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太田述正コラム#1345(2006.7.16)
<英米関係史と戦時国際法(その1)>(有料→公開)

 (これからは、有料版を増やして行きます。)

1 始めに

 このところ、米国の対テロ戦争がらみの「テロリスト」容疑者のグアンタナモ基地への収容が捕虜の取り扱いに関するジュネーブ条約違反ではないかとか、米国による北朝鮮のテポドン発射基地への攻撃とかイランの核施設への攻撃は自衛権発動の要件を満たしているか、といった議論が盛んに行われていますが、米国のブッシュ政権は、この二つの重要な国際規範は、アングロサクソン世界の中で、対英関係の中で、主として米国のイニシアティブによって生まれたものであり、その解釈権は、これらの国際規範の実質的な制定者たる米国にあるのであって、他国、とりわけアングロサクソン以外の国に色々あげつらわれるのは片腹痛い、と思っているのではないでしょうか。

 今回は、そのあたりをさぐってみましょう。

2 捕虜の取り扱い

 (1)捕虜の人道的取り扱いの起源

 1775年から83年の米独立戦争の期間中に、20万人の北米英植民地人が英本国に対して武器をとって戦いました。このうち、6,800人以上が戦死し、約10,000人が戦闘に由来する負傷や病気によって亡くなりました。そして、少なくとも18,200人が捕虜になったのですが、彼らの大部分はニューヨーク市の牢獄・教会・救貧所・製糖工場・船、等に収容されたのです。 その収容環境は劣悪この上もないものであり、彼らは、狭いスペースにぶちこまれ、碌にメシも与えられず、たまに与えられるメシは食えたものではなく、飲み水は汚れており、また、文字通りクソまみれの状態であったため、飢えや伝染病等で、恐らく12,000人以上が命を落とした(注1)、と推定されています。

  (注1)捕虜となった植民地人は、英軍に志願すれば、ただちに放免されたのだから、彼らの意思の堅固さは賛嘆に値する。

 当時はそもそも、捕虜の取り扱いについての国際規範が存在しなかった上、英本国としては、米独立戦争従事者を兵士扱いすることは北米英植民地の独立を認めたことになることから、あくまでも彼らを叛乱者と位置づけており、それが収容者に対する常軌を逸した取り扱いにつながったわけです。

 これに懲りて建国されたばかりの米国は、独立戦争が終結した1983年のわずか2年後にプロイセンと結んだ条約の中で、捕虜への人道的取り扱いを定め、捕虜には食事と快適な環境を提供しなければならず、捕虜を地下牢や囚人船や牢獄に収容することを禁じ、また、捕虜を鎖でつないであり縛ったりしてはならず、足を拘束してはならない、としたのです。

 この条約こそ、現在の、捕虜の取り扱いに関するジュネーブ条約Geneva Convention relative to the Treatment of Prisoners of War。1949採択、1950年発効。)の起源なのです。

 (以上、 http://www.nytimes.com/2006/07/03/opinion/03burrows.html?pagewanted=print (7月3日アクセス)による。)

 (2)因果はめぐる

 米国は、対テロ戦争がらみの「テロリスト」容疑者(米国市民を含む)は戦争捕虜でもなければ、米国内法上の犯罪者でもないとし、これら「テロリスト」約400人をキューバのグアンタナモ米軍基地に収容し、尋問等の対象にするとともに、大統領権限で特別軍事法廷を設置し、これら収容者の審理・処分を行ってきました。しかし、このような取り扱いに対し、英国政府を含む国際世論は、疑義を唱えてきました。

 2004年に米最高裁は、グアンタナモの収容者達も、米国の裁判所に訴えを提起することができるという判決を下し、更に今年の6月29日には、グアンタナモの収容者達は上記ジュネーブ条約(就中第3条。例えば http://www.icrc.org/ihl.nsf/0/e160550475c4b133c12563cd0051aa66?OpenDocument (7月16日アクセス)参照)が適用されるところの戦争捕虜である、という国際世論に合致した判決を下しました。

 しかし、ブッシュ政権は、特別軍事法廷の法的根拠付けを行うことを議会に求めるとともに、グアンタナモの収容者達に対しては、実質的に上記ジュネーブ条約に沿った取り扱いがなされてきた、とし、非を認めようとはしていません。

 (以上、特に断っていない限り http://www.latimes.com/news/nationworld/nation/la-062906gitmoqa,0,2333218,print.story?coll=la-home-headlines (7月2日アクセス)、及び http://www.latimes.com/news/opinion/la-oe-brooks14jul14,0,6840195,print.column?coll=la-opinion-rightrail (7月15日アクセス)による。)

 ブッシュ政権は、冒頭に申し上げたように、上記ジュネーブ条約の解釈権は米国(、とりわけ米国の行政府)にあると考えているとしか思えませんね。

(続く)

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