2006年05月24日

アングロサクソン論をめぐって(続x3)(その2)

太田述正コラム#12552006.5.25

<アングロサクソン論をめぐって(続x3)(その2)>

 そもそもこの論考の筆者が、代表的な啓蒙思想家として、ロックのほか、ヒューム、スミスとヴォルテールを挙げたところにトリックがあります。

 なぜなら、ヒューム、スミスの二人はスコットランド人ではあるものの、ヒュームは成人になってからというもの、基本的にイギリスのロンドンで生活を送ったからであり(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%82%A4%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%83%83%E3%83%89%E3%83%BB%E3%83%92%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%A0。5月24日アクセス)、スミスは、なるほど生涯の大部分をスコットランドで過ごしたものの、青年時代の6年間を(結局卒業はしなかったけれど)オックスフォード大学の学生として送り、ヒュームとも親交があったhttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%80%E3%83%A0%E3%83%BB%E3%82%B9%E3%83%9F%E3%82%B9。5月24日アクセス)からです。

 つまり私は、ヒュームもスミスも、イギリス化したスコットランド人であった、と言いたいのです。

 フランス人のヴォルテールはどうか。

 彼は、イギリスで亡命生活を送り、爾来極めつきのイギリスかぶれになり、ためにフランスに帰国してからもしばらくの間はフランスの人々に白眼視された人物です(http://en.wikipedia.org/wiki/Voltaire。5月24日アクセス)。

 何ということはない。ロックはもちろんのこと、ヒュームもスミスも、そしてヴォルテールも、イギリス的な思想家なのです。

 イギリス文明(アングロサクソン文明)は経験論的(反合理論的)文明であるとともに、(非キリスト教的とまで言うと語弊があるとすれば、)非カトリック的な有神論的文明なのであり、イギリス化したヒュームやスミスが経験論的であったり、ヴォルテールが有神論的であったりすることは当たり前なのです。

この論考は、啓蒙運動にはフランス型・スコットランド型・イタリア型・ドイツ型の四つがあり、それぞれが微妙に違っていた、と主張しており、それはその通りかもしれません(注1)が、この四つの間に違いがあったとしても、そんな違いより、この欧州の四つ啓蒙運動の思想とイギリス的な思想の違いの方がはるかに大きい、と言わざるを得ません。

(注1)例えば、ヴォルテールとは全く違う考え方を持っていたルソーがフランス型啓蒙運動の典型と言われれば、そうかな、と思う。

 このイギリス的な思想は、到底イギリス型の啓蒙運動といった範疇でとらえることはできません。

イギリス的な思想は、啓蒙思想とは決定的に異なっている上、基本的に18世紀に生まれたこととされている啓蒙思想・・だからこそ啓蒙「運動」と呼ばれる・・とは違って、大昔からイギリスに存在していたからです。

 だからこそ、この論考の筆者は、イギリス型の啓蒙運動なるものを論考の中で登場させなかったのです。

ここまでご説明すれば、この論考が、啓蒙運動なるものは、19世紀に18世紀以前を振り返って「発明」された概念であり、欧州が生み出したもう一つの運動(価値観)であるファシズム・・二度にわたる人類史上最も破壊的な戦争を生み出し欧州の評判を地に堕とした・・に対抗し、欧州の名誉を回復すべく1930年代に確立し、1950年代に再確立された欧州固有の概念である、と結論づけた趣旨はお分かりですね。

イギリス文明(アングロサクソン文明)と似ても似つかない欧州文明は、ファシズム・・ここでは、ナショナリズムや共産主義も含めた民主主義独裁を総称していると考えられる・・だけしか生み出せなかった野蛮な文明であって、啓蒙運動なるものがかつて欧州に存在した、というのはフィクションにほかならない、と言っているのです。

どうしてこの論考はかくも手が込んでいるのか、より端的に言えば、どうしてかくも論理構成が無茶苦茶なのか、についてももうお分かりでしょうが、念のため、ご説明しておきましょう。



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この記事へのコメント
1. Posted by (゜゜)(。 。 )ペこ    2006年05月25日 15:42
偶然ですが、昨日ジャン・ジャック・ルソーの名前を見かけたばかりでしたので、反応してしまいました。
『ユダヤ人の大思想家でフランス革命に大きな思想的影響を与えたジャン・ジャック・ルソーは、かの有名な『社会契約論』で次の如きことをいっている。
「人もし随意に祖国を選べというなら、君主と人民の間に利害関係の対立のない国を選ぶ。自分は君民共治を理想とするが、そのようなものが地上に存在するはずもないだろう。したがって自分は止むを得ず民主主義を選ぶのである。」
ここでいう君民共治というのは、君主が決して国民大衆に対して搾取者の位置にあることなく、したがって国民大衆も君主から搾取されることのない政治体制のことである。』
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太田先生のお話も難しいですが、上のサイトのお話も私には難しかったようです。
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