であり、しかも「ムガール」すなわち「モンゴル」ではあるものの、完全にトルコ化しており(http://www.incois.gov.in/Tutor/babur.html。2月22日アクセス)、インド亜大陸がムガール帝国に支配されたことをもって、モンゴルに支配された、とまでは言えない。実際、クリルタイ/ジルガ的なものをインド亜大陸で見出すことはできない。ただ、ムガール帝国最盛時においても、ネパール・東ベンガル地方(現在のバングラデシュ)・スリランカ等は版図外であった(http://www.tabiken.com/history/jpeg/S/S016L103.jpg。2月18日アクセス)ところ、ムガール帝国支配下にあったインド・パキスタンに比べて、上記地域以東の諸国の自由・民主主義の進展ぶりに遜色があるように見えるのは面白い。

(4)中央アジア
(旧ソ連領)中央アジアは、モンゴル(含チムール)の支配を受けた地域であり、イスラムの強い影響を受け、共産主義を押しつけられていた、という負の遺産があるにもかかわらず、ソ連崩壊後10余年で早くも自由・民主主義化の兆しが諸処に見えるのは、独立後半世紀経ってもなお自由・民主主義が定着していないインド亜大陸・東南アジアとは好対照です。

(続く)

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