太田述正コラム#1686(2007.3.9)
<慰安婦問題余話(その2)>(2007.4.9公開)



4 つきつけられた選択



 情報屋台で、元朝日新聞論説委員の高成田享氏が、私の慰安婦問題のコラムにも言及しつつ、「米議会で日本政府に対して慰安婦への謝罪を求める決議案が出されていることをめぐって、安倍首相が苦しい立場におかれているようですね。・・安倍首相らに代表される「親米」と「保守」とがときに矛盾する場合があり、慰安婦問題もそのひとつだということを指摘したい・・日本で「親米」と「保守」を両立しようとすれば、不本意ながら、第2次大戦における日本の指導者の戦争責任を追及した東京裁判を認めるしかないし、朝鮮半島の植民地支配や中国への侵略を認めた「村山談話」も、そして「河野談話」も認めるしかないのだと思います。国内向けには、東京裁判は不当で、村山談話も河野談話も間違っているから見直すべきだと主張しておいて、米国に対しては、東京裁判は認めるし、村山談話や河野談話で日本は謝罪している、というのを使い分けるのは無理だと思います。論理的な矛盾をすっきりさせて「保守」を貫くには、・・米国と距離を置いて自主独立の保守を主張するしかないと思います。逆に、「親米」が国益にかなうというのであれば、村山談話も河野談話も認めるということから出発するほうが現実的ということでしょう。」と指摘しています(
http://johoyatai.com/?page=yatai&yid=50&yaid=362
。3月9日アクセス)。
 この指摘をより一般的な形で言い換えると、日本は、米国の保護国として米国の世界観や歴史観を受け入れ続けるのか、米国と自由・民主主義という基本的価値は共有しつつも、独自の世界観や歴史観を持った独立国になるのか、選択を、遅ればせながらつきつけられている、ということになろうかと思います。
 なさけないのは、こんな重大な選択を日本につきつけることになったのが、米下院での慰安婦問題問責決議案の上程であり、その決議案の肝いり役が以下のような取るに足らない人物であったことです。
 「この決議案を出したマイク・ホンダという下院議員と何度か話をしたことがあります。正直に言って、慰安婦に心から同情した、というような人道主義者とは思えませんでした。カリフォルニア州の選出ですから、選挙区には、アジア系の人たちがたくさんいると思います。日系ですが、選挙民には日系よりも中国系や韓国系が多いと思いますから、この問題を取り上げることは、票になるのだと思います。」(高成田上掲)



5 自民党政権に慰安婦問題について語る資格ありや?



 これに関連して問題になるのは、果たして安倍自民党政権がかかる重大な選択を行う資格を有するのか、ということです。
 というのは、伊吹文部科学大臣が、2月に、教育基本法改正に触れて、同法の前文に「公共の精神を尊び」という文言が加わったことについて、「日本がこれまで個人の立場を重視しすぎたため」と説明し、人権をバターに例えて「栄養がある大切な食べ物だが、食べ過ぎれば日本社会は『人権メタボリック症候群』になる」と述べ、安倍首相から何のお咎めもなかった(
http://www.amnesty.or.jp/modules/news/article.php?storyid=265
。3月9日アクセス)ことに象徴されているように、果たして安倍自民党政権が、自由・民主主義という基本的価値を米国と共有しているかどうか、疑問があるからです。
 慰安婦問題は、女性の人権が侵されたかどうかの問題ですが、2003年に太田誠一元総務庁長官(当時)が、早稲田大スーパーフリー事件で、「集団レイプする人はまだ元気があるからいい」、同じく2003年に井上喜一有事法制担当大臣(当時)が、佐世保市の小6女児同級生殺人事件で「元気な女性が多くなってきた」、2006年に森喜朗元総理が、「子供を一人も作らない女性が、好き勝手…、自由を謳歌して、楽しんで、年とって、税金で面倒見なさいというのはおかしい」、そして今年1月にに柳沢厚生労働大臣が、「女性は子供を産む機械」と発言した(
http://kukkuri.jpn.org/boyakikukkuri2/log/eid231.html
。3月9日アクセス)ことからして、現内閣の有力閣僚を含め、自民党の有力議員達のかなり多くが女性を蔑視していることは争いがたいのではないでしょうか。
 私は、伊吹、柳沢両大臣・・ご両人とも元大蔵官僚であることは偶然とは思えない・・をクビにしろとは言いませんが、安倍首相の任命責任は免れません。もっとも、女性を蔑視しないような自民党の男性有力議員は少ないため、選択の余地がないのかも知れませんが・・。
 いずれにせよ、こんな大臣連中を率いる安倍首相が、「慰安婦の狭義の強制連行はなかった」などと言っても、なかなか米国の人々は聞く耳をもたないでしょうね。
 ところで、朝鮮日報日本語電子版が、中山成彬元文部科学大臣について、大臣当時に「そもそも“従軍慰安婦”という言葉は(戦争当時)なかった。これまでなかったことが(教科書に)あるということが問題。(歴史教科書から)従軍慰安婦や強制連行などの言葉が減ってよかった」と言ったとした上で、彼が「「河野談話」を紙くずにしようとしている・・「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」の会長を務めている」とし、その「中山氏の妻は安倍首相の北朝鮮による日本人拉致問題補佐官を務めている。・・夫は自国の拉致犯罪を懸命に否定し、妻は北朝鮮の拉致犯罪を懸命に世に知らしめている。このような二律背反が現在の日本の姿だ。そしてこれを日本の指導層だけが理解していないのだ。」と締めくくる論説を掲載しています(
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2007/03/07/20070307000070.html
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2007/03/07/20070307000071.html
。3月8日アクセス)。
 中山夫妻はどちらも元大蔵官僚ですが、これはちょっと中山夫妻に厳しすぎる論説ですね。
 慰安婦問題を取り上げざるを得ない朝鮮日報の苦心の程が偲ばれます。

(完)