太田述正コラム#11242006.3.14

<人格は仲間集団で形成される?(その3)>

3 学説の完成へ

 以上だけでも、私事にわたるが、私が中学生時代から大学二年生までくらいの間、ノイローゼ気味であったのは、四日市→カイロ→東京、と、小学生時代に私の仲間集団がめまぐるしく変わり、しかもその変わり方が極端であったことが私の人格形成をかき乱したせいである、と腑に落ちましたし、カイロに行った時、わずか一ヶ月で英語が、小学校生活をするには十分なくらい身に付いたことは、私の能力の問題ではなく、当たり前のことだった・・新しい仲間集団に自然に適応しただけのことだ・・と納得できました。

 しかし、ここまででは、ハリスは人格形成における仲間集団の重要性を明らかにしただけでした。

 ところが、ハリスは更に、個々の人格形成がいかに行われるかを明らかにしたのです。

それが、本シリーズの冒頭で触れた、No Two Alike--Human Nature and Human Individuality, WW Norton, 2006 です。

ハリスは、どうして同じ家庭で育った一卵性双生児が、異なった人格を持つようになるのか、という問題提起をします。確かに、私の良く知っている一卵性双生児が、一方がある大学の法学部に進み、もう一方は別の大学の理工学部に進んだので、不思議で仕方がなかったものです。

 ハリスが提示した人格形成理論は次のとおりです。

 人間の大脳には、人格形成に関わる三つのシステムが備わっている。関係システム(relationship system)、社会化システム(socialization system)、地位システム(status system)だ。

 関係システムは、われわれが意識的に他人一人一人との選好関係を形成し維持するシステムだ。このシステムにより、たとえ相手が一卵性双生児であっても、その二人を良く知るようになれば、取り違えるようなことはなくなる。

 社会化システムは、われわれに、無意識的に、集団によって受け入れられることを欲せしめ、かつ受け入れられるにはどうしたらよいかを示してくれるシステムだ。

われわれは、他人一人一人を、特定の属性(顔つき・肌の色・身長、等々)に着目して、カテゴリー化する。つまり、特定の一人はカテゴリー集団の一員として頭の中で整理されるわけだ。その上で、われわれは、試行錯誤の末、自分自身が、どのカテゴリー集団に帰属するかを選択し、自分をその集団に適応させようとする。

 地位システムは、競争システムと言い換えてもよいが、これは、われわれがおおむね意識的に、自分の(上記)帰属集団中の他人と競争し、当該集団の中での自分の地位を相対的に高めようとするシステムだ。

自分の地位が奈辺にあるかを見極めることは必ずしも容易ではないが、われわれはそのために帰属集団中の他人の自分に対する態度を注視する。こうして見極められたところの、青年期における帰属集団における自分の地位は、生涯にわたって、自分自身の自己評価を規定する。

 ロンドン大学のキングスカレッジのプローミン(Robert Plomin)が、キルケゴール(Kierkegaard)の「あれかこれか」(Either/Or)の登場人物の「最小の原因が最大の結果をもたらすことがある」を引用して、ささいな偶然の人格形成に及ぼす影響の大きさを示唆しているが、一卵性双生児が異なった人格を形成するのは、稀にそれぞれが選択した帰属集団が偶然ちょっと違ったりする場合もなきにしもあらずだし、二人が同じ帰属集団を選択するという通常の場合でも、当該集団の中で見極められた自分の地位についての認識が、それぞれ全く同じになることはまずないのであって、いずれにせよ、このようなちょっとした違いが結果的に人格の違いにまで増幅されていくからなのだ。

(以上、http://mentalhelp.net/books/books.php?type=de&id=3039、及びhttp://www.amazon.com/gp/product/0393059480/ref=nosim/103-0518475-3133460?n=283155(3月13日アクセス)による。)

4 感想

 ハリスの人格形成理論が正しいとすると・・どうやら正しそうですが・・クローン人間をつくることに何の問題もない、ということになりそうですね。

 同じ時に生まれた一卵性双生児でも、異なった人格を持つに至るのですから、本人とは違った時に「生まれる」クローン人間が、本人とは違った存在であることに論議の余地はないからです。

 皆さんも、さまざまな感想をいだかれたことと思います。

 感想をお寄せいただければ幸いです。

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 最後に、文中で引用しなかったが、参照したサイトを挙げておく。(すべて3月10日アクセス)

ハリス説を紹介する全般的サイト

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/0684844095/503-8625725-8740732

http://www.gnxp.com/blog/2006/01/10-questions-for-judith-rich-harris.php

http://www.saunalahti.fi/~tspro1/nurture.html

http://gos.sbc.edu/h/harrisj.html

http://www.nytimes.com/books/98/09/13/reviews/980913.13tavrist.html

http://www.gladwell.com/1998/1998_08_17_a_harris.htm

ハリス説に対する批判も掲載されているサイト

http://www.cycad.com/cgi-bin/pinc/dec98/books/r_harris.html

http://arnoldkling.com/~arnoldsk/nurture.htm

http://www.isteve.com/nurture.htm

http://www.davidswanson.org/?q=node/403

http://primal-page.com/nurture.htm

http://www.nj-act.org/article6.html

もっぱらハリスに対する批判が掲載されているサイト

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/tg/detail/-/books/4152082607/reviews/503-8625725-8740732

http://www.sfgate.com/cgi-bin/article.cgi?file=/chronicle/archive/1998/11/29/RV56968.DTL

http://www.brentmorrison.com/9809Parents_vs_Peers.htm

http://ajp.psychiatryonline.org/cgi/content/full/157/8/1355

http://www.psychpage.com/family/library/harris.html

(完)