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太田述正コラム#1745(2007.4.23)
<地球温暖化によるパラダイムシフト(その1)>(2007.5.28公開)

1 始めに

 地球温暖化をもたらす温室効果理論・・炭酸ガスや水蒸気は太陽光をほぼ完全に透過させるが太陽光によって熱せられた地球から発せられる赤外線は透過させない・・は1820年代に発見されていたのですが、これが科学者以外にも知られるようになり、深刻な問題と目されるようになったのは1980年代に入ってからでした。
 一つのエポックとなったのは、1988年の国連IPCC(the UN’s Intergovernmental Panel on Climate Change )の設置でした。
 (以上、Volume 13, Issue 2, Strategic Comments, IISS(4月4日アクセス)による。)
 この結果、社会や産業に大きなパラダイムシフトが起ころうとしています。

2 社会におけるバラダイムシフト

 社会においてパラダイムシフトが起ころうとしているというのは、これまでのような個別的環境保全運動の終焉が近づいている、ということです。
 海岸のエコシステムの保全は、地球温暖化による水没を前にしては意味を失いますし、北極圏における希少動物の保護は、地球温暖化によって北極圏から氷が消滅すると言われている今ではそれどころではないということになりますし、ダム建設反対は、地球温暖化によって豪雨や大干ばつの増加が予想される以上、無責任きわまるということになるからです。
 同様、原子力発電の危険性など、火力発電所が地球温暖化を促進することに比べれば受忍すべきだということになります。
 捕鯨禁止運動に至っては、希少動物の保護に名を借りた特殊な文化の押し付け以外のなにものでもないのであって、早晩雲散霧消することでしょう。
 (以上、
http://www.latimes.com/news/opinion/la-oe-clifford21apr21,0,3236897,print.story?coll=la-opinion-center  
(4月22日アクセス)による。)

3 産業におけるパラダイムシフト

 (1)総論

 とにかく、炭酸ガスの排出抑制が至上命題であるということになれば、既に触れたように原子力発電の復権は当然だということになりますし、まだまだ遠い夢であるとはいえ、核融合炉の開発にも自ずから力が入りますし、ハイブリッドエンジン搭載の乗用車がもてはやされるわけですし、バイオ燃料の増産・開発に血眼になるのももっともです。
 そして、これらすべてで日本が健闘していることは心強い限りです。
 
 (2)バイオ燃料

 ここでは、既に世界の農業や化石燃料関連産業にパラダイムシフトをもたらそうとしているバイオ燃料のことをご説明しましょう。
 バイオ燃料が救世主のように喧伝されているのは、植物から得られた燃料を燃やして発生する炭酸ガスは、植物が空中の炭酸ガスを太陽エネルギーを用いて光合成で取り込んだものであり、ネットで空中の炭酸ガスは増えないからです。
 化石燃料だってもとはと言えば生物の「死骸」であるところ、この生物には動物も含まれているけれど、動物の食糧源も食物連鎖を遡れば結局のところ植物であり、現在の世界全体の化石燃料消費ペースは、400年間にわたって植物からつくられた化石燃料を毎年消費している勘定であり、この400対1の消費ペースを1対1にすることできれば、それは究極のバイオ燃料ということになるわけです。

 問題なのは、現時点では、バイオ燃料の原料が、米国では主としてトウモロコシと大豆、欧州では主として亜麻の種子と菜種、ブラジルではサトウキビ、東南アジアではパームヤシ油であることです。
 これらの作物を栽培したり、バイオ燃料化するためには化学肥料の投下等、炭酸ガスの放出を伴う多大なエネルギー消費が必要であり、トータルとしての炭酸ガス放出減少効果がさほど大きくないことが第一の問題点であり、これらの作物すべてが食用にも供されることから、その価格が高騰してエンゲル係数の高い貧しい人々を困らせたり、増産の過程で作付け面積を拡大させるために原生林が切り開かれて貴重な光合成源が失われたり、といった懼れがあることが第二の問題点です。

 にもかかわらず、EUは、全交通機関の燃料を2010年までに5.75%、2020年までに10%をバイオ燃料に置き換える目標を設定していますし、米国も、今年、2017年までに24%をバイオ燃料に置き換える目標を設定しました。
 このようにバイオ燃料用の需要の増加が見込まれることから、早くも米国等でトウモロコシや大豆の価格が高騰しており、メキシコではトウモロコシを原料とする主食のトルティーヤが値上がりして社会問題になっているほか、日本でも大豆を原料とする豆腐の値上がりが必至であると言われています(21日深夜のNHKTV)。
 (以上、特に断っていない限り
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/story/0,,2043724,00.html 
(3月28日アクセス)、及び
http://www.greenleft.org.au/2006/688/35717
http://en.wikipedia.org/wiki/Biofuel 
(どちらも4月2日アクセス)による。)

(続く)

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