太田述正コラム#1682(2007.3.6)
<慰安婦問題で日本人に訴える>



1 始めに



 3日に「慰安婦問題の深刻化」と題してコラム#1679(未公開)を上梓した後、私の掲示板(http://sol.la.coocan.jp/wforum/wforum.cgi
)上である読者から公開を勧められました。
 熟慮の上、まず、このコラム#1679を上記掲示板上でのやりとり付きで公開した上、今回のこのコラムもただちに公開することにしました。
 これは、事柄の緊急性、重大性に鑑みた例外中の例外措置であり、有料読者の皆さんにぜひご容赦いただきたいと思います。



2 この件で孤立無援の日本



 (1)アルメニア人虐殺問責決議案



 ことの発端は、米下院における慰安婦問責決議案の上程だったわけですが、実はトルコに対するアルメニア人虐殺問責決議案も上程されています。
 第一次世界大戦でオスマントルコ帝国が解体された時(1915??16年)にアルメニア人が何十万人(数について争いあり)も死亡した事件(コラム#1451)については、欧米の学者はすべてトルコ当局による虐殺であったとしているのに対し、トルコだけが、オスマントルコに住んでいた人々は多かれ少なかれこの混乱期多大の犠牲を被ったとして、組織的計画的な虐殺などなかったと主張しています。
 トルコでは、現在でもアルメニア人が虐殺されたと主張すると刑罰を科されます。
 上記問責決議案の上程に、トルコは外相を米国に送り込んで決議阻止のロビイスト活動を行っています。
 トルコの軍部も、こんな決議が通ったら、米軍のイラクやアフガニスタンでの作戦に重要な役割を果たしている、トルコのインシルリク(Incirlik)空軍基地を米軍には使わせないことをほのめかしています。
 しかも、ワシントンポストは、この決議案上程の背後には、推進議員や下院議長の選挙区にアルメニア系の人が多いことを指摘しつつ、元駐トルコ米大使も決議案の採択に反対していることに触れ、更に、大部分の米下院議員の外国の知識のお粗末さ・・スンニ派とシーア派の違いが分かっている者は少ない・・を挙げ、1世紀近くも前に起こった事件について下院議員達がまともな判断ができるわけがない、とまで揶揄した論考(
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/03/04/AR2007030401047_pf.html
。3月6日アクセス)を掲載しています。



 (2)孤立無援の日本



 慰安婦問題については、強制連行を認めているのは、全く学問の自由のない中共の学者や、学問の自由が世論によって制約されている韓国の学者だけであり、日本では強制連行を否定する学者が大部分です。
 にもかかわらず、慰安婦問題問責決議案については、60年以上前に起こったことだ、等とそれに水をかける記事、論考は全く米国や英国の主要メディアには登場していません(注1)。



 (注1)英BBCの本件に関する掲示板に採用されなかった私の投稿を若干敷衍してニューヨークタイムスの本件に関する掲示板に投稿した下掲がようやく掲載された。
     Before arguing, please recognize the basic facts, folks. Japan had a culture of authorized brothels and top class prostitutes were sometimes highly esteemed, up to the period of the WW2. On the other hand, most of the country other than pre WW2 Japan have Victorian aversion, so to say,  against these stuff. Japanese Imperial Army followed this Japanese tradition and established brothels around the military bases abroad, and even expected rapes against the natives by their soldiers would be prevented by this measure. Total numbers of such prostitutes are estimated to be between 20,000 and 200,000, of which a research concluded roughly 70% were Japanese, 20% were Korean, 10% were Chinese. These prostitutes were all paid lavishly without discrimination irrespective of the ethnicity of the prostitutes.
     <仮訳>諸君、議論に入る前に基本的な事実を認識して欲しい。日本は公認売春宿という文化を持っており、最上級の売春婦達は時に高い尊敬を得ていた。他方、大部分の国は、先の大戦までの日本とは違った、この種の事柄に対する、ビクトリア朝的忌避感ともいうべきものを持っている。日本の帝国陸軍は、この日本の伝統にのっとり、外地の軍事基地の近くに売春宿を設立した。これにより、現地の人々に対する兵士による強姦が防止されることも期待した。かかる売春婦の総数は2万人から20万人と推計され、ある調査の結果によれば、内訳は約70%が日本人、20%が朝鮮人、10%が支那人であった。これらの売春婦は、人種によって差別されることなく、みな極めて高い報酬を得ていた。
 (注2)注1のニューヨークタイムスの掲示板への投稿第一号は、米国人とおぼしき人物による、
The Japanese despite the passage of time are extremely racist,esp.towards fellow Asians like Chinese and Koreans.One does not have to think of the “Rape of Nanking” or the “comfort women” to get an idea of this perverted group who pioneered Kamikaze suicide bombings and have a caste system that keep Borabaru(?) equal in status with the untouchables of India. They have an inferiority complex regarding their height and accent and try to ape Western values. The society is structured to the point of robot-like efficiency and after many visits to Japan, I feel embarrassed by their subservience to Western values. They owe the world big time apologies and need to revamp their values and give up their mistreatment of their own women.
 という代物であり、その余りのおぞましさに、到底翻訳する気になれない。



 元駐日米国大使も誰も声を挙げてくれていないと見えます。
 日本は米国でトルコほども友人がいないようですね。
 日本政府も、外相を米国に送り込んだり、米国や英国の主要メディアの論調(注3)にクレームをつけたり、もっと努力をすべきだと思いますが、これだけ日本が米国で孤立無援にしてしまったことの責任こそ重大です。



 (注3)一方的に日本政府を非難するものばかりが依然目立つ(
http://www.nytimes.com/2007/03/05/world/asia/05cnd-japan.html?pagewanted=printhttp://news.bbc.co.uk/2/hi/asia-pacific/6418337.stmhttp://www.ft.com/cms/s/2e899e9c-cadd-11db-b436-000b5df10621.html
。3月6日アクセス)。



 日本の学者や評論家も、日本の国内だけで強制連行がなかったと叫んでいても仕方がないのであって、これまで、もっと国際的な発信をしてきてしかるべきだったと思います。
 慰安婦問題問責決議案がアルメニア人虐殺問題問責決議案より問題なのは、それが日米関係をおかしくするだけでなく、日韓関係まで更におかしくする懼れがあることです。
 せっかく沈黙していた朝鮮日報まで日本政府批判を始めてしまいました
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2007/03/06/20070306000010.htmlhttp://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2007/03/05/20070305000010.html
(3月6日アクセス))。
 このままでは、日本政府が1993年の河野談話の(少なくとも)部分的否定に追い込まれたり、この談話に至る、当時の日韓両国政府間の取引(日本政府が強制連行を否定せず、謝罪すれば、韓国政府は爾後本件を持ち出さない)が明るみに出たりして、ノムヒョン政権が窮地に陥り、キチガイじみた反日政策を展開する可能性すらありえます。
 そこまで懇切丁寧に説明すれば、いかに国際知識が欠如した米下院の議員達と言えども、決議案の採択を思いとどまってくれる、と信じたいところです。



3 感想



 私の掲示板(http://sol.la.coocan.jp/wforum/wforum.cgi
)上で、拙著『防衛庁再生宣言』(日本評論社2001年)で展開した、吉田ドクトリンの申し子であるところの、見せ金としての自衛隊論に関する議論がようやく始まりましたが、日本の軍事に関する私の問題提起について、これまで6年間、私は全く孤立無援で発信を続けてきました。
 慰安婦問題についての日本が国際場裏で全く孤立無援であることとこのこととが、私には否応なしにオーバーラップして見えます。
 日本の皆さん。
 皆さんが戦後、米国の保護国に甘んじて、豚のように経済的豊かさだけを追求してきたツケが、慰安婦問題に係る日本への侮蔑と日本の孤立なのです。
 なさけなくないのですか。
 くやしくないのですか。
 少しでもプライドが残っているのなら、怒ってください。
 そして、立ち上がって行動してください。