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太田述正コラム#1772(2007.5.18)
<暮れゆく覇権国の醜聞(続x6)>(2007.7.2公開)

1 始めに

 ウォルフォヴィッツ世銀総裁は17日、6月30日付で辞任することになりました。
 理事会による譴責ないしは解任が避けられないと見て、ついに白旗を揚げた形です。
 他方、理事会の方も、総裁の懇請を容れて、近々次のような内容の声明を出す予定です。
 「<総裁は、>倫理的かつ善意で世銀にとって最善の策と信じて行動したと確言した。われわれはこれを受け容れる。」
 分水嶺となったのは16日でした(注1)。

 (注1)14日に、理事会の臨時調査委員会がまとめた総裁の過ちを詳述した52頁にもわたる報告書が公表されたことも大きかった。

 総裁辞任を求める急先鋒となっていた欧州諸国も、ブッシュ政権と全面対決するのは躊躇していたのですが、この日の朝までにドイツ政府と英国政府が、全面対決も辞さないと腹をくくったことが一つ。
 もう一つは、2年前にウォルフォヴィッツを世銀総裁に送り込んだブッシュ米大統領が、それまでの頑なに総裁辞任を拒み続けていた態度を変えるシグナルを送り始めたことです。
 ブッシュは、離任挨拶に訪米したブレア英首相と臨んだ17日朝の共同記者会見の場で、「こんなことになったのを遺憾に思う。私はこの件ですべての関係者が善意で行動したと信じている」と述べたのです。
 (以上、特に断っていない限り
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/05/17/AR2007051700216_pf.html
(5月18日アクセス)による。)

2 最後まで醜態を演じ続けた日本政府

 米国財務省は、「総裁は不適切なことを行ったが、辞任には値しない。しかし、世銀内外の信頼を失った。」という事実上辞任を容認するラインで根回しを行ったのですが、先進7カ国の中で日本とともにそれまで総裁をかばう米国政府のスタンスに同調してきたカナダまでこのラインに難色を示し、15日の時点で、米国政府のスタンスに同調したのは日本だけになっていました。
 この事実をNYタイムスやガーディアンがとりあげた記事(
http://www.nytimes.com/2007/05/15/washington/15cnd-wolfowitz.html?_r=1&hp=&oref=slogin&pagewanted=print
http://www.guardian.co.uk/usa/story/0,,2080241,00.html
(どちらも5月16日アクセス))や、それより更に一歩を進めて、全理事国のうち、いまや日本だけしか米国政府のスタンスに同調していない旨を記したNYタイムスやファイナンシャルタイムスの記事(
http://www.nytimes.com/2007/05/16/washington/16cnd-wolfowitz.html?_r=1&hp=&oref=slogin&pagewanted=print 
http://www.ft.com/cms/s/bf91014a-03d2-11dc-a931-000b5df10621.html  
(どちらも5月17日アクセス))(注2)を読む度に私は穴があったら入りたいような気分になったものです。

 (注2)ファイナンシャルタイムス記事は、発展途上国中一貫して米国政府のスタンスに同調した来た南アもスタンスを変更したと記している。

 これでは、米国の保護国日本は、米国の下駄の雪ではありませんか。
 米国のスタンスに同調するならするで、全体情勢を見きわめつつ、落着点を模索する、といった様子が皆無なのですから・・。
 もちろん、下駄の雪に徹しつつ、密かに見返りを得ることを期していた、というのなら分からないでもありません。
 米国はかつて日本が独自に戦闘機(FSX)を開発しようとした時、露骨に圧力をかけてこの計画を潰したというのに、最新かつ現時点で最強の戦闘機であるF-22を日本にはリリースしない(
http://www.ft.com/cms/s/73b7ac0a-0261-11dc-ac32-000b5df10621.html  
。5月15日アクセス)という傍若無人なふるまいを保護国日本にしています。
 果たして、例えば日本政府は、見返りとしてこのF-22のリリースを密かに勝ち取ったとでも言うのでしょうか。
 ありえないでしょうね。

3 終わりに代えて

 ジャーナリストの古森義久氏の報道ぶりについては、かねてから高く評価している私ですが、氏が主としてウォールストリートジャーナルに拠りつつ、総裁擁護の論陣を張られていたのには、失望しました。
 氏は、総裁が、対イラク戦で果たした役割、及び総裁就任後の汚職追放や経費削減方針に反発する世銀内外の関係者の憎しみの対象となり、今回の「スキャンダル」が故意に拡大された、と指摘します。
 そして、リザが高給を与えられることになったことへの批判に対しては、第一に世銀の全職員約1万人のうち少なくとも1396人はライス米国務長官よりも高額の給与を得ていると、そして第二には、2004年頃まで世銀の専務理事だった中国人の章晟曼(Shengman Zhang)氏(中国政府を代表する理事として世銀に入り、副総裁から世銀ナンバー2の専務理事へと昇任した)の夫人も世銀勤務で、きわめて短期間のうちに年収5万2000米ドルから年収12万3000米ドルのへと昇給したという、ウォルフォヴィッツの愛人リザのケースより露骨な「情実昇給」の例がある、と反論します。
 (以上、
http://www.nikkeibp.co.jp/sj/column/i/48/03.html  
(5月9日アクセス)による。)
 しかし、私は以下のように考えます。
 第一に、どんな理由で追及されようと、また、追及する側も過ちを犯していようと、過ちは過ちであり、過ちを犯した責任が軽減されるものではない、ということです。しかも、総裁は世銀の頂点に立つ者として、世銀内外に範を示すべき立場であることを考えるべきでしょう。
 第二に、米国政府のポリティカルアポインティーの給料が安いのは、それが国家に奉仕するという名誉職であり、またそれがハクづけになって、辞めてからの再就職で十分「損失」分を取り戻せるからであり、多くが長期勤務である世銀職員の給料と比較することはおかしい、ということです。問題は、リザが「異常な」昇給を認められたことなのです。
 第三に、章晟曼氏自身が、そもそも、婚姻関係にある者同士が世銀で勤務することは認められており、愛人同士であったウォルフォヴィッツのケースとは全く違う、と反論しています(
http://www.nytimes.com/2007/05/03/washington/03wolfowitz.html?ref=world&pagewanted=print。5月4日アクセス)。章氏の名誉にかかわることだけに、古森義久氏はもう少し取材を尽くすべきだったと思うのです。

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