太田述正コラム#1808(2007.6.14)
<防衛庁再生宣言の記述をめぐって(続々)>

1 始めに

 バグってハニーさんのご尽力もあり、ようやく掲示板上での議論が、コラムに転用できるレベルまで達したようです。
 本篇も、引き続き即時公開します。

2 掲示板上での議論

<バグってハニー>
 JSF氏へのお願い。
 これまた差し出がましい行為ですが...。JSF氏に対して二つお願いがあります。
 私は週刊オブイェクトをよく読みますし、JSF氏は軍事に対して人並みならぬ造詣をお持ちであることは承知しております。ですから、氏の投稿は今まで読み込んできた数多くの資料に基づいてご本人が常識と思われる内容だけを書かれているのだと思うのですが、それでも典拠をつける努力は惜しまないで下さい。非常に理不尽なお願いだということも分かっています。でも、典拠がなければ第三者、特に門外漢にとってはJSF氏の主張が客観的に正しいのかどうかが確かめられません。
 太田コラムには必ず典拠が付いています。太田コラムはどれでもいいですが読んでみれば分かりますが、何本もの英文の記事を下敷きにそれを簡潔にまとめて訳して自分の意見を付け加える、という構成になっています。これ、私自分でもしたことがあるのですが、ものすごく骨の折れる作業です。それを太田先生は年がら年中毎日やってるんですから...。
 ところが、それを読んだどこの誰とも分からない輩がどこで仕入れてきたか分からない知識でもって掲示板で「お前の言ってることははトンチンカンだ」とやるわけです。典拠がなければ反論しようにもないし、そういうのは太田先生が相手にしないのも無理からぬことだと思います。少なくとも俺ぐらいの努力をしてきてから出直せと。今回、太田先生の運が悪かったのはJSF氏がただのどこぞの輩ではなくて非常に豊富な知識がある方だったということで。
 逆に、英国が果たして大軍縮したかどうかに関してJSF氏が典拠を付けたら初めて太田氏がまともな反論をしたでしょう。この人、いつもそんな感じです。
 というわけで、典拠をつけるのはこの掲示板の流儀ということで、太田先生、他の読者ともども重ね重ねお願いいたします。
 二点目はお願いではなくて提案なのですが、この掲示板、誰がどこで何を言ったのか、惨いことになっています。できれば氏の主張はまとめて一日一篇投稿するというのではどうでしょうか。もうお気付きだとは思いますが、太田先生との逐次的対話(一言コメントのやりあい)はうまく機能しません。主張は典拠をつけて掘り下げてとりあえず言いっ放しにするというほうがいいと思います。これは私が過去に太田氏とやりあった結果、学んだことです。
 太田先生は、ブログも掲示板も誰か用意してくれる人がいて始めて成り立っていることからも分かるとおり古風なアナログ人間です。画像を撮ってアップするなんて不可能です。私腰が重くて今回はミリタリーバランス・オンライン版で遡れるのは2002-3年版までだったのでその数値を持ってきましたが、どうしてもというのであれば図書館に行って古いのをスキャナとOCRにかけます。ということで、以上どうかよろしくお願いします。

<JSF>
http://obiekt.seesaa.net/article/44754397.html
 303 + 79 + 86 + 48 +7= 523機が予備機を含めた英軍戦闘機の数値となります。ホークT.1Aをカウントしても598機です。これに比較されるべき自衛隊の戦闘機の数は393機(予備機込み)です。
 ミリバラに載っている、英軍が予備機を含めない場合はホークT.1A無しで365機、入れて440機であり、これに対応する自衛隊の数値(予備機無し)は太田氏の言い分では300機となっています。
 中距離AAMを運用できる機体数(自衛隊は300機以上に対し、英軍はその半数以下)を比較すれば、戦力はむしろ自衛隊の方が・・・少なくとも空対空戦闘力では、上でしょう。更に言えばハリアーは亜音速機です。一方、日本側でカウントされている機体は全て超音速機です。

<バグってハニー>
 JSF氏。

 私の要望を聞き遂げていただいて本当にありがとうございます。太田氏の算定基準の問題点が非常によくわかりました。太田氏はコラム#1806ですでに「日本は英国の6割弱しかない」と下方修正されていますが、この根拠となっている英国の数字には保管機が含まれているのでさらに下方修正する必要があるようです。

 JSF氏の主張を下敷きに、私の方でもミリタリーバランスをもう少し読み込んでみたところ、ミリタリーバランスが言う戦闘用航空機(Combat aircraft)の内訳が判明したので、私は保管機抜きで計算してみたいと思います。ちなみに例によって数字は全て2002-3年版が元になっています。

 まず、英国から始めます。
シーハリアー 29機
T-4/T-8 5機(*)
以上、海軍計34機

トーネード 206機
ジャギュア 46機
ハリアー 60機
ニムロッドMR-2 20機(*)
以上、空軍計332機

以上、英国計366機

対する日本は
F-1 約20機
F-2 約20機
F-15J 約130機
F-4EJ 約50機
RF-4E/EJ 約20機(*)
F-15J/DJ 約20機(*、訓練用)
T-2 約20機(*、訓練用)
以上、空自約280機

 保管機を含めなくても、日本はやはり劣勢のような感じがしますが、ここで意外な伏兵の登場です。そうです。太田氏が同書で保有数の多さをバカにしたP-3Cです。英国にニムロッドを加えるのであれば、日本にもその必要があります。実際、ミリタリーバランスではP-3Cは戦闘用航空機に認定されています。

P-3C 80機
以上、海自80機
以上、日本計約360機

というわけで、この勝負引き分け。

 対潜哨戒機を含めるのはおかしいというのであれば、それをそれぞれ差し引くと英国346機に対して日本約280機となり、日本は英国の約8割の戦闘用航空機を運用していることになります。2000-1年版を用いても同じような比率になるのではないでしょうか。
 書いてて気付いたのですが、太田氏の著書では日本の戦闘用航空機の保有数が英国と比べて劣っていることが問題にされている一方で、日本が保有数で英国を凌駕している固定翼対潜哨戒機はバカにされているわけで、どうも英国がえこひいきされているような気がします。まあ、太田氏はもともと英国贔屓を公言して憚らない方ですが...。

<JSF>
>保管機を含めなくても、日本はやはり劣勢のような感じがしますが

 中距離AAMを運用できる機体の数を比べれば日本がイギリスを圧倒しています。航空自衛隊とイギリス空軍が戦闘を行った場合、航空自衛隊の圧勝に終わります。
 これは防衛型の軍隊と侵攻型の軍隊の違いです。イギリスは防空力よりも対地爆撃能力を望んだ。それがトーネードGR.4という選択です。(F.3でなければスカイフラッシュAAMを使えません。)

>保管機を含めなくても、日本はやはり劣勢のような感じがしますが、ここで意外な伏兵の登場です。そうです。太田氏が同書で保有数の多さをバカにしたP-3Cです。英国にニムロッドを加えるのであれば、日本にもその必要があります。実際、ミリタリーバランスではP-3Cは戦闘用航空機に認定されています。

 なぜ、ニムロッドやP-3Cを入れなければならないのですか。太田氏は著書で「戦闘機」と言っています。そして戦闘機と戦闘用航空機は意味が違います。

 「combatは戦闘でaircraftは飛行機だからcombat aircraftを「戦闘機」と訳してしまう人がいるが誤り。「戦闘機」はfighterの訳語で、敵航空機の撃墜を主任務とするものだけを言う。combat aircraftはもっと範囲が広く、なんらかの武装のある航空機をすべて含み、「戦闘用航空機」と訳す。」
http://homepage2.nifty.com/hnishy/militerms.html

 それに、ニムロッドがサイドワインダーを装備できるからといって戦闘機扱いすることに意味があるとは思えません。あれはフォークランド紛争でお互いの哨戒機同士が遭遇して、双方とも武装が無いから睨めっこして帰ってきた事例への対応策に過ぎませんから。
>対潜哨戒機を含めるのはおかしいというのであれば、それをそれぞれ差し引くと英国346機に対して日本約280機となり、日本は英国の約8割の戦闘用航空機を運用していることになります。2000-1年版を用いても同じような比率になるのではないでしょうか。

 では太田氏は著書を書き直す時にそのようにすべきですね。ブログの記事の主張もそのように変える。
 この辺が落とし所です。
 日英の中距離AAM装備可能機の数に触れて、総合的な空戦能力差に触れておけば尚良いです。

3 私のコメント

 (1)定義について

>英国の数字には保管機が含まれているのでさらに下方修正する必要がある

 バグってハニーさん。
 自衛隊に保管機がないからといって、それはないでしょう。
 本当に戦うことを考えている軍隊なら、予算不足で保有全機について要員や燃料費、修理費をかけられなくなった場合でも、できるだけ廃棄はせず、劣化しないような措置をとった上で予備機として保管しておくのが当たり前なのであって、それをやっていないことは、自衛隊が、いかに戦うことを考えていないか、より正確には戦うことを考えることを許されていないか、を示しているのです。
 保管機はカウントすべきです。

>「戦闘機」はfighterの訳語で、敵航空機の撃墜を主任務とするものだけを言う。combat aircraftはもっと範囲が広く、なんらかの武装のある航空機をすべて含み、「戦闘用航空機」と訳す。

 JSFさん。
 ミリバラに即して議論をしているのですから、ご自分の、どうやら通常の英和辞典に拠ったらしい定義を持ち出すのは止めましょう。
 第一、そんな「戦闘機」の定義では、自衛隊のF-1だって戦闘機に入らなくなってしまいかねませんよ。
 ミリバラは、Fighter(戦闘機)とは、「空中戦のための兵器・アビオニクス・性能に係る能力を備えた航空機(aircraft with the weapons, avionics and performance capacity for aerial combat)」(コラム#1806)に過ぎないとしているわけですから、主任務が地上(水上)攻撃である航空機であっても立派に戦闘機たりうるわけです。
 次に、ミリバラにおける、combat aircraft(戦闘用航空機)の定義については、

 「aircraft normally equippped to deliver air-to-air or air-to-surface ordnance. The 'combat' totals include aircraft in operational conversion units whose main role is weapons training, and traininng aircraft of the same type as those in front-line squadrons that are asumed to be avilabe for operations at short notice」

であるとご紹介した(コラム#1806)ところですが、ミリバラ2007が、「Armed maritime aircraft are included in combat aircraft totals.」(同PP11)としていることも踏まえると、ミリバラは、現実に武装しているかどうかは問題にしていないこと、空軍と海軍だけを対象としており、陸軍は対象とはしていないこと、従ってこのことから、武装ヘリは対象とはしていないこと、が分かります。
 
 ですから、

>戦闘用航空機<には>・・なんらかの武装のある航空機をすべて含<む>

 というJSFさんの定義は、現実に武装されていることを求めているという点では狭すぎる定義ですし、武装している(短期間で武装できるものを含む)すべての航空機を含めているという点では広すぎる定義です。

 (2)拙著をどう改訂するか

 上述の意味での「戦闘機」の日英機数比較を行うとすると、当然海上自衛隊のP-3Cは「戦闘機」にカウントできないとしても、英空軍の、ニムロッドの全部または一部はどうするのか(ただし、後述参照)、また、ホークの全部または一部はどうするのか、更には、バッカニアはどうするのか、といったことを逐一検証する必要があります。
 これは、航空自衛隊の(F-1は当然「戦闘機」としてカウントするとして、F-1と同じ機体であるところの、)T-2・・ミリバラはT-2全機を少なくとも「戦闘用航空機」と見ている(ミリバラ2000〜2001 PP201)・・をどう見るのか、とも関連してきます。

 こんな検証を行うのは大変だし、一義的な結論を出すのも困難である、ということであれば、「戦闘用航空機」の日英機数比較でもって、「戦闘機」の日英機数比較を代替させるしかないでしょう。
 その場合、対潜任務を主任務とする海上自衛隊のP-3Cと英空軍のニムロッドは、どちらもカウントすべきでない・・さもないと、これらを別途とりあげている日英比較表の根本的改訂につながってしまう・・と私は思います。

 仮に、このような考え方で、日英「戦闘機」ならぬ「戦闘用航空機」の比較をもう一度ミリバラ2000〜2001に即して行うと、(前回は、英海軍の「戦闘用航空機」をカウントするのを忘れていたこともあり、)英軍は、566-23(ニムロッド中ミリバラが「戦闘用航空機」にカウントしているもののみ)+55(英海軍の全「戦闘用航空機」)=598機になるのに対し、自衛隊は、331機変わらず、であり、拙著の本文(40頁)の「日本の戦闘機の数は、英国の二.五分の一しかない。」は、「55%しかない。」に改訂されるべきである、ということになります。