太田述正コラム#12522006.5.23

<英米すら日本に「誤った理解」を抱いている(その4)>

 3 ワシントンポスト論考

 次は、ワシントンポスト論考です。

 正しくはこれは、世銀のエコノミストを経て現在ニューヨーク大学の経済学教授であるイースタリー(William Easterly)の著書、THE WHITE MAN'S BURDEN  Why the West's Efforts to Aid the Rest Have Done So Much Ill and So Little Good’に対する、ワシントンポスト紙のコラムニストのイグナチウス(David Ignatius)による書評です。

 私が問題にしているのは、紹介されているイースタリーの著書の主たる内容ではありません。

 それ以外の一見非本質的な箇所です。

 まずひっかかるのがこの著書のタイトルです。

 発展途上国に供与される経済援助の問題点を摘出しているこの著書で、経済援助を与える側がどうして白人(WHITE MAN)だけなのか、です。

 ご承知のとおり、日本のODAはしばらく前まで世界第一位でしたし、現在でも世界第二位であり、経済援助を論ずるにあたって日本を無視するわけにはいきません。しかし、その日本人は白人ではありません。(かつての南アのように、イースタリーが日本人を名誉白人扱いにしてくれているとは思えません。)

 あるいは、日本は米国の保護国だから、日本を別立てで考える必要はない、ということなのでしょうか。それなら、そう断るべきですが、どうやらお断りの記述はなさそうです。

 それとも、日本の経済援助政策は「白人国」のそれとは異なっていて、問題がない、ということなのでしょうか。しかし、この書評で紹介されている、イースタリー言うところの「白人国」の援助政策の概要に照らせば、私の乏しい知識によっても、日本の経済援助政策が「白人国」のそれと大きく異なっているとは思えません。

結局、イースタリーは、20世紀前半に日本を苦しめた当時の米国人の人種差別意識を現在まで持ち越している米国人であって、非「白人国」たる日本を意図的に除外し無視した、と考えざるをえません。

この私の解釈が当たらずといえども遠からずであることは、この書評の以下のくだりが雄弁に物語っています。

「イースタリーの見解は、経済の分野であれ政治の分野であれ、外から押しつけられたことは大方失敗する、というものだ。彼に言わせれば、東アジアにおいて、ここ何十年(decades)にわたって経済的成功物語が起きたのは、日本・支那・台湾・南朝鮮・タイだが、これらがすべて、西側諸国(West)によって植民地化されなかった(never successfully colonized国であることは偶然ではない。これら諸国は、自らの文化・ルール・規律を進化発展させ、急速な経済成長のための固有の(indigenous基盤を構築したのだ。この地域において遅れをとっているのは、植民地化されたただ一つの国であるフィリピンだ。」

つまりイースタリーは、先行したスペインや英仏等に続いて、19世紀末に独・伊・日・米がほぼ横一線に植民地獲得に向けてスタートを切ったにもかかわらず、日本だけを除外し無視した上、東アジアにおいて、日本だけには「ここ何十年」以前から「経済的成功物語」が起きていたことにも目をつぶって、日本をあえて日本以外の東アジアの国(いずれも非「白人国」)と一くくりにしています。

その結果、台湾と(南)朝鮮が日本によって植民地化された事実が消えてしまう、というとんでもないことが起こっているわけです。

もっとも、そのおかげで、経済や政治の制度を日本によって「外から押しつけられた」台湾と(南)朝鮮に「経済的成功物語」が起きたのに、米国によって「外から押しつけられた」フィリピンには起きなかった、という、米国人イースタリーにとって不愉快千万な事実から、彼は目を背けることができたことにもなります(注11)。

(注11)もとより、イースタリーには、米国が失敗したのは、それ以前にフィリピンがスペインによって植民地化されていたためだ、という逃げ口上が可能であったはずだが、そうなると西側諸国ないし「白人国」を一くくりにはできない、ということになって、今度は、この著書のタイトルが成り立たなくなってしまう。

 こんなタイトルの、あるいはこんな記述のある著書を上梓したイースタリーも問題なら、書評でこういった部分への批判を全く行わなかったイグナチウスも問題であり、こんな欠陥著書のこんな欠陥書評をそのまま掲載したワシントンポストの編集当局はもっと問題です。

 これは事実の悪質な歪曲であり、既出のガーディアン記事で見られた歪曲・意図的省略よりはるかにたちが悪いと言わざるを得ません。米国の超一流紙がこのザマなのですから、呆れて言葉もありません。

 日本人の読者の皆さん。怒りを取り戻してください。

 こんな「12歳の少年」並の米国の保護国に甘んじるのは止めましょう。

 米国を人とならせるためにも、日本の独立を急ぎましょう。

 最後に、ボースの言葉を原文のまま掲げておきます。熟読玩味していただければ幸いです。

"To my countrymen I say, forget not that the greatest curse for man is to remain a slave. Forget not that the grossest crime is to compromise with injustice and wrong. Remember the eternal law - you must give life, if you want to get it. And remember that the highest virtue is to battle against inequity, no matter what the cost may be." http://shoebox.heindorffhus.dk/frame-IndiaBose.htm。5月22日アクセス)

(完)