太田述正コラム#1792(2007.6.3)
<瀕死の自民党政権に安楽死を(続)>


 (本篇は、情報屋台用のコラムを兼ねているので即時公開します。コラム上梓は、情報屋台のルールでは一ヶ月2篇であるところ、5月に3篇も上梓したところですが、管理人の本件でもっと議論をという呼びかけに応じ、更に本篇を上梓させていただきました。)

1 始めに

 社会保険庁問題と松岡農相自殺を受け、安倍内閣の支持率が急減しました。
 しかし、5月中旬の調査に比べ、11.8%も落ち込んだとはいえ、まだ支持率は35.8%もあります。
 (以上、
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2007060201000515.html
(6月3日アクセス)による。

 どうしてその程度の落ち込みで済むのでしょうか。
 国民がこれらの問題の深刻さに気付いていないからだと私は思います。

 それも無理からぬ面があります。
 有識者の中でピンボケの評論をしている人が少なからず見受けられるからです。

2 有識者のピンボケ評論

 (1)お断り

 私は、日本のメディアや論壇を基本的にフォローはしていないので、たまたま目にしたお二方にしぼって、月旦をさせていただいたことをお断りしておきます。

 (2)水木楊元日本経済新聞論説主幹

 元日本経済新聞論説主幹の水木楊元氏は、コラムの中で次のように記しておられます。

 「松岡農相の自殺<は、>現職閣僚の自殺<として>は、現行憲法下では初めてだそうだ。死者を鞭打つつもりはないが、それにしても何というチマチマとした自殺であることよ。
 表立って責められたのは、事務所の使っていない光熱費を使っているかのごとく計上していた「偽経費」問題。そのほか、緑資源機構の談合にからみ、何やら 不正政治献金問題が捜査の対象になりつつあったのではないかという憶測もあるが、これもまた実際に表面化したわけではない。父母から受けた大事な命を捨て るほどの事柄か。法に違反した事実があるというのなら、あっさり辞めて別の人生を送ればいいし、ないというのなら、どんな攻撃に遭おうとも、居直ればいい ではないか。
 それにつけても、思うのはマスコミの皮相的な波状攻撃である。とりわけテレビと週刊誌は、このところほとんど末梢的ですらある。憲法問題、アジア 外交、少子高齢化対策、中央と地方の関係…。真正面から取り上げるべき骨太の問題がたくさんあるのに、揚げ足取りに似た問題を追って狂奔する。当人がたまりかねて自殺すると、カメラの前で、神妙な顔をして、アナウンサーやコメンテイターが「ご冥福をお祈り申し上げます」と頭を下げる。自殺する人間も人間だ が、一方通行の全体主義的皮相攻撃を繰り返す側も、みなチマチマとして矮小だ。
 チマチマ問題を取り上げるのは、それを視聴者や読者、ひいては国民が喜ぶからである。ということは、国民全体がチマチマと矮小化したことになる。
 大悪をなす者は大善もなす。少なくとも、なす潜在性を有する。水清ければ魚棲まず―とも言う。清濁合わせて呑む―とも言う。他人のアラを追うこと のみに熱心になり、重箱の隅を突くような攻撃を繰り返しているうちに、日本は国本来が有すべき男らしさを失っていくことだろう。」(
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20070531/126099/
。6月1日アクセス)

 確かに、安倍晋三首相が5月28日に、「<自殺した>本人の名誉のために言うが、緑資源機構に関しては、捜査当局から『松岡農相の取り調べを行っていた事実はないし、これから行う予定もない』という発 言があったと承知している」と述べた(
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2007052902019887.html
。6月3日アクセス(以下同じ))ことからして、水木氏の「チマチマ」説が裏打ちされたかに見えないでもありません。

 しかし、緑資源機構と瓜二つの防衛施設庁の官製談合事件の時も、検察は山のように証拠を握っていたにもかかわらず、キャリア官僚や国会議員の取り調べは行わなかったところ、緑資源機構に関しても、同じ捜査方針で臨んでいることが、目前に迫っている参議院議員選挙のことが心配で頭に血が上った首相が口を滑らせることで明らかになった、と私は深刻に受け止めています。

 このような捜査の自己規制の背景として、自民党の利権構造の農村型(土建業型)から都市型(IT・金融型)への組み替えがあり、これを演出しているのが自民党と癒着しているところの、日本の官僚機構を代表する旧大蔵省勢力であり、そのねらいは財務省と金融庁の再統合であり、財政再建(財政裁量権の回復による権力再構築)である、検察もこの話に一枚噛んでいる、可能性が高いという趣旨のことを、私は以前から(太田述正コラム#1285、1287等で)申し上げてきたところです。

 なお、水木氏はメディア批判を行っておられますが。その水木氏がキャリアを積まれた日本経済新聞は、日本語の経済紙としては独占的地位にあり、日本のメディアと政官業の癒着構造を象徴するような存在であることを付言しておきましょう。

 (3)片山善博前鳥取県知事

 本日(6月3日)早朝のTBSの「時事放談」を見ていたら、片山善博前鳥取県知事が、今問題になっている2事案の原因は、国家公務員の人事制度にあるのであって、早期退職制と(広義の)技術系冷遇制・・事務系キャリア官僚優遇制・・を改めれば解消する、という趣旨のことを発言されていました。

 片山氏は、「鳥取環境大学<の>経営体制を見直し、県立美術館は凍結、砂丘博物館は中止、そ してカニ博物館は大幅な規模縮小といった具合」に「前知事が残していったハコモノ事業<を>整理した」(
http://kabashima.exblog.jp/1390353/
)という、改革派の知事の代表格の一人であり、2任期8年で自ら知事職を退いたという点でも知られている人物です。

 しかし、ちょっと待ってくれと言いたくなります。
 片山氏は、旧自治省入省後、鳥取県への一回目の出向で二つの課長、二回目の出向で総務部長を勤め、その後、鳥取県知事に当選しています。
 知事選への出馬は回りに押されて、ということになっていますが、これでは一種の天下りであると言わざるをえません。
 しかも、2期知事を勤めてから、自治省の後輩で、鳥取県に出向して総務部長・副知事を自分の下で勤めた平井伸治氏に知事職を譲った形であり、これは、天下りの制度化である、という誹りを免れないでしょう。
 また、片山氏の「改革」も、何のことはない、上述の自民党・旧大蔵省の意向に忠実に従ったものに他なりません。
 当然のことながら、片山氏も平井氏も、自民・公明の全面的支援の下に当選しています。

 (以上、事実関係は、kabashima上掲、 
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%89%87%E5%B1%B1%E5%96%84%E5%8D%9A
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B9%B3%E4%BA%95%E4%BC%B8%E6%B2%BB
による。)

 つまり私に言わせれば、片山氏は、自民党政権の延命と出身官庁の天下り構造の構築・維持に貢献した人物なのです。

 このように、事務系キャリア官僚優遇制と早期退職制の恩恵を十二分に享受したご当人である片山氏に、これらの制度の改革を言われても、何の信憑性もないではありませんか。 
 事務系キャリア官僚優遇制は英国の官僚機構にもありますし、米国の国務省にもあります。合理性があるからです。ですから、廃止は言い易くして実行は困難です。
 また、早期退職制をなくしたとて、人間の金銭欲は無限です。
 実質定年延長の代わりに給与が削減されるとなれば、肩たたきされずとも、自ら退職して天下るでしょうし、定年まで勤めた者もまた天下ることでしょう。
 当然、官僚機構の自己規律が回復する・・有り体に申し上げれば、官僚機構が再びまともに仕事をするようになる・・こともまたありえません。
 
3 所見
 
 結局、政・官・業の癒着構造を根っこから絶つ以外に、方法はありません。
 そのためにも、この癒着構造の中枢であるところの自民党政権の打倒と、私がかねてから力説してきた国の自立・・政治と官僚機構の自己規律回復のための前提・・の二つが必要不可欠なのです。