消印所沢通信9:ここで会うたが6年目

               池波正太郎「剣客商売」シリーズより(うそ)

 その日…….
 秋山大地朗(だいじろう)は佐々木未冬(みふゆ)と連れ立って,
市ヶ谷田町の〔喜多川〕という店に,鰻(うなぎ)を食べに出かけた.
 大地朗の父,故兵衛(こへえ)から〔評判〕を聞いていたからである.
 大地朗にとり,鰻と言えば,丸焼きにしたやつへ山椒味噌をぬったり
豆油(たまり)をつけたりして食べさせる,江戸市中でも下等な料理と
されているそれしか知らぬ.
 まして,老中・田沼意次の娘である未冬にとっては
(一度も目にしたことのないもの)
 であった.
「〔喜多川〕のは違うのじゃよ」
 故兵衛は言うのである.
 近ごろ江戸では調理法も贅沢になってきてい,その店でも鰻を丸ごと
焼くのではなく,背開きにして食べようように切ったのへ串を打ち,これを
蒸銅壷(むしどうこ)にならべて蒸し,あぶらをぬいてやわらかくしたのを
今度はタレをつけて焼き上げるという.
 これをよい器へもって小ぎれいに食べさせる.
 これがうけて,つい先ごろ開業したばかりの〔喜多川〕は,押すな押すなの
繁盛ぶりであるとか.
(そのように父上が申されますならば,ものは試しに……)
 なのである.

 そして……
「鰻というものが,こんなにおいしいものとは存じませんでした」
 未冬は驚いたように言い,箸を進めている.
 だが,大地朗の箸が止まっていることにやがて気付いた.
 大地朗は,〔喜多川〕の奥の電脳席のほうを,じいと見やっていた.
 そこには,数人の男達が対峙していたからである.

 江戸ではネット喫茶なるものも増え,〔喜多川〕でも奥座敷がネット専用と
なっていた.ネット喫茶を定宿とする若衆も,近ごろではいるそうである.
 大地朗の,剣客としての研ぎ澄まされた感覚は,そのネットの中の戦いまで
察知することができたのである.

 ここで……
 はなしは,2月下旬にさかのぼる.
 とあるサイトの,
 【質問】 志方さんが言ってた,自衛隊が世界の軍隊でも6位くらいに
強いってのは本当ですか?
http://mltr.e-city.tv/faq05b.html#04620
という箇所に,いわゆる「自衛隊戦力ゼロ」説が追記された.
 それはこのようなものであった.

以下引用--------------------------------------------------------------

 まず陸上装備だが,対戦車機動攻撃力で見ると,千社の数こそ日本が
上回っているが,攻撃ヘリコプターは英国の3分の1しかない.
 仮に戦車と攻撃ヘリコプターの戦力比が価格比とイコールであると言う,
いささか乱暴な仮定を置けば,日本の対戦車攻撃力は英国の4分の3にしか
ならない(計算方法は次の通り).

 (1) 日本が調達している最新の戦車である90式戦車の1997年度単価は
935,741万円であり,最新の対戦車ヘリコプターAH-1Sの1998年度単価は
486,600万円である.

 (2) この価格で,日本および英国の現有戦車と対戦車ヘリコプターを
買いかえるとしたら,それぞれいくらかかるかを計算する.
 日本: 90機×4866+1050両×935.741=1420468.050(単位:百万円)
 英国:269機×4866+ 627両×935.741=1895663.607

 (3) 最後に,この経費の額と戦力が比例するものとして,両国の比率を
計算する.
 1420468.05/1895673.607=0.75

 他方,装甲機動防御力を見てみると,装甲偵察車,装甲歩兵戦闘車,装甲車の
合計が日本は940両であるのに対し,英国は2907両と3倍も保有している.(15)

 結局,日本の陸上兵力は,攻撃力はそこそこあるが,兵員の損耗を防止する
努力をハナから怠っていることになる.「見せ金」たる自衛隊の面目躍如という
ところか.

 次に海上装備である.
 人目見て分かることは,日本が,空母や揚陸強襲艦〔原文ママ〕を潜水艦等の
攻撃から守ることを主眼とする駆逐艦や,警戒監視ないし警察行動を担う
フリゲート艦の隻数だけはやたら多いが,肝心の空母や揚陸強襲艦といった
攻撃用の艦艇を全く持っていないことである.
 しかも,「航空」の中の対潜ヘリコプターのところを見ると,
対潜ヘリコプターの数も英国より少ない.
 対潜ヘリコプターの大部分は艦艇(駆逐艦やフリゲート艦艇)に搭載されて
運用されるが,対潜ヘリコプターの数が少ないということは,駆逐艦と
フリゲート艦の隻数は多くても,その対潜水艦作戦能力ないし哨戒能力が
英国よりも劣っているということを物語っている.
 つまるところ,日本の海上兵力は,船の数だけは揃えているが,
蜃気楼のようなもので,実態は殆ど何もないと言っても過言ではない.

 最後に航空装備である.
 日本の戦闘機の数は,英国の2.5分の1しかない.(16)
 しかも,日本の戦闘機パイロットは,燃料費を節約するため(!),
英国の3分の2の時間しか訓練していない.
 まことにお粗末な限りである.
 他方,英国の軍人が決まって嗤(わら)うのが,日本の保有する
固定翼対潜機の80機(かつては100機だった!)という数の多さだ.
 なんと英国の4倍近い.
 この数は,米海軍の固定翼対潜機(空母搭載の小型固定翼対潜機を除く)
244機の3分の1にもなり,堂々世界第2位である.(17)
 固定翼対潜機は陸上の飛行場から運用するが,いかに日本が排他的経済水域を
設定できる沿岸200海里水域が広い海洋大国だとは言っても,明らかに
固定翼対潜機の持ち過ぎである.
 攻撃ヘリコプターや対潜ヘリコプターの少なさについてはすでに触れた.
 要するに,現代の軍事力の中心が航空兵力であることに思いをいたせば,
日本の航空兵力は,(突出している固定翼対潜機は別として)あまりにも
弱体であると言わざるをえまい.

 以上は,あくまでも数だけの議論である.
 輸出もできず,国内でも競争に晒されていない日本の装備品は,価格が
高いだけでなく,米国等の装備をライセンス生産しているものはともかくとして,
日本で独自開発した装備品の大部分の性能に疑問符がついていること
――すなわち,仮に輸出が解禁され,それともあいまった価格を下げることが
できたとしても,他国に買ってもらえるものはほとんどないこと――も
忘れてはなるまい.

 〔略〕

 統幕をいくら強化しても,所与の防衛力の運用が,より効率的・効果的に
行われるだけのことであり,最初から陸・海・空防衛力の統合的部分,
共同部分に手抜きがあればどうしようもない.
 陸・海・空の共通部分(人事制度等)に欠陥があっても同様である.
 内局は,これら統合的部分,共同部分および共通部分のあり方を所管しており,
内局キャリアが仕事を全くと言っていいほどしていないため,統合的・
共同的側面において,自衛隊では徹底的に手抜きが行われており,
トータル・システムとしては,自衛隊の能力はゼロに等しいと思ったほうが
よかろう
(このことを説明することは,防衛上の秘密のベールがあって容易ではないが,
2節の「非常識がまかり通る防衛庁」中の「ITをめぐるドタバタ劇」から
推察いただけるだろう).

太田述正著『防衛庁再生宣言』(日本評論社,2001/7/5),p.38-42

----------------------------------------------------------------以上引用

 編者がたまさか,その本を読んでい,その箇所を引用したのだった.

 すると,たちまち何人もの反論が同サイトに寄せられた.
 その反論は
http://mltr.e-city.tv/faq05b.html#08007
に,別個にまとめられることになったが,要点はこういうことである.
 つまり……
 攻撃ヘリと武装ヘリを混同するなど,ゼロ説の前提となる数字が,実態に
即していない,というのである.
(前提となる数字が正しくないとすれば,その前提にもとづいて導き
出されている説もまた,怪しい)
のである.

 彼らはべつだん,個人的な恨みといったものがあるわけでは,ない.
 国粋的イデオロギーといったものも,ない.
 ただ……
 軍事に関する〔正しい知識〕の追求には人一倍貪欲である.

 かくして……
 両者は相まみえることとなった.
 ゼロ説の主張者である太田述衛門(すけえもん)は,
「6年後たって,ようやく議論に巡り合うたか.
 欣快に耐えぬわい」
と,薄笑みを浮かべつつ,静かに太刀の鯉口を切っている.

「いったい,どうなるのでござりましょう?」
 今や未冬も,大地朗と同じように,およその事情を察したのだが,そう,
大地朗に尋ねた.
 なんといっても,未冬も井関道場の四天王と称されるほどの
“女武芸者”である.剣客としての感覚も,大地朗同様鋭いものを持ち
合わせているのである.

 すると大地朗は,未冬,というより,その役を演じている寺島しのぶに
向かって言った.
「結婚相手のフランス人がプー太郎っぽいのはこの際,置いておくとして,
『シングリッシュ』は寒過ぎだと思うぞ」

(太田コラムでの反論に続く?)

コラムここまで--------------------------------------------------

 前略 所沢です.

 例のコラム,お待たせしました.

 「しまだ」氏に
>ここからお笑いを加味するのが腕の見せ所ですが(笑
と言われてましたので,急遽ギャグを加味することにしました.
 不適切と思われるのでしたら,「真面目型」にモード・チェンジしますゆえ,
ご遠慮なくその旨ご通知ください.


 現代文の文法上,奇妙に思われる箇所もあるかと存じますが,〔池波正太郎の
文体の再現〕のためですので,念のため.

 <凡例>(和田誠著『倫敦巴里』より.池波正太郎の文体で書く,
川端康成「雪国」)

『それは……
 文筆家・島村が,再び〔湯沢温泉〕を訪れるための汽車の旅であったが,
〔国境〕の長いトンネルを抜けると,
(あっという間に……)
そこは〔雪国〕であった』

 それでは,実りある議論を期待しております.
 草々
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 消印所沢さん、私信部分までご披露させていただいたことをお許し下さい。
 http://mltr.e-city.tv/faq05b.html#08007上での議論は、私の掲示板にも「しまだ」
さんによって転載されているので、関心あるむきはお読み下さい。
 私としては、上記議論・・拙著に事実誤認あり?・・について、消印所沢さんに、コ
ラムの形で、論点を整理した上でそれぞれの論点にコメントを加えていただき、その上
で、読者の方々に私の掲示板上で議論を続けていただければと考えています。
 私のコラムを愛読しておられる現役・OBの自衛官の方々にもこの議論に加わっていた
だくことを期待しています。
 消印所沢さん、勝手なお願いですが、一つよろしくお願いします。
 それはそれとして、私の「反論」は全く別の次元で行うつもりであり、近々コラムの
形でお目にかけます。