太田述正コラム#1468(2006.10.25)
<日本の核武装をめぐって(その3)>

 (2)日本にとっての核の脅威
  ア 北朝鮮
 北朝鮮は四重の意味でパンドラの箱を開けてしまったと言えるでしょう(個々の典拠は略す)。
  一つは、北朝鮮が、核拡散防止条約(NPT)加盟国としては、初めてNPTから脱退し、核保有に至ったことです。(国連安保理事国以外で核保有国になったイスラエル・・ただし、同国は、核を保有していることを公式には認めていない・・もインドもパキスタンも、更に、一旦核保有国になってから核を廃棄したアパルトヘイト時代の南アフリカも、NPTに加盟していませんでした。)
 二つには、北朝鮮は、これまでの核保有国の中で、(核保有を公式には認めていないイスラエルはともかくとして、)際だって国土面積が小さく、人口も少なく、しかも貧しい国であり、どんな国でも、決意さえあれば核保有国になれることを証明したことです。
 三つには、北朝鮮が、米国のように対外戦争に勝利するためではなく、また、ソ連(ロシア)、英国、フランス、中共、インド、パキスタンのように核抑止力としてでもなく、初めて、通常兵器による攻撃から自国を守るために核保有をしたことです。(もっともこの点も、核保有を公式に認めていないイスラエルと共通している。)
 四つには、形の上では国家でも、テロ・拉致・通貨偽造行使・覚醒剤製造密売・武器麻薬密売の常習犯という、実態は組織暴力団に等しい北朝鮮が核保有をしたことです。従って、核兵器を上記以外の目的・・例えば、国際テロ組織への核兵器の密売・・に用いる可能性があることです。

 以上から、日本が北朝鮮から核攻撃される可能性が出てきただけでなく、北朝鮮以外の国が新たに核保有国になって日本が核攻撃をされたり、日本が核テロ攻撃を受けたりする可能性も高まったと言えるでしょう。

  イ 中共
 中共は、今年の年内から来年末までに、短射程のものはアラスカを、長射程のものは全米を射程に収める大陸間弾道弾の東風(Dong Feng )31を60基配備すると報じられています。東風31は、射程6,000??1万1,000kmで、中共の大陸間弾道弾としては、初めて米本土に到達できるだけでなく、初めての固体燃料を使用した弾道弾であって即時発射ができ、しかも、初めての移動式の弾道弾であり、固定サイロからではなくトレーラーや貨車から発車できるので、容易に米国によって補足できず先制的に破壊することが困難である、という画期的なものです(http://www.tokyo-np.co.jp/00/kok/20060711/eve_____kok_____002.shtml
。7月12日アクセス)。
 中共は、現在、まともな反撃用の(原子力潜水艦に搭載された)第二撃核戦力を持っていませんが、仮に持った暁には、旧ソ連同様、全面的な対米核抑止力(相互確証破壊=MAD)を持つことになります。
 いずれにせよ、中共の核によって米本土が脅かされることになった以上、米国の日本に対する核抑止力の信頼性が、理論上、これまでより低下することは必至です。

  ウ まとめ
 2006年は、日本に対する核の脅威が、一挙に、考えようによっては冷戦時代のソ連と中共の核の脅威のレベルを超えて高くなった年として、後世記憶されることになるでしょう。

 (3)コメント
 現在、ドイツ軍の総兵力は25万人ですが、そのうち9,000人が海外に派遣されているところ、今後は、ドイツ軍の国土防衛任務を基本的に解除し、これを国際派遣(intervention)任務主体の軍へと再編し、常時計14,000人を世界の5箇所に派遣できる体制の構築を目指すことになりました(
http://www.ft.com/cms/s/b0651290-6384-11db-bc82-0000779e2340.html
。10月25日アクセス)。
 ドイツには核の脅威がもはやほとんどないので、ドイツでは核保有論議は全く出ていません。
 日本は、北朝鮮からのゲリラ攻撃に備えなければならず、また、中共からの渡洋攻撃にも一応は備えなければならない、という点で違いはあっても、今年前半までは、日本の今後の防衛のあり方は、基本的にドイツのそれに倣えばよい、と私は考えていました。
 そのために乗り越えなければならない最大のハードルは日本による集団的自衛権行使の解禁でした。
 しかし、7月の北朝鮮のミサイル発射実験の際に行われた米元政府高官達の不用意な提言によって米国の日本に対する核の傘の信頼性が低下した(コラム#1339)上に、10月の北朝鮮の核実験によって、日本が北朝鮮の核攻撃を受けた場合に、果たして米国が核報復してくれるのか、疑問が生じてしまったわけです。
 このため、否応なしに日本は、自らの核武装の是非を考えざるを得ない立場に陥ってしまったことになります。
 米国政府もまた、日本の核武装を容認していると私が考えていることも既にご説明しました。
 しかも、米原子力空母の配備について、先般、横須賀市がいとも簡単に受け入れ決定をした(
http://www.tokyo-np.co.jp/00/sya/20060614/eve_____sya_____006.shtml
。6月15日アクセス)こと一つとっても、日本人の核アレルギーは、もはや風化してしまったと見てよいでしょう。
 となれば、今後は、北朝鮮の核の除去(及び拉致問題の解決)、そのための北朝鮮の体制変革ないし体制崩壊が遅れれば遅れるほど、日本の核保有へ向けての動きは加速して行く、ということになりそうです。
 最後に蛇足ながら、小沢さんに一言。
 こんなご時世に社民党なんぞとつるんでいるようでは、補欠選挙に惨敗する(
http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20061023k0000m010089000c.html
。10月22日アクセス)のは当たり前です。
 前述した自由党党首時代のあなたの核保有「恫喝」発言からしても、あなたは日本の安全保障について、強い危機意識をお持ちであると拝察します。
過ちを改めるにはばかることなかれ。
今後は持ち前の豪腕を発揮され、自民党の中のまともなタカ派と連携して政界再編する、という方向にぜひ民主党を引っ張って行っていただきたいものです。
 まずは、ご持論である、自衛隊と別組織の国連平和維持部隊構想を撤回され、集団的自衛権行使のための政府憲法解釈変更をお認めになり、その上で、(自民党の中川政調会長や麻生外務大臣に先を越されてしまったけれど、)改めてもう一度核保有「恫喝」発言をされることを強くお奨めします。
 開国政策をとった旧勢力の幕府が権力を失い、非常識にも攘夷の決行を唱えた新勢力の薩長が権力を掌握したからこそ、日本の真の開国と急速な近代化がなしとげられたという逆説的故事を踏まえれば、現在の日本の喫緊の課題であるところの、米国からの自立と体制の抜本的変革が、昭和のアンシャンレジームの残滓たる自民党に成し遂げられるはずがないのであり、私としては、頼りないことこの上ないけれど、いや頼りないことこの上ないからこそ、新興勢力たる民主党にこれまでずっと期待を寄せてきました。
 この私の期待を裏切らぬよう、小沢さんのご健闘を祈ります。

(完)