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太田述正コラム#1705(2007.3.26)

<新人材バンクのまやかし>(2007.4.29公開)



1 始めに



 現在の人材バンクについては、以前(太田述正コラム#1669で)触れたところですが、お化けメルマガのJMMで、主宰者の村上龍氏が、「「新・人材バンク」設立を軸とする・・公務員制度改革関連法案(改正案)・・は、実際のところ、どの程度の効果があるものなのでしょうか。」という問題提起をされています。

 いずれ、常連寄稿者達の回答がJMMのメルマガで配信されるのでしょうが、一足早く私の回答をここでご披露しましょう。





2 改正案の中身





 まだ確定しているわけではありませんが、報道によれば、改正案の概要は以下のとおりです。



 (一)「人事の一環」から「再就職の支援」への転換、(二)「各省縦割り」から「内閣一元化」への転換、(三)透明性と規律の確保、の3つの基本原則に則り、各省庁による再就職斡旋を全面禁止し、再就職斡旋を一元的に「新・人材バンク」だけに認める。官僚OBの再々就職についての各省庁による斡旋も禁止する。



 罰則が設けられるのは、(一)現職官僚が別の職員の離職に際し再就職を斡旋する目的で不正な行為をした場合(2年以下の懲役)、(二)現職官僚が別の職員に斡旋目的で不正行為を依頼・要求した場合(3年以下の懲役)、(三)依頼や要求を受け、官僚が再就職対象法人に圧力をかけるため怠業などの不正行為をした場合(2年以下の懲役)、等であり、自分自身の再就職のための不正行為も同様に懲戒処分対象となる。再就職斡旋を目的に情報提供したり、情報提供を依頼したりした官僚も懲戒処分の対象となる。



 一方、官僚OBの現職官僚に対する「口利き」も禁止。離職前5年間に担当していた職務に関し、不正行為を働きかけた場合には過料を科す。契約や処分、行政指導に関して不正行為を依頼した場合は、1年以下の懲役または50万円以下の罰金とする。



 人材バンク職員に出身省庁の官僚の再就職支援に当たらせないことや、各省庁と天下り先との直接交渉を禁止すること等も盛り込まれる。

 (以上、

http://www.sankei.co.jp/seiji/seisaku/070321/ssk070321000.htm

http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20070323k0000m010155000c.html

http://www.nikkei.co.jp/news/seiji/20070323AT3S2201O22032007.html

(いずれも3月23日アクセス)による。)





3 抵抗勢力との綱引き?



 自民党公務員制度改革委員長を務める片山虎之助参院幹事長は、自民党内の、各省庁と結託した抵抗勢力を代表するかのように、渡辺喜美行政改革担当相が主張する「2年」後に新新人材バンクに完全移行するというのは「短すぎて無理だ」と強調するとともに、新人材バンクのスタッフを出身省庁の再就職斡旋に関与させない政府方針については「元の省庁に帰れないノーリターンにしてしがらみを断った上で、一番詳しい出身省庁のことに関与させることも検討課題だ」と述べています(

http://www.tokyo-np.co.jp/flash/2007032401000184.html

。3月25日アクセス)。



 総理の意向を受けた改革派の閣僚と自民党抵抗勢力の綱引き、という、何度も見飽きた陳腐なドラマが再び国民注視の下で演じられているわけです。



 田中秀征氏は、「天下りの弊害は、「官製談合」や「耐震強度の偽装」などに如実に表れている。官僚の不祥事のほとんどが「天下り問題」に発していると言ってよい。近年、世論の厳しい目はこの1点に集中している感がある。」と正しい認識を示しつつも、各「「省庁の関与が残るか」と、「2年以内に新・人材バンクに移行するか」、この2点を厳しく注視しよう。」と、このドラマに感情移入してしまい、改革派にエールを送っています(

http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/column/shusei/070322_21th/

。3月23日アクセス)。





4 種明かし



 (1)新人材バンク設置の真の目的



 まことにお目出度い限りです。

 そろそろ種明かしをしましょう。

 新人材バンクなんて、まやかし以外の何物でもありません。

 どうしてか?



 懲役、罰金、過料、懲戒処分といった罰則が科されるのは、現在でも違法行為であるところの行為を官僚や官僚OBが行った場合だけであって、肝腎の各省庁による天下り斡旋そのものには罰則が科されないことに注目してください。



 そもそも、各省庁による天下り斡旋は職業紹介であって、業としてこれを行うことは、現在の労働法制の下では、許可(民間の職業紹介会社の場合)や届出(高等教育機関の場合)がなされていない以上、違法なのであり、当然各省庁設置法によっても認められていません。



 つまり、現在でも各省庁による天下り斡旋に携わった官僚は、本来懲戒処分の対象とされてしかるべきなのです。

 それなのにどうして改革案ではこれに罰則が科されないのでしょうか。

 今後は、新人材バンクが天下り斡旋を行うことから、各省庁が天下り斡旋を行う必要がなくなるので、各省庁による天下り斡旋を(罰則抜きで)禁止だけしておけば足りる、というタテマエなのでしょう。



 しかし、官僚機構や自民党のホンネはそんなところにはありません。

 新人材バンクの設立は、各省庁に、天下り斡旋という違法行為を、新人材バンクという隠れ蓑をつくることで、引き続き隠れて、しかし安心して行わせるとともに、その権益に官邸、ひいては自民党の有力政治家達が、新人材バンクなる一元的機構を通じてたかりやすくすることこそが真の目的なのです。



 これは決して下司の勘ぐりではありません。

 先例があるからです。



 自衛官の再就職斡旋は、かつては陸海空自衛隊が、それぞれヤミで、つまりは労働法制違反を犯しつつ行っていました。

 これを合法化するための隠れ蓑をつくることを主要な目的の一つとして、1979年に財団法人・自衛隊援護協会が設立されたのです。



 新人材バンクと違って、援護協会は官僚機構の外に設けられたわけですが、これは、援護協会そのものをも自衛官や文官(内局キャリアや当時の労働省等の事務官を含む)の天下りの新たな受け皿とするために協会の組織を肥大化させる必要があった(注)ことと、この肥大化させた組織を維持するための資金を防衛産業からも仰ぐためでした。

 

 (注)従って援護協会の職員は、まさに「元の省庁に帰れないノーリターン」組だ。



 この防衛庁の権益には手を触れないということなのでしょう、新人材バンクの対象から自衛官ははずすことになっています(

http://www.nikkei.co.jp/news/seiji/20070324AT3S2301N23032007.html

。3月24日アクセス)。



 ただし、これは援護協会がいらない、ということではありません。

 自衛官は、一般の公務員とは異なり、「任期制」か「若年定年制」の下にあります。

任期制とは一任期を2年若しくは3年として採用する制度であり、隊員の大部分は2ないし3任期の勤務の後、20歳代の前半で再び外の社会に出て行きます。

 また定年制自衛官として採用された人々や任期制自衛官から定年制自衛官に転じた人々も同様の理由からその99%は56歳以下の定年年齢(主体は54、55歳)で退職して行きます。



 このため任期制自衛官にあっては退職後の長い人生を支える再就職先の開拓、定年制自衛官にあっては年金受給年齢までの再就職先の確保が不可欠であり、本来防衛庁が業として自衛官の再就職斡旋を行ってしかるべきだからです。(このほか、再就職先の企業の理解なくしては維持できない即応予備自衛官制度もあります。)



 退職者の数だって、毎年数千から1万人とハンパな数ではありません。

 (以上、援護協会に関する事実については、

http://www.engokyokai.jp/framepage41.htm

http://www.engokyokai.jp/framepage24.html

(どちらも3月24日アクセス)による。)





 これは逆に、自衛官のような特殊事情のない一般の公務員を対象とする新人材バンクなど、(現在の人材バンク同様、)いらないということを示唆しています。

 実はこのことには、田中秀征氏もうすうす気がついているようです。

 「今回の天下り規制が基本方針通り実現しても、それはほんの一歩に過ぎない。そもそも税金を使って再就職をあっせんする必要があるのかも疑問である。」(日経BP前掲)と言っているからです。



 しかし、「本当に優れた人材なら、役所があっせんしなくても再就職先は引く手あまただろう。」(日経BP前掲)という理由付けはいただけません。

たとえ官僚としては優れていた人物であっても、まともな再就職ができるよう「人材」などほとんどいません。ですから、官僚を再就職させることなどあきらめて、年金を手厚くした上で、官庁による天下り斡旋を厳罰をもって禁じるべきなのです。(コラム#1663、1669)



<読者TY>

 基本的には定年まで役所にいてもらえばよい。後輩がやりづらいというなら、別の官庁に移ったら良いのではないですか。横の人事交流があったほうが良いでしょうし。



<読者DS>

 官僚天下り(失礼、再就職でしたね)のためにわざわざ金をかけて人材バンクを作り、しかも問題解決にまったくつながらないという視点は、どうしてマスコミに書かれないのでしょうね?

 けっきょく小泉さん時代と同じ宮内さん、南部さんの系統の仕事が増えるばかりというのは、うがった見方でしょうか。



 ところで、



>再就職させることなどあきらめて、年金を手厚くした上で、官庁>による天下り斡旋を厳罰をもって禁じるべき



 これには、反対です。それよりの早期退職制度を廃止して、官僚もきちんと定年まで勤め上げることを原則にすればいいでしょう。

そうするともちろん能力に応じて、ポストを処遇しないと組織が回らなくなるから、後輩に人事で抜かれるキャリアも多数出てくることになりますが、誇り高き方々には耐えられないことなのかな。



 60才まで勤めてもらえば年金もサラリーマン並みで大丈夫でしょう?



<太田>

>官僚天下り(失礼、再就職でしたね)のためにわざわざ金をかけて人材バンクを作り、しかも問題解決にまったくつながらないという視点は、どうしてマスコミに書かれないのでしょうね?



 マスコミも多くの大企業も、それぞれが官僚のそれと似た天下りシステムを持っているからでしょう。



>けっきょく小泉さん時代と同じ宮内さん、南部さんの系統の仕事が増えるばかりというのは、うがった見方でしょうか。



 ここは、もう少し説明していただきたいですね。



>>再就職させることなどあきらめて、年金を手厚くした上で、官庁>による天下り斡旋を厳罰をもって禁じるべき



>これには、反対です。それよりの早期退職制度を廃止して、官僚もきちんと定年まで勤め上げることを原則にすればいいでしょう。

・・60才まで勤めてもらえば年金もサラリーマン並みで大丈夫でしょう?



 TYさんもあなたも同じようなことをおっしゃっていますが、まず、私自身、官僚は定年まで勤めてもらうようにすべきだという考えであるのでお間違えなきよう。

 しかし、たとえそうしたところで、現状に比べて官僚の生涯所得は大幅に減るでしょう。

 私は、その分を(個人拠出分を増やさずに)まるまる年金で上積みすべきだとは言わないけれど、ある程度は(個人拠出分を増やさずに)上積みすべきだ、と思うのです。

 天下りの全廃で、税金の無駄遣いが大幅に減るのですから、その一部を使って年金を上積みすることができるはずです。

 これは帰するところ、どの程度の官僚の質の低下を甘受するか、ということであり、慎重に判断する必要があります。



 ところで、

http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-bike28mar28,0,244160,full.story?coll=la-home-headlines

は、大変やさしく読みやすい英語の記事です。

 日本のお巡りさんがいかにすばらしいか、外国人記者が驚きの念をこめて記事にしています。

 ぜひ読んでみてください。

 このお巡りさん達だって、現状ではやむなく、パチンコ業界関連団体等に天下りしています。

 年金を手厚くするのに反対だなんてケチなことは言わないでください。

 それは、彼らを「管理する」キャリア警察官僚の質を余り落とさないようにしてあげることにもつながりますよ。



<太田>

 「「はっきりしているのは、新人材バンクができても『天下りはなくならない』ということ」。元特殊法人労連事務局長で天下り問題に詳しい堤和馬氏は、こう言い切る。堤氏が最大の問題点としているのは、ノンキャリア組を天下り規制の対象としていないことだ。「(改革案に)書いてないことは、自由にできる」と解釈するのが役所流。再就職の窓口が一元化されても、ノンキャリアはこれまで通りに各省庁を窓口に民間企業に天下りができることになる。「そうなれば、そのノンキャリアを雇用した企業を通じて、一元化された窓口から容易にキャリアを呼び寄せることができる。要は、今までの省庁と業界の関係が、別動隊のノンキャリアを挟んでの“あっせん”という形で温存されることになる」(堤氏) 」

http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20070329/mng_____tokuho__000.shtml



 そう言えば、「ノンキャリア組を天下り規制の対象としていない」のでしたね。

 コラム#1705を書く時につい失念してしまいました。

 まさに、堤氏がおっしゃるように、安部政権は、「「官製談合事件の背景にある天下り問題に対する国民の根強い批判と改革を求める世論を意識し、選挙対策で、とりあえずポーズをつくっただけ」ですよね。

 新人材バンクなんて代物を自衛隊援護協会になぞらえたのは、援護協会に失礼でした。


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