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太田述正コラム#1386(2006.8.24)
<現在進行形の中東紛争の深刻さ(その9)>

 (本日初めて、車で息子と二人で、高井戸天然温泉「美しの湯」
http://www.nafsport.com/
に行ってきました。小さなせせらぎがその間を流れている二つの露天風呂から上がって岩に腰掛けて風にあたっていると、しばし、自分達が杉並区の環8の雑踏のすぐ脇にいることを忘れてしまいました。各種ジャグジーのほか、乾式と湿式の2種類のサウナもあり、平日大人800円、子供600円はリーズナブルではないでしょうか。)
 (安倍CIA構想をめぐって、私のホームページの掲示板の#2521??2524でやりとりがなされています。ご一読を。)
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 フランスは今次安保理決議をとりまとめるに当たって、レバノンの旧宗主国として、あたかもレバノン政府の利益代表であるかのように、イスラエルに有利な決議案を推す米国とわたりあった経緯があり、誰もがフランスが拡大版UNIFIL(現在のUNIFIL2000人中フランス軍は200名を占め、司令官も出している)の主力となると信じて疑っていませんでした。
 ところがそのフランスは、8月17日に、UNIFILに同国が増派するフランス軍は200人であると表明して世界にショックと当惑を与えました(注13)。

 (注13)翌18日に、フランスの国防相(女性)は、部隊派遣の具体的な目的と派遣部隊の物的・法的権限が明確でないので大部隊の派遣は見合わせざるを得ないと語った。

 他方、翌18日にイタリア議会は、UNIFILにイタリア軍3,000人を派遣することを承認し、中道左派のプロディ(Romano Prodi)首相は、「これはイタリアの外国政策における新しいフェーズ・・世界の最も複雑な地域の一つにおいて、平和の建設を支援するとの共通の目的を持つところの、責任と信憑性のフェーズ・・なのだ」と高らかに宣言しました(注14)。
(以上、特に断っていない限り
http://www.guardian.co.uk/syria/story/0,,1853308,00.html
(8月19日アクセス)による。)

 (注14)ただし、22日にイタリアの外相は、イスラエルが攻撃を続けている限り、イタリア軍部隊をレバノンに派遣することはできないと語った(http://www.guardian.co.uk/syria/story/0,,1856119,00.html
。8月24日アクセス)。

 予想に反して、フランス軍の代わりにイタリア軍がUNIFILの主力になりそうなことについては、懸念の声と歓迎の声が交錯しています。
 懸念の声は、イタリアが広義の中東に属するアビシニア(エチオピア)における1896年のアドワ(Adwa)の戦いにおいて、武器を潤沢に保持した士気の高い現地人の部隊と戦って70%の損害(死傷者プラス捕虜)を出して敗北したこと(コラム#211)(注15)を挙げています
http://www.atimes.com/atimes/Middle_East/HH22Ak02.html
。8月22日アクセス)。

 (注15)イタリアのエリトリア総督のバラティエリ(Oreste Baratieri)将軍が率いるイタリア軍14,500人がエチオピア皇帝メニレク(Menilek)2世率いるエチオピア軍100,000人と戦い、大敗北を喫し、イタリアはエチオピアの植民地化を断念せざるをえなくなった
http://www.onwar.com/aced/data/india/italyethiopia1895.htm
8月24日アクセス)。

 歓迎の声は、1982年のイスラエルのレバノン侵攻の後に、米軍や仏軍とともにイタリア軍がレバノンの平和維持のために派遣された際の実績を挙げています。
 すなわち、レバノン派遣米軍部隊と仏軍部隊は、1983年10月23日のほぼ同時刻にヒズボラの前身と考えられているグループによる自爆テロを受け、それぞれ241人と58人という多数の死者を出し、レバノンからの撤退を余儀なくされたのに対し、イタリア軍は、巧みに現地住民の心をつかみ、ほとんど犠牲者を出さずに任務を全うしたのです。
(以上、
http://news.bbc.co.uk/2/hi/middle_east/5275938.stm
(8月23日アクセス)、及び
http://en.wikipedia.org/wiki/1983_Beirut_barracks_bombing
(8月24日アクセス)による。)
 何故弱卒で名高い(?)イタリア軍が平和維持任務には長けているのでしょうか。
 その秘密を解く鍵はイタリア人気質にありそうです。
 イタリアでは赤信号は、危険さえなければ、無視してもよいものと考えられています。より正確に言えば、イタリアでは、赤信号には状況に応じて深紅から薄い黄色までがあるのであって、どの色と判断するかは個々人の裁量にまかされているのです。
また、脱税は米国などでは犯罪と受け止められているのに対し、イタリアでは、うまく脱税した人間は尊敬されるのです。
 つまり、イタリア人は規則に四角四面に従うような人間はアホとみなされる、ということです。
 そのようなイタリアの長所は人々の楽天性であり進取の気性であり厚い人情であり臨機応変性です。他方、短所は無政府主義的混乱であり、イタリアでは行政府も裁判所もお世辞にも十分機能しているとは言えません。
(以上、
http://www.nytimes.com/2006/08/23/books/23grim.html?_r=1&oref=slogin&pagewanted=print。(8月23日アクセス)による。)
 これでお分かりいただけたでしょうか。
 軍隊には一糸乱れぬ行動が要求されますが、それができないイタリア軍が戦闘に強いはずがありません。他方、楽天的で進取の気性があって人情が厚く臨機応変に行動できるイタリア軍平和維持部隊の兵士達は、派遣先の現地の人々をいともたやすく籠絡してイタリアファンにしてしまうのでしょう。
 このように見てくると、イタリアの外相がなぜ、イタリア軍が戦闘に巻き込まれない保証を求めるのか、よく分かりますね。
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(続く)

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