太田述正コラム#655(2005.3.10)
<再び日立問題について(続)>

 私がせっかちなのかもしれませんが、私のご披露した日立問題には、全く異な
る見方がありえる、というのが本日の話題です。
 皆さん、推理小説や推理ドラマがお好きな方は多いでしょう。
 犯人は誰か、その動機は何かを思いめぐらし、結構的中させることもあるので
はありませんか。
 推理小説や推理ドラマの暗黙のルールは、犯人が狂人(これは禁止用語なので
すね。普通に変換キーを押しても出てきません。使用することを大目に見て下さ
い)ではない、ということです。
 同様、日立問題に関わった日立関係者の中にも狂人はいないはずだ、という前
提に立つとして、一人の迷探偵に登場してもらいましょう。
 「強者」だらけの皆さんの中で、めずらしくカンが鋭い人らしいですよ。

 <迷探偵「金田一強者」の推理>
 太田君、まただまされおったな。何度もウソをつかれて頭に来た?そんなこと
は商売では当たり前だよね。営利企業が愚行を繰り返し、カネを垂れ流しにして
いる?これも官公需依存大企業の通弊だよね。それがどうしてか究明したいだっ
て?大いにやってっくれたまえ。
 しかしだな。読者の一人が「今回の日立の対応は、たしかに腑に落ちない点
<が>ある」と言っとるように、ちょっとおかしいと思わないか。
 まず第一に、どうしてセクションの業務が大幅に縮小させられたのだろう。
 セクションの責任者のAが上司と衝突した、というが、いくらAがセクションの
「創業者」だったとしても、IT部門の総括部局は、どうしてまだ発足して二年も
たっていないセクションの業務を大幅に縮小させたのだろうか。セクションが愚
行を繰り返し、カネを垂れ流しにしたことは、どうやら日立全体の通弊のようだ
から、そんなことが理由ではないはずだ。
 第二に、太田君の「感謝状要求」をIT総括部局が受け取ってからの対応は、太
田君が苦し紛れにひねり出した諸「理論」では説明がつかないほど異常だ。
 発想を180度変えてみよう。
 日立のIT総括部局の対応は常に合理的な計算に基づいていた、と仮定してみる
のだ。
 今をときめくIT部門の総括部局まで愚行を繰り返すようでは、太田君の言うよ
うに、日立は既につぶれているはずだ。
 発想を180度変えると、こういうことが言えるのではないか。
 まず、セクションの業務の大幅縮小は、絶対に公表をはばかられる目的をもっ
て行われたのではないか、ということだ。
 しかし、その時点で、太田君が口利きをセクションのために行っていたことま
で、IT総括部局は知らなかった、としよう。
 太田君が「感謝状要求」をつきつけたことは、IT総括部局にとってショック
だったに違いない。
 「感謝状要求」そのものよりも、太田君が、日立と円満に別れたというストー
リーを(ウソのストーリーでもいいから)つくってくれ、と求めたことが問題
だった。
 IT総括部局としては、太田君に謝意表明するくらいのことは朝飯前だっただろ
うが、ストーリーの方がどうしてもつくれない。ウソのストーリーをつくって
も、なまじ太田君がセクションの内情をよく知っている。(例えば、セクション
のコンセプト作りをしたaは太田君の友人だったよね。)それだけにウソはすぐ
ばれてしまう。何かを隠すためにウソをつかざるをえない、ということが太田に
分かってしまうことを彼らは恐れた。
 そこで太田君にはゼロ回答する方針が決まった。
 しかし、善意で「感謝状要求」等をつきつけていた太田君は当然怒り狂うだろ
う。太田君が更に何らかのアクションをとることも大いに考えられる。
 その結果、青森県、大分県、防衛庁等で日立が全社的に蒙るであろう損害は甘
受せざるを得ない。
 しかし、一番困るのは、殆ど考えられないことではあるが、太田君が感謝状要
求・謝罪・報酬支払い・賠償、の一部または全部を求めて裁判に訴えることだ。
そこでやむをえず、その場合の対応策まで検討することになった。
 恐らく、予想される太田君(原告)側の証人リストも作成され、場合によって
は証人工作も行われたかもしれない。
 検討のポイントは、裁判の過程で、セクションの大幅業務縮小の本当の理
由・・不祥事・・が明るみに出る可能性を排除できるかどうか、だった。
 検討の結果、秘密はぎりぎり守り通せると判断された。
 そこで、二ヶ月後、太田君にゼロ回答がようやく伝達された。
 <迷探偵「金田一強者」の推理:終わり>

 いかがでしたか。
 お前自身はどう思っているのかですって?
 それが分からないのですよ。
 日立全体が機能不全に陥っており、私がそのために翻弄されただけなのか、少
なくとも日立の一部は、不祥事をもみけすためなら不始末が明るみに出て損害を
蒙ることくらいは甘受する、という程度の合理的行動はとることができ、私はそ
の合理的行動の「犠牲」になったのか。そのどちらなのかが。
 しかし、私も命が惜しいので、詳細には申し上げられませんが、様々な状況証
拠から、後者の要素もあった可能性が高いと思います。
 いずれにせよ、私としては、読者の皆さんが一人として、後者の可能性を指摘
しなかったのは、皆さんがお勤めになっていたり、皆さんがおつきあいのある大
企業が、おしなべてひどい機能不全に陥っているため、日立の機能不全の程度が
尋常でないことに皆さんが気付かなかったためではないか、という懸念を持って
います。
 そうだとすると、日本の現状が心の底から心配です。