太田述正コラム#1765(2007.5.11)
<サルコジ新フランス大統領>(2007.6.10公開)

1 始めに

 サルコジ(Nicolas Sarkozy。1955年〜)前仏内相が5月6日、フランスの新大統領に選出されました。
 サルコジがどんな人物で、サルコジの当選がいかなる意味があるか、ご説明したいと思います。

2 サルコジ?

 サルコジの父親はハンガリーの貴族の家に生まれたフランスへの難民であり、母親はギリシャ系のユダヤ人ですが、サルコジはパリ圏で生まれ育ったカトリック教徒です。
 父親がサルコジを含め3人の子供達を残して出奔してしまったため、彼は爾後母親の手で育てられ、フランス人の女性と結婚した時にユダヤ教からカトリックに改宗したところの、ドゴール心酔者の母方の祖父の強い影響を受けて人となります。
 彼は165センチと背が低かった上、子沢山の母子家庭であったために生活が決して豊かではなかった、という二重のコンプレックスを背負っていました。
 サルコジは、学業成績は余りぱっとせず、フランスの指導者としてはめずらしく高等行政学院(ENA)の卒業生ではなく、弁護士の資格を持っています。
 彼は、最初の妻との間に2人の子供がいますが強引に離婚し、離婚直後に結婚したところの、作曲家のアルベニスのひ孫でロシア人を父とする現在の妻との間に10歳の息子がいます。
 サルコジもこの現在の妻も、互いに不倫の噂が絶えません。一年前から別居していた二人ですが、最近はよりを戻しています。
 彼は弱冠20代で、彼の生まれ育ったパリ近郊の市の市長に当選し、20年近く勤めあげ、その任期の末期近くから中央政界で活躍して現在に至っています。
 彼は、これまたフランスの指導者としてはめずらしく、英語がしゃべれませんが、英国のブレア首相の政治思想とそのメディアを活用した政治スタイルとをともに尊敬していると言われます。
 (以上、
http://en.wikipedia.org/wiki/Nicolas_Sarkozy
http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/6631001.stm
http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/3673102.stm
(いずれも5月11日アクセス)による。)
 当選してから1時間後にサルコジはブレアに電話し、首相になる人物だとして上院議員のフィロン(Francois Fillon。53歳)を電話口に出しました。 フィロンが首相になれば、フランスの歴代首相の中で初めて英国人(ウェールズ出身)を配偶者とする人物ということになります。(http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/europe_diary/default.stm。5月10日アクセス)。
 
3 サルコジ当選の意味

 サルコジは、決選投票で53.1%の得票率を得て当選しましたが、投票率は84.8%にのぼり、これは1981年の大統領選挙以来の高投票率でした。
 フランスでは過去20年間に渡って投票率が長期低落傾向にあったのに、それが一変したことになります。フランスの政治アパシー状態に終止符が打たれた観があります。
 しかも、第一回目の投票を見ると、極右と極左に対する投票率が下がったことも注目されます。ファシスト的主張をしているルペン(Jean-Marie Le Pen)候補の得票率は2002年には18%もあったのに、今回は10%にとどまりましたし、共産党の候補は30年以上にわたって20%程度の票を集めてきたのに、今回は2%以下という有様です。
 最も注目すべきことは、上述したように、サルコジがアングロサクソン的自由主義の旗を掲げていることです。サルコジは、シラク現大統領の(対イラク戦に係る)反米国的スタンスに批判的でもあります。
 サルコジの当選は、フランスのドゴール主義的伝統、そしてジャコバン的伝統が二つながら終焉を迎えたことを意味する、と評する人もいます。
 (以上、
http://www.taipeitimes.com/News/editorials/archives/2007/05/09/2003360149
(5月10日アクセス)による。)
 果たしてフランス国民の期待に応えて、サルコジが、失業率9%、24歳未満の若者の失業率25%というフランスの現状(
http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/6631001.stm
上掲)を変えることができるか、お手並み拝見というところです。

4 早くもミソをつけたサルコジ

 ところが、サルコジの当選に怒った人々が暴動を起こし、連日何百台もの車に火をつけ、何百人もの逮捕者が出ているさなか、サルコジが豪華ヨットでマルタ島を訪問する3日間のバカンスに出かけたため、フランス人はバカンス好きであるにもかかわらず、左右両翼から批判の集中砲火を浴びてしまいました。
 この17人のクルーつきの12室もあるヨットは、フランスの13番目の大金持ちが所有しており、借りたら一日38,000米ドルはする代物ですが、サルコジ一家(本人と現在の妻とこの妻との間の子供)はタダで使わせてもらったというのです。
 「サルコジは大金持ちの味方か」、とか、「タダほど高いものはない。高額所得者への税金を低減させる等の便宜供与を迫られるのは必至である」、とサルコジが批判されるのも当たり前です。
 (以上、
http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/6638301.stm
(5月10日アクセス)、及び
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/05/09/AR2007050902622_pf.html
(5月11日アクセス)による。)

5 感想

 今までに比べれば進歩が見られるけれど、フランスの政治が英国の政治のレベルに追いつくことは、当分なさそうですね。