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太田述正コラム#0675(2005.3.30)
<ライブドア・フジサンケイグループ「抗争」(その1)>

1 始めに

 ライブドアとフジサンケイグループの「抗争」が続いています。
 外野的視点から、この抗争をめぐる主要論点を4つ挙げた上で、思いつくままに議論を発展させてみました。
 皆さんのご意見もお聞かせください。

2 論点

(1)社会的機能と法的外観の乖離
新聞・ラジオ局・TV局といったマスメディアは、(その娯楽機能はさておき、)自由・民主主義的な社会を機能させるための不可欠な公共的な機関であり、立法行政司法の三権と並ぶ第四権を呼ばれるくらいの存在です。特にラジオ・TVは(これまでのところ)稀少財である電波を使用するところから、どこの国でも政府の規制を受けています。このことから、ラジオ・TVは殆どの国で外国人による支配が排除されていると承知しています。
ところが、NHKを除き、日本のマスメディアはすべて通常の営利企業である株式会社形態をとっています。株式会社形態をとるしか方法がない、と言った方がいいでしょう。
つまり、日本のマスメディアの大部分は、公共的機関としての社会的機能と株式会社としての法的外観との乖離、という問題を抱えていることになります。
フジTVとニッポン放送は、この乖離をライブドアにつかれ、本来は敵対的買収にはなじまない機関であるにもかかわらず、ライブドアに乗っ取られかけたわけです。
社会的機能と法的外観の乖離と言えば、指名競争入札を思い出します。指名競争入札制度は、法的外観上は、官が安く財・サービスを調達するための制度ということになっています(注1)が、日本においては官製談合制度として社会的に機能しており、あえて高い価格で財・サービスを調達することによって、一般納税者の犠牲において官の受注業者に超過利潤を与え、そのおこぼれに、受注業者が退官後の官僚の再就職を受け入れることにより、官があずかっています。

(注1)入札に参加できる企業を官側が指名することで、技術資格等の要件を満たす業者だけを入札に参加させることができるし、多すぎる企業が入札に参加することに伴う社会的コストを減らすこともできることから、官の財・サービス調達において最も多く用いられる方式。

このような社会的機能と法的外観との乖離は、一昨年官製談合防止法が制定された(http://www.cc.matsuyama-u.ac.jp/~tamura/daiyookangoku.html。3月29日アクセス)現在でも基本的に変わっていません。
官製談合をなくし、社会的機能を法的外観と一致させるためには、官僚の給与と年金を充実させる一方で、談合が発覚した場合に業者に課される民事上刑事上の「コスト」を懲罰的な高さにする等いくらでも手段はあります。もちろん、できうる限り民営化を推進する(発注側をコスト意識のある主体につくりかえる)ことによって官を縮小させる、つまりは入札制度を用いなければならない機会を減らす、ことも忘れてはならないでしょう(注2)。

(注2)コスト意識のある発注主であれば、競争入札などせずに、周知の2??3社と見積もりあわせをすることによって、最も低価格で財・サービスの調達ができる。皆さんが車のディーラー2??3社とネゴをして車を買う場合のことを思い出して欲しい。

 マスメディアにおける社会的機能と法的外観の乖離についても、官製談合問題のように社会的機能を法的外観に一致させる形で解消させるべきだというのがライブドアの考えなのでしょうが、果たしてそうでしょうか。いくらインターネット時代だと言っても、少なくともまだ時期尚早であるように私は思います。
 となれば、法的外観を社会的機能に合致させ、マスメディアを公共的機関として法律によって敵対的買収から守る必要があるのではないでしょうか。
 いずれにせよ問題は、戦後日本において、社会的機能と法的外観が乖離したまま放置されているケースが多すぎることです(注3)。

 (注3)憲法第9条という法的外観の下で自衛隊という軍隊としての社会的機能を持った国家機関が整備・維持されてきた、という余りにも有名なケースを持ち出すまでもなかろう。

(2)法の欠缺
社会的機能と法的外観の乖離と似ているようで異なるのが、法の欠缺(けんけつ=穴)の問題です。
TOB中の時間外取引は法の趣旨には反するけれどこれを禁止する規定はありませんが、この時間外取引でライブドアがニッポン放送株を大量取得したことが批判されています。
また、リーマンブラザーズがライブドアにニッポン放送株取得資金を提供したことを契機に、法律で外国人による日本のTV局やラジオ局の支配は禁じられているけれど、外国人が支配下に置いている日本の会社による支配、いわゆる間接支配は禁じられていないことが問題視されました。
大和SMBCがニッポン放送株を保有しているというのに、フジTVによるニッポン放送のTOBを手がけたというのもおかしいと思います(注4)。ライブドアがTOB破りをやっていることが分かった段階で、TOBの目標が下げられましたが、その時同時にTOB価格を上げてライブドアに対抗すべきだったのに、大和SMBCの利益相反行為になることからできなかった(http://nikkeibp.jp/wcs/leaf/CID/onair/jp/biz/366473。3月29日アクセス)ことからも、これがおかしいことは明らかです。

(注4)フジサンケイグループの元オーナーの鹿内家が、鹿内家の保有していたニッポン放送株を、TOBを手がけることを予定していたところの大和SMBCが「購入」したのは無効だ、と主張していることを想起せよ。

資本主義国家における主要な経済アクターたる株式会社の支配に関わる株式の売買等に関する法にこれだけ欠缺がある以上、日本は資本主義国家ではないのかではないか、という疑問が湧いてきます。
もっとも、日本にはより深刻な法の欠缺が数多存在します。日本の現行憲法には、元首に関する規定も、軍隊に関する規定も、国家緊急権に関する規定もありません。
これでは、資本主義国家であるどうかを論じる以前に、日本は国家ですらない、ということになりそうです。

(続く)

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