太田述正コラム#1809(2007.6.14)
<英国の政体とその病理>(2007.8.3公開)

1 始めに

 名誉革命シリーズ(コラム#1794、1797、1798、1805)では、イギリス(英国)は、古来、議会主権の国であり、その議会が、自ら選ぶ国王(後には首相)に全権を委任するという政体である、と改めてご説明したところです。
 英サウディ不祥事シリーズ(コラム1799〜1801)の補足も兼ねて、その意味するところをもう少しご説明しましょう。
 
2 英サウディ不祥事と英国政体の病理

 BAE(注)がサウディのバンダル王子に賄賂を贈ってきたとされる事件・・ヤママ取引に伴う賄賂事件・・に関し、英BBCは6月11日、英国では、現在でも国防相がこの賄賂の提供に関し、四半期ごとに決裁をしている可能性が高いと報じました。

 (注)BAE Systems。私が1988年に英国の国防省の大学校(Royal College of Defence Studies)に「留学」していた時、同期生のうち一人だけ企業から派遣された人物がいた。それが、BAE(当時はBA=British Aerospace)のJ.W.君だった。BAEが英国政府といかに密接な関係にあるかがここからも分かる。

 また、フランスでさえ、1998年にOECDの対腐敗協定(OECD anti-corruption convention)ができて以降、8件もの国際賄賂事件が立件されているというのに、英国では1件も立件されていません。
 英国政府は、一貫して国際的賄賂を当然視しているようであり、従ってこの協定ができても、更に、2001年に英国の国内法でも国際的な賄賂が禁じられても、この協定や法律を履行しようとするつもりなどさらさらなさそうです。
 それどころか、歴代の英国首相は、率先して国際的賄賂を配り歩いてきた、とされています。
 例えば、それぞれ担当閣僚や官僚の反対すら押し切って、サッチャー首相は、1985年のヤママ取引のほか、高額の賄賂が動いたとされるマレーシアのダム案件を自分でまとめましたし、ブレア首相は、契約金額の三分の一が賄賂とされるタンザニアのレーダー案件を自分でまとめています。
 サウディがBAE製のトルネード戦闘機120機を買うこととなった1985年のヤママ取引は、サウディの国防とは何の関係もないのであって、サウディの石油収入を英国が資金洗浄してバンダルらのポケットに入れるためのものだ、という辛辣な見方さえなされています。
 このヤママ取引は、賄賂を捻出するために原価の約30%割高で締結されたと目されているところ、当時米国は、親イスラエル勢力の反対でサウディに戦闘機を売ることができず競争から脱落した後、唯一競争相手として残ったフランスに英国が最終的に勝利できたのは、フランスが英国のような巨額の賄賂の支払いを拒否したためだという噂がもっぱらです。
 (以上、
http://www.guardian.co.uk/Columnists/Column/0,,2101562,00.html  
(6月14日アクセス)による。)

 ここから見えてくるのは、英国では、首相が独裁的権力を握っており、条約や法律によって拘束されない、ということです。(英国には憲法がないので、当然憲法に拘束されることもありません。)
 それもそのはずです。
 まず、英国議会の多数派が首相を選出するのですから、首相は行政権も立法権もともに掌握しています。ここまでは議院内閣制の国ならどこでも同じです。
 しかし、英国では司法権も、この行政権と立法権を掌握している首相のコントロール下にある(コラム#1334)点が日本等の他の議院内閣制の国とは決定的に違います。
 つまり英首相は、三権を全て掌握している独裁者的存在なのです。
 その英国の歴代首相が、それぞれおおむね適切にこの独裁的権限を行使してきたからこそ、かつて英国は世界に覇を唱えることができ、また、いまだにEU内や世界において英国は大きな影響力を発揮しえているのです。
 ところが、稀に首相が不適切な形で独裁的権限を行使することがあるわけで、それが、1998年と2001年に首相であったブレアによるバンダルへの賄賂提供の継続です。
 これは、英国が、世界の自由民主主義国の中では極めてユニークな政体を持っていることがもたらした病理であると言えるのではないでしょうか。

3 英国の病理の断罪

 米国では、アングロサクソン本家たる英国のこのような病理を糾弾する動きが出てきています。
 ニューヨークタイムスは、6月14日付の社説で、英サウディ不祥事の捜査を拒むブレア首相を非難しました(
http://www.nytimes.com/2007/06/14/opinion/14thu3.html?_r=1&oref=slogin&pagewanted=print  
。6月14日アクセス)。
 できそこないのアングロサクソンたる米国だって、まんざら捨てたものではありません。