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太田述正コラム#11812006.4.13

<女性差別論と女性差別批判論(その1)>

1 始めに

 男女の性差には、(一)生物学的な差(平均的な身長(体重)/膂力・平均寿命等の差)、(二)天才と魯鈍の多寡、(三)平均的な感性/関心の差、の三つがありますが、だからといって、女性を一括りにして男性よりも低く見、差別するのは誤りです。

 にもかかわらず、古今東西を通じ、女性差別論だらけです。

 他方、女性差別批判論が出現したのは、ようやく18世紀のイギリスにおいて(コラム#71471517600798)であり、いまだに世界の女性の大部分は、差別にあえいでいます。

 今回は、女性差別論の起源の一つと、現代における最も過激な女性差別批判論をそれぞれご紹介しましょう。

2 ピタゴラス派

 ピタゴラス(Pythagoras of SamosBC580??BC500年)はピタゴラスの定理で有名な、イオニア(ギリシャ)の数学者兼哲学者ですが、彼の学説こそ、女性は理性的、就中数理的思考に向いていないという差別意識の源なのです(注1)。

 (注1)注意すべきは、ピタゴラス自身は男女差別論者ではなかったことだ。彼がイタリア半島南端近くのクロトンにつくった真理探究教団には女性も分け隔て無く入団が許されたし、彼の妻はピタゴラスの向こうを張って数学等の学者として活躍した(http://en.wikipedia.org/wiki/Pythagoras及びhttp://www-groups.dcs.st-and.ac.uk/~history/Biographies/Pythagoras.html。どちらも4月13日アクセス)。

 理性的(rational)という言葉は、比(ratio)から来ていますが、ピタゴラスは音階が弦楽器の弦の長さの比に対応していることを発見し、森羅万象すべてを比によって説き明かすことができる、と考えたのです。この、世界は単一の理論で説き明かすことができるとする考え方は、後の欧米の科学の発展に大きな影響を与えました。

 問題は、ピタゴラスの弟子達(ピタゴラス派)が男女別の二元論的世界観を構築したことでした。

ここに、世界を単一の理論で説き明かそうとする理性的(rational)な営み・・数学研究といった崇高なる営み・・は、男性固有の営みであって、女性は生来的に不適である、という差別意識が確立したのです。

このピタゴラス派の考え方をルネッサンス期の学者達の大部分は当然視していました。

やがて、イギリスや欧州で自然科学の学会が設立されるようになるのですが、そのほとんど全部が女人禁制でした。世界で一番権威があるイギリスの王立学会(Royal Society)の初代事務局長のオルデンバーグ(Henry Oldenburg)は、この学会の使命は、自然に係る「男性的(masculine)哲学の振興である」と述べたものです。この王立学会が女性の正会員を認めたのは1945年になってからでした。

また、欧米の大学の起源は僧侶養成所であり、当然のこととして女人禁制でした。数学教育は、長い間、大学においてのみ行われていたので、女性は数学を学ぶことができず、よって物理学とも無縁の存在であり続けました。ですから、20世紀になるまで、女性の物理学者はほとんどいませんでした。ハーバード大学の物理学科が女性を正教授に任命したのは実に1992年が初めてだったのです。

(以上、特に断っていない限りhttp://www.latimes.com/news/opinion/commentary/la-oe-wertheim30mar30,0,2784018,print.story?coll=la-home-commentary(3月31日アクセス)による。)

2 ヒルシ女史

現在世界で最も過激な女性差別批判を展開しているのが、オランダの国会議員のヒルシ(Ayaan Hirsi Ali)女史です。

ヒルシは、ソマリア生まれのイスラム教棄教者であり、2004年にイスラム教社会における女性差別を糾弾した映画の監督(ゴッホの子孫)がイスラム狂信者に殺された(コラム#1069)ところ、この映画の制作者であった人物です。

(続く)

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