太田述正コラム#1791(2007.6.2)
<地球温暖化問題でのブッシュの豹変>(2007.7.22公開)

 (お中元じゃありませんが、このコラムもついでに公開します。2007.7.22太田)

1 これまでの経緯

 国連での5年間の審議の後、1997年に地球温暖化防止のための京都議定書(Kyoto Protocol)が調印され、2004年にようやく発効しましました。
 その内容は、2012年までに1990年の温暖化ガス排出量より5%削減することとし、実施に当たっては先進国とこれまで一人当たり温暖化ガス排出量が少なかった発展途上国は異なった扱いをすることとし、そのために温暖化ガス排出権の売買を認める、というものでした。 
 EUは2012年以降の目標として、これ以上の地球温暖化を摂氏2度に押さえることとし、そのために必要な温暖化ガス排出量の削減を2015年から2020年までに実現しようとおり、近々ドイツのハイリゲンダム(Heiligendamm)で開催される世界8カ国首脳会議での合意とりつけを目指して主催国ドイツのメルケル首相は、この案の根回しを行ってきました。
 この案を今年12月に開催される国連の会議に上程しようというのです。
 しかし、そもそも京都議定書そのものに反対してきたブッシュ政権は、このドイツ案にも拒否反応を示していました。 
 
2 ブッシュの提案

 そんなところへ、5月31日、ブッシュ大統領は、この秋から、温暖化ガス排出大国15カ国・・1位は米国で、中共やインドも含まれる・・の会議を開催し、各国ごとの温暖化ガスの排出量減少の中期的な目標の設定とクリーンな技術への投資の増大、について来年末までの間に合意を形成することを目指したい、という提案を行ったのです。
 これまで、地球温暖化の原因が人間にあることを認めず、温暖化ガス排出量の削減に反対してきたブッシュが、態度を豹変させたわけです。

3 この提案への反応

 (1)全般

 この提案に対しては、これまでずっと地球温暖化問題に取り組んできた人々からは、ブッシュは、まず自分は間違っていましたと謝罪すべきだったとか、ブッシュに地球温暖化問題で国際会議を主催させるなんてユダヤのヘロデ(Herod the Great。BC74?〜BC4?)王に保育園を開かせるようなもの(注1)だとか、この問題で新しい国際会議の必要性など皆無でありブッシュは国連の妨害をしようとしている、といった厳しい批判が投げかけられています。

 (注1)マタイの福音書(2:16〜18)に、ユダヤ人の王(イエス・キリスト)が生まれると聞いたヘロデがベスレヘムの男児を全員殺戮させた、とある。
 
 メルケル首相は、この提案に対し、一応歓迎の意思表示をしましたが、ドイツの環境相は、ブッシュ政権の姿勢が変わったのか、単に混乱を起こすことをねらったものか分からないと語りましたし、ドイツ外務省の関係者達の間からは、この問題で国連の主導的役割を否定しようとするブッシュの考え方にメルケル首相は絶対に同調しない、とか、ブッシュの提案は毒薬(poison pill)だ、という声が挙がっています。
 ハーパー(Stephen Harper)カナダ首相、ブレア英首相、安倍首相、及び豪州の外相は歓迎の意思表示をしました。

 (2)日本政府の反応

 ところが、日本政府の反応は、豪州政府とともに、ブッシュ提案に積極的に賛成している(塩崎恭久官房長官・鶴岡公二外務省地球規模課題審議官)という点で、ドイツ、カナダ、英国の各政府の反応とは明らかに異っています。
 そもそも安倍首相は、先週、温暖化ガス排出量を2050年までに半分に削減することを目標とする、包括的だが拘束力のない国際協定締結という構想を発表しています。
 米・中・印等をその気にさせるためにはこの方法しかない、というわけです(注2)。

 (注2)この構想には中共の温家宝首相も理解を示している。ちなみに、京都議定書調印国で、温暖化ガス排出量削減を義務づけられている諸国の排出量を全部合わせても世界全体の温暖化ガス排出量のわずか30%に過ぎない。

 しかしこれは、ブッシュ政権の「指示」を受けて、ブッシュ提案の露払い的に観測気球を上げさせられた可能性が大だといった類の批判が、環境保護団体の中から出ています。 また、ドイツ等に比べて日本の温暖化ガス削減実績が芳しくない・・日本は1990年水準から6%削減する義務があるが、現状ではまだ1990水準を14%も上回っている・・ので、次の協定を拘束力の弱いものにしようとしている、という穿った見方も一部で出ています。
 
4 感想

 世銀のウォルフォヴィッツ総裁を擁護した時もそうでしたが、地球温暖化問題での上記のような対応を見ていると、米国の保護国たる日本の悲哀を痛切に感じます。
 日本の外務省は、民主党の米下院議長であるペロシ(Nancy Pelosi)女史が、次の大統領が民主党から出たとしても、京都議定書的なものに米議会や米国民を同意させるのは、京都議定書について悪者イメージが米国で確立しているだけにむつかしい、と語っていること等から、ブッシュ政権に日本が最後のゴマすりをしても大丈夫だと判断しているのでしょう。
 しかし、米国世論もカリフォルニア州あたりから急速に変わりつつあり、ブッシュ政権のイラク政策と地球温暖化への姿勢を厳しく批判しているゴア前副大統領のような人物が時期大統領になる可能性だってないわけではありません。
 そうなった暁には、日本の安倍政権は世界の先進諸国の物笑いの種になることでしょう。

 (以上、
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/story/0,,2092953,00.html
http://environment.guardian.co.uk/climatechange/story/0,,2093000,00.html、  
http://environment.guardian.co.uk/climatechange/story/0,,2093055,00.html
(いずれも、6月1日アクセス)、
http://www.nytimes.com/2007/05/22/books/22kaku.html?8dpc=&_r=1&oref=slogin&pagewanted=print
http://www.ft.com/cms/s/65a1b7fe-1068-11dc-96d3-000b5df10621.html
http://www.nytimes.com/2007/06/01/opinion/01fri1.html?pagewanted=print
http://www.ft.com/cms/s/36296d3c-101d-11dc-96d3-000b5df10621.html
http://www.ft.com/cms/s/540776fa-1068-11dc-96d3-000b5df10621.html
http://environment.guardian.co.uk/climatechange/story/0,,2093815,00.html、 
http://environment.guardian.co.uk/climatechange/story/0,,2093804,00.html
(いずれも6月2日アクセス)による。)