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太田述正コラム#9392005.11.9

<チャールスとカミラの米国訪問>

1 始めに

英国のチャールス皇太子と私は、日本で言えば同学年であることもあって、彼の生き様を人ごとと思えず見守ってきたのですが、現在チャールスは、カミラ(Camilla)さんとの再婚後の初の公式外国訪問先として、米国を旅行中です。

ほぼその全日程を終えつつあるこの時点で、二人のこの旅行を通じて、英国の王室と日本の皇室との違い等を探ってみることにしましょう。

2 米国訪問から

 (1)どうして米国なのか

 チャールスが、再婚後の初公式訪問先として、縁の深い欧州の王国や将来自分が国家元首になるカナダ等ではなくて、米国を選んだのは、言うまでもなく、英国にとって米国が同じアングロサクソン国として特殊な親縁関係にあるところの、最も重要な国だからです(注1)(コラム#138139)。

 (注11997年から2003年2月(イラク戦争直前)まで駐米英国大使であったマイヤー(Sir Christopher Meyer)氏は、偽証疑惑で起訴されためにチェイニー米副大統領首席補佐官を辞任したばかりのリビー氏(コラム#926930)から、在任当時に、英国は米国にとって唯一の有意な同盟国だ(the only ally that matters)と言われた、と回想録に記している(http://politics.guardian.co.uk/iraq/story/0,12956,1635997,00.html11月8日アクセス)。

ワシントンでは、世界最大のシェークスピアに関するコレクションを誇るシェークスピア図書館(Folger Shakespeare Library)を訪問しました。

また、夫妻はこの前の日曜、サンフランシスコ近郊のインバネス(Inverness。スコットランドの町の名前をとっている)にある英国教の教会(本国以外では、Episcopal Church と呼ばれる)で賛美歌を歌い、お祈りをしました。

 シェークスピア図書館ならぬグローブ座だって、また英国教の教会だって日本にはあることからも、英国がいかに普遍的な存在であることが分かりますが、さすがに、インバネスも、そしてニュー「ヨーク」もニュー「イングランド」も日本にはありません。むろん、日本人の国語は英語ではありません。

 いくら日米関係は、同じ自由・民主主義を信奉する、世界第一の経済力と第二の経済力を持つ国同士の、世界で最も重要な二国間関係だ、といばってみたところで、逆立ちしても英米関係にはかないません。

 さて、これからが本題です。

 (2)「自由」で「行動的」なチャールス

  ア 結婚・離婚・再婚

 チャールスは、独身時代に多数の女性と浮き名を流し、そのうちの一人のカミラの示唆に従って、貴族の名門出身の19歳の高卒の美人の保母ダイアナを妃に選びました。

ところが、ダイアナは、(チャリティーを含む)公務への責任感だけはチャールスに負けず劣らず持っていたものの、精神的に不安定で気短であったために、宮中の人々をみんな離間させたこともあって、結婚生活は破綻し、チャールスはその後結婚して子供もいたカミラとよりを戻し、ダイアナも複数の愛人をつくり、結局二人は離婚します。

 そして、(やはり離婚した)カミラとチャールスは、紆余曲折の末、再婚したのでした(注2)。

 (以上、「ア」は、http://en.wikipedia.org/wiki/Charles,_Prince_of_Wales11月8日アクセス)による。)

 (注2)ただし、チャールスは皇太子(Prince of Wales)であっていつかは国王(King)になるけれど、カミラは皇太子妃(Princess of Wales)ではなく、コーンウォール(女)公爵(Duchess of Cornwall)であって、チャールスが国王になっても王妃(Queen)ではなくて、Princess Consortである、とされた。

 

日本の今上天皇と皇太子が、それぞれ、助言に耳を傾けつつご自分の意思で、適格な配偶者を選ばれ、それぞれの配偶者に多大の犠牲を強いつつも、添い遂げておられることと比べて、英国の王室は、自由さが裏目に出て放縦に流れてしまっている、と言ったところです。

  イ カネの使用

 チャールスはワシントンの国立建物博物館で、ハリケーン・カトリーナによる被害を受けたミシシッピー州における建物再建のために3万米ドルを寄付しました。

 日本の皇室は、義捐金集めに関与されることはあっても、私有財産をお持ちではないので、寄付をされることはありません。

  ウ 意見の表明

 チャールスは、ホワイトハウスでの晩餐会では、世界の人々は、米国が、地球が直面している最も重大な諸問題に関し、先頭に立つことを期待している、と挨拶し、暗に地球温暖化についてのブッシュ大統領の姿勢を批判しました。

 また、ワシントン滞在中に、建築に関し、40分間の講演を行いました。

 前者は政治的発言であり、後者は人間の営みに関する識見の披露です。

 戦後の日本の皇室成員にあっては、前者は憲法解釈上許されないことになっていますし、後者についても昭和天皇と今上天皇は、自然科学、就中生物学に関することだけにあえて自己抑制されてきたところです。

(以上、特に断っていない限りhttp://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/4405674.stmhttp://news.bbc.co.uk/2/hi/americas/4405730.stmhttp://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/4408890.stmhttp://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/4411210.stmhttp://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/4412996.stm(いずれも11月8日アクセス)による。)

3 容赦ない批判

 英国の王室は、日本の皇室と違って、英国で容赦ない批判に晒されています。

 今回の米国訪問に関し、英国のジャーナリストがどんなことをチャールスについて言っているか、一例をお示ししましょう。

 5日付のロサンゼルスタイムスに掲載された、英デイリーテレグラフ紙に定期寄稿している英国人ジャーナリストの論考のさわりの部分は概略次のとおりです。

 ワシントンのある学生が、今度の二人の訪米の目的は、英国観光の振興だと聞き、「水差し(jar)みたいな耳をした老いぼれとその馬面の奥さんを見て、われわれが英国に行きたい気になるものか」と語ったとガーディアンは報じた。

 訪米のもう一つの目的は、環境問題の旗手としてのチャールスを米国民にアッピールするところにあったが、こちらも完全に失敗した。

 大体からして、チャールスは最近トヨタのプリウスを買ったけれど、三つある家のうちの車庫の一つに、二台のアストンマーチンと一台の装甲仕様のベントレーを含む他の8台の車と一緒に眠っているだけのことだ。

 今度の訪米では37万米ドルも使って飛行機をチャーターした。チャールスは公務での旅にカネを使いすぎる、昨年は前年の2倍の200万米ドルも使った、と英国の議員達から批判されている。

 チャールスの人気がないのは、彼が特権的にして、エクセントリックな、かつ極めてスポイルされた人間だからだ。彼は、花に向かって話しかけ、旅先にも自分専用のタオルとトイレットペーパーを持ち歩き、サンドイッチを食べる時にはあらかじめ寸法やパン生地の種類を書き物にして渡すような男なのだ。

(以上、http://www.latimes.com/news/opinion/commentary/la-oe-hiscock5nov05,0,5295106,print.story?coll=la-news-comment-opinions11月6日アクセス)による。)

 元政府高官だって容赦はありません。

 前出のマイヤー氏は、回想録の中で、概略、次のようにチャールスを批判しています。

 2001年の10月にはニューヨークで「ニューヨークにおける英国展(UK in New York)」が開催されることになっており、その後援者(patron)はチャールスだった。

 そこへ、9.11同時多発テロが起こった。

 この展覧会は、英国の連帯意識を表すために「ニューヨークとともにある英国(UK with New York)」と名称を変更して予定通り開催されることになった。

 ダイアナの陰に沈潜していたチャールスが、再スタートを切る絶好の機会だとみんなが思い、チャールスの訪米を促したが、チャールスはスコットランドでの狩猟を選び、ニューヨークにはやってこなかった。(代わりにやってきたのは、チャールスの弟のアンドリュー(Andrew)王子であり、アンドリューは立派に役割を果たし、ニューヨーク市民達は心から彼に感謝の意を表した。)

(以上、http://politics.guardian.co.uk/iraq/story/0,12956,1636675,00.html11月8日アクセス)による。)

 日本の皇室は、菊のカーテンで覆われており、日本政府高官が、皇室関係者を公然と批判するようなことは考えられませんし、日本のメディアは、宮内庁の「指導」とあいまって、自主規制して、「適切でない」話題が世間に漏れないように配慮しています。

 これは、決して皇室のためになっていないのではないでしょうか。

4 感想

 日本の皇室は、もっと自由が与えられ、同時により情報開示がなされるべきでしょう。

 そうなったとしても、日本の代々の皇室成員の、鋭敏に世の中の動向を見極める能力と、その自己研鑽・自己抑制に向けての努力からして、日本の皇室の存続が危うくなるようなことには容易にならない、と私は思うのです。

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