太田述正コラム#1824(2007.6.20)
<ほとんど脳死状態の日本>

1 始めに

 日本には現在、世界一長寿の男性と、世界一長寿の女性がいます(
http://www.taipeitimes.com/News/world/archives/2007/06/19/2003365932。6月20日アクセス(以下、特に断っていない限り同じ))。
 平均寿命で見ても、日本は世界一の長寿国です(
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life00/life-3.html)。
 この長寿国日本を、食事の欧米化による肥満(
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/06/18/AR2007061801466_pf.html
)という大敵が蝕みつつあります。
 しかし、より深刻な問題は、日本は、身体の方はまだもっているけれど、頭がほとんど脳死状態に陥りつつあることです。

2 日本のキャリア官僚の能力・志の低さ

 (1)公安調査庁長官のケース

 整理回収機構(RCC)が朝鮮総連(注1)に、破綻した朝鮮総連系の信用組合の不良債権の一部約627億円の返済を求めた訴訟で総連敗訴の公算が大きく、総連中央本部などが差し押さえられる可能性が高かったため、総連は、中央本部の所有権を移転して差し押さえを回避することを画策し、元公安調査庁長官の緒方重威弁護士や日本弁護士連合会元会長などの大物を動員したものの、売却代金が支払われないまま5月31日に所有権が移転されていた事実が発覚、東京地検が捜査に乗り出し、結局取引そのものがなかったことにしました。(
http://www.chosunonline.com/article/20070619000006
。6月20日アクセス)

 (注1)今では朝鮮総連の力は非常に弱まり、在日韓国・朝鮮人の中で朝鮮総連の会員は10%にも満たず、今なお活発に活動している会員は2万〜3万人にとどまる。

 この話は皆さんよくご存じのことと思います。
 総連が何をしでかそうと驚きませんが、私が驚いたのは元公安調査庁長官が易々と総連に利用されたことです。

 売却代金が支払われなかったのは、「購入資金を調達する仕切り役として登場した・・信託銀行元行員・・<は>、知人の<ある>投資顧問業者の名を挙げた<ものの、>この業者は「海外に60億の自己資金がある」「世界中にいる同志に声をかける」などと緒方氏を説得<しただけで>、5月31日に売却手続きを取った後も、代金<を>支払わ・・なかった。緒方氏が<この>業者と会ったのは一度だけ<であり、>名刺も「持ち合わせてない」ともらえず、具体的な素性やファンドの名前も知らされておらず、出資はあくまでも口約束だった。」ということのようです。
 そして、元行員、投資顧問業<等、>取引に登場した人物について緒方氏は、「今になってみると、すべてよく分からん人物。だまされたとは思いたくないが、乗せられたのかと思う。信用しすぎた、といわれても仕方がない」・・<と>力なく語っ<て>」います。(
http://www.sankei.co.jp/shakai/jiken/070619/jkn070619001.htm  
。6月19日アクセス)
 
 緒方氏は、元々は検事であり、公安調査庁長官の次のポスト(=最終ポスト)は広島高等検察庁検事長です(
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%AC%E5%AE%89%E8%AA%BF%E6%9F%BB%E5%BA%81
)が、人物の信頼性や情報の真偽を見分ける能力が全くない御仁であるとお見受けします。
 そういう人が、(検事長まで登り詰めた)検事として、タレコミ情報等の真偽を見きわめ、容疑者や参考人の証言の信頼性をみきわめる仕事をし、公安調査庁長官として、情報の真偽や情報提供者の信頼性を見分けるのが仕事であるところの調査官達を指揮監督していた、というのですから、日本の検察や公安調査庁そのものの能力のほどが推察できるというものです。

 緒方氏、ひいては検察や公安調査庁の能力に疑問符がつくだけではありません。
 朝鮮総連が、拉致にも関係した可能性が高く、戦後一貫して公安調査庁の調査対象となったきたというのに、しかも、総連系の信用組合の経営が行き詰まったのは、総連への違法な融資が最大の原因であり、その融資のほとんどは金正日へ送金されたとみられている(朝鮮日報上掲)というのに、緒方氏はどうやら、1,500万円欲しさにこの売国奴的行為に手を染めたらしい(
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2007061402023951.html
6月14日アクセス)(注2)、という志の低さを露呈しました。

 (注2)緒方氏は「中央本部会館は実質的に北朝鮮の大使館などの機能を果たしている。『追い出してしまえ』とすると、在日朝鮮人のよりどころがなくなる」と説明しているが、全く説明になっていない。緒方氏が・・自らの報酬について「着手金は1000万円で、年100万円を5年間受け取る予定だが、まだもらっていない」と話したのは語るに落ちた、と言うべきだろう。

 ここから、法務省キャリア一般の志の低さも推察できようというものです。

 (2)社会保険庁長官のケース

 このような、キャリア官僚一般の能力と志の低さが法務省だけではないことは、同じくこのところ世間を騒がせている歴代社会保険庁長官のケースを一瞥するだけで明らかでしょう。 
 この約20年の社会保険庁長官経験者のうち、7人が天下り先の公益法人などから退職金や月額報酬を総額約9億 3,000万円得ていたと報じられています(
退職金http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20070608k0000m040150000c.html
。6月8日アクセス)が、彼らが、長官在職中、全く仕事をしていなかったことは、彼らが公的年金制度の心臓部である社会保険庁の社会保険業務センター高井戸、三鷹両庁舎(いずれも東京)(注3)をロクに視察していない(
http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20070616k0000m010179000c.html
。6月16日アクセス)こと一つとっても明らかです。

 (注3)三鷹庁舎は、厚生年金約1億6,000万件分、国民年金約1億4,000万件分のデータなどを管理している。高井戸庁舎には、年金給付システムが配備され、年金受給者3,000万人の年金額を決定している。

 これは、厚生労働省キャリア一般が、その能力云々を論じる以前にそもそも仕事をやる気がないこと、そして当然のことながらその志が著しく低いことを推察させます。

 (3)まとめ

 防衛省キャリア一般の能力・志の低さは私が保証しますし、外務省キャリア、農水省キャリア、国土交通省キャリア一般の能力・志の低さも、様々な不祥事等を通じ皆さんの常識になりつつあります。
 しかも、このたび、法務省と厚生労働省キャリアの能力・志の低さまで露見したことになります。
 ということは、これは特定の省庁の問題ではなく、官僚機構全体に共通する問題らしいことが分かります。
 
3 ほとんど脳死状態の日本

 私は、拙著『防衛庁再生宣言』において、「戦後の日本は、・・<吉田ドクトリンの下で、>国が自立してい<ないため、>・・政治<が>矮小化<し、>国のリーダー<が>払底<してしまった。>」と主張しました(同53頁)。
 その現状は以上のとおりであり、今や日本はほとんど脳死状態であると言っても過言ではありません。
 私見では、戦後日本は、外交・安全保障を米国に丸投げしたために、政治家は払底してことごとく政治屋となり、官僚については、本来の仕事をやらせてもらえない防衛官僚や外務官僚は堕落し、国にまともな諜報機関がない状況下で基本的に国内に限定した対諜報ごっこをやらされている公安調査庁の士気はあがらず、戦前には内務官僚の一環として治安確保の観点から社会政策に真剣に取り組んでいた厚生労働官僚はやる気を失っているのです。そして、これらの悪しき風潮に法務本省官僚や農水官僚や国土交通省官僚等も染まってしまった、ということです。
 
4 終わりに

 日本をこの脳死に近い状態から蘇生させるためには、対症療法も併用すべき(注4)ですが、何と言っても根治療法を断行する必要があります。

 (注4)年金記録問題を解決するためには、国民総背番号制の導入が不可欠だ(JMM [Japan Mail Media No.432 Monday Edition)が、これは、脱税やマネーロンダリング等の防止にもつながり、安全保障にも資する。

 それが吉田ドクトリンの廃棄であり、憲法改正であり、その第一歩としての憲法解釈の変更であり、自衛隊の再生です。
 朝日的文化人の皆さん、大方の自衛官の皆さん、私は皆さんの回心に心から期待しています。